上 下
11 / 24

11 美女の来訪

しおりを挟む
「メルー!!久し振り。会いたかったわ!」

馬車から降りた美女は、いきなり私にハグをした。
勿論、美女の正体はソフィー様だ。

「こんな遠くまで、ようこそいらっしゃいました。
私もソフィー様にお会い出来て嬉しいです」


お客様を庭園に用意したテーブルに案内すると、侍女が紅茶と茶菓子を用意してくれる。

「後は私がやるから良いわ」

一杯目を入れたら下がるように指示した。
ソフィー様とのお話にはスタンリー公爵家の件が出るだろうから、侍女に聞かせるわけにいかない。

私達は、入れ立ての紅茶を一口飲むと、堰を切ったように話し始めた。

「それにしても、サミュエルは何を考えているのかしら。
魔力の器だって、まだ治ってないのでしょう?」

「聖女様が魔力提供してくださるそうですよ。」

「だから隣国へ行ってしまったの?なんて無責任なんでしょう!」

「聖女様は国を移る事は出来ませんから、一緒にいるにはサミュエル様があちらに移るしかありません。
国際問題になってしまいますから」

「公爵家は、幼い弟が継ぐのかしら」

「このままだと、そうなる様ですね」

公爵家の後継として育てられた彼が、その義務を年端も行かない弟に任せて、急に隣国へ渡ったのだから、確かに無責任な話だ。

「ところで、最近の王都の様子は如何ですか?」

「貴女達の事は、もうしっかり噂になってしまってるわよ。
メルは〝運命の恋人を聖女に奪われた哀れな令嬢〟なんですって。
実態は全く違うのにね。
あの人達、始める時は自分達の名誉に傷が付かないように、台本まで用意してメルに協力させた癖に、終わる時は平気でメルに不名誉な噂が立ちかねないやり方をするなんて、ちょっとどうかと思うのだけれど」

「聖女様に気を使ったのでしょうね。
私達は、世間的には愛し合う婚約者同士だと思われています。
私を気使い、そのせいで別れに時間がかかれば、聖女様も面白くないでしょうからね。
こちらとしても、今回の婚約で子爵家がとても助かったのは事実ですし、多少の事は仕方がないかと」

「これを〝多少〟って言うのは貴女だけじゃ無いかしら?
私は凄く腹が立ったけど、メルはあんまり怒っていないのね」

ソフィー様は眉根を寄せながら、チョコレートを口に放り込む。
怒った顔も愛らしいのだから、美人って得だなーと、関係のない事が頭を過ぎる。
私の代わりに怒ってくれる友人の存在は、素直に嬉しい。

「悲しみや悔しさはありませんが、虚しい気持ちにはなりました。
私達の間に愛は生まれなかったけれど、それなりに信頼関係があったと思っていたのです。
そうでなければ、三年以上もあんな生活続きません。
私はサミュエル様のお役に立っていた自負がありましたし、サミュエル様も私に感謝してくれていると思っていました。
でも、それは恋心の前には簡単に崩れてしまうのですよね。
なんだか、今迄の私の努力や、積み重ねた信頼が、全て無駄になったように感じてしまって」

「なんとなく、分かる気がするわ。
それにしても、こんなに可愛いメルと、あんなに長い事一緒に過ごしたのに惹かれないなんて、アイツ男としてどうかしてるんじゃないかしら?」

「・・・私を可愛いと思うのは、姉の欲目では?」

いつの間にか私も姉妹設定を受け入れてしまっている。

「そんな事ないわよ。リチャードだって・・・・・・」

「ウェイクリング様が、何か?」

「・・・・・・いえ、いいの。何でもないわ」

ソフィー様は少し慌てたように首を振った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

離婚された夫人は、学生時代を思いだして、結婚をやり直します。

甘い秋空
恋愛
夫婦として何事もなく過ごした15年間だったのに、離婚され、一人娘とも離され、急遽、屋敷を追い出された夫人。 さらに、異世界からの聖女召喚が成功したため、聖女の職も失いました。 これまで誤って召喚されてしまった女性たちを、保護している王弟陛下の隠し部屋で、暮らすことになりましたが……

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

聖女「王太子殿下と結婚したいです!」王太子「愛する婚約者と結婚出来ないくらいなら死ぬ!」話が進みません。

下菊みこと
恋愛
異世界から来た金目当ての聖女様。婚約者を愛する王太子。そして、王太子の婚約者のお話。 異世界からきた聖女様は金目当てで王太子と結婚したいと駄々を捏ねる。王太子は劇薬まで手に入れて断固拒否。しかし周りは二人の結婚に賛成のようで、王太子の婚約者は精神的に疲れ果てていた。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...