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28 侍女の実力
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眼鏡を取った私の素顔を見せるのは、ジョスラン殿下達が帰国なさる際の送別の夜会の時に決めた。
歓迎の夜会を開けなかった分まで豪華に催す予定のその日の夜会ならば、国内の貴族も殆どが出席するだろう。
数日前からカリーナが私の髪や肌の手入れを念入りに行ってくれて、準備万端の状態で夜会の当日を迎えた。
その日は朝から湯殿に放り込まれて、頭のてっぺんから爪先まで磨き上げられた。
湯上がりには薔薇の香りの香油をたっぷり使用したマッサージ。
そしてカリーナの魔法の手によって、いつもよりも丁寧な化粧とヘアメイクが施される。
ドレスや宝飾品はいつもの地味な物では無く、お母様とリベリオ様とカリーナがああでも無いこうでも無いと相談して、私に一番似合う物を選んでくれた。
支度が済んで姿見の中を覗けば、可憐な美女がそこに映っていた。
「…これ……、私?」
呆然と呟く私に、カリーナが自慢気にフフンッと笑った。
「だから言ったじゃないですかぁ?
姫様が着飾らないのは、人類の損失だって」
流石にカリーナの言葉は言い過ぎだと思うが、確かに鏡の中の私は自分でも驚く程に普段の私と違っていた。
決して厚化粧では無く、別人の様になったと言う訳でも無いのだが、私の長所を引き出し、短所を隠してくれているメイク術はとても秀逸で、カリーナの実力を改めて実感させられた。
私を迎えに来たリベリオ様は、着飾った私の姿を目にすると、片手で口元を覆って顔を逸らした。
「……リベリオ様?」
もしかして、似合わないのだろうか?
不安になって声を掛けると、漸くこちらを向いた彼の頬は朱に染まっていた。
「あまりにも、美しくて……。
普段の眼鏡をかけた貴女も可愛らしいですが、今夜の貴女は眩し過ぎて直視するのが難しいです」
「……褒め過ぎです」
「何を言ってるんですか。
いくら言葉を尽くしても、クラウディアの美しさは表現し切れないくらいですよ」
「~~~っっ!!」
過剰な褒め言葉に頬が熱を持ち、居た堪れなくなった私は、両手で顔を隠して俯いた。
何故だろう? これまで誰かにこんな風に褒められても、何とも思わなかったのに。
「ああ、可愛い……。
でもやっぱり心配ですね。扉の外を守っていたお二人が、新しい護衛の方ですか?」
「はい。二人共とても誠実で、上手くやって行けそうです。
夜会が終わったら、リベリオ様にも紹介しますね」
今日から眼鏡を外すので、新しい護衛の勤務も今日からとなっていた。
控え室の中は安全なので、今は部屋の外側で待機して貰っている。
「姫様、そろそろ会場に向かわれた方が宜しいかと」
イメルダに言われて、壁の時計を見上げた。
「あら、本当。もうこんな時間なのね」
「では、参りましょうか。俺の姫」
微笑みかけるリベリオ様の腕に手を添えて、控え室を出る。
なんだか戦場へ赴く様な気持ちだ。
気合いだけは充分だったはずなのだが……、
レナートとその婚約者に続いて、私とリベリオ様が入場すると、会場全体がどよめいた。
「え?誰?」
「リベリオ様がエスコートしてるって事は……」
「嘘っ!クラウディア王女!?」
いつも以上に注目されている。
あちこちからコソコソと聞こえる声に、怯みそうになるのをなんとか堪えて、微笑みを浮かべて見せる。
すると何故か一瞬だけ、騒めきが静まった。
「……?」
「クラウディアの微笑みが美しいから、皆見惚れているのですよ」
「まさか」
「本当です。私以外の男に無闇に微笑み掛けてはいけませんよ」
「ふふっ。ええ、気を付けます」
リベリオ様の言葉は冗談だとは思うが、他の男性と仲良くするつもりも無いので、素直に頷いた。
歓迎の夜会を開けなかった分まで豪華に催す予定のその日の夜会ならば、国内の貴族も殆どが出席するだろう。
数日前からカリーナが私の髪や肌の手入れを念入りに行ってくれて、準備万端の状態で夜会の当日を迎えた。
その日は朝から湯殿に放り込まれて、頭のてっぺんから爪先まで磨き上げられた。
湯上がりには薔薇の香りの香油をたっぷり使用したマッサージ。
そしてカリーナの魔法の手によって、いつもよりも丁寧な化粧とヘアメイクが施される。
ドレスや宝飾品はいつもの地味な物では無く、お母様とリベリオ様とカリーナがああでも無いこうでも無いと相談して、私に一番似合う物を選んでくれた。
支度が済んで姿見の中を覗けば、可憐な美女がそこに映っていた。
「…これ……、私?」
呆然と呟く私に、カリーナが自慢気にフフンッと笑った。
「だから言ったじゃないですかぁ?
姫様が着飾らないのは、人類の損失だって」
流石にカリーナの言葉は言い過ぎだと思うが、確かに鏡の中の私は自分でも驚く程に普段の私と違っていた。
決して厚化粧では無く、別人の様になったと言う訳でも無いのだが、私の長所を引き出し、短所を隠してくれているメイク術はとても秀逸で、カリーナの実力を改めて実感させられた。
私を迎えに来たリベリオ様は、着飾った私の姿を目にすると、片手で口元を覆って顔を逸らした。
「……リベリオ様?」
もしかして、似合わないのだろうか?
不安になって声を掛けると、漸くこちらを向いた彼の頬は朱に染まっていた。
「あまりにも、美しくて……。
普段の眼鏡をかけた貴女も可愛らしいですが、今夜の貴女は眩し過ぎて直視するのが難しいです」
「……褒め過ぎです」
「何を言ってるんですか。
いくら言葉を尽くしても、クラウディアの美しさは表現し切れないくらいですよ」
「~~~っっ!!」
過剰な褒め言葉に頬が熱を持ち、居た堪れなくなった私は、両手で顔を隠して俯いた。
何故だろう? これまで誰かにこんな風に褒められても、何とも思わなかったのに。
「ああ、可愛い……。
でもやっぱり心配ですね。扉の外を守っていたお二人が、新しい護衛の方ですか?」
「はい。二人共とても誠実で、上手くやって行けそうです。
夜会が終わったら、リベリオ様にも紹介しますね」
今日から眼鏡を外すので、新しい護衛の勤務も今日からとなっていた。
控え室の中は安全なので、今は部屋の外側で待機して貰っている。
「姫様、そろそろ会場に向かわれた方が宜しいかと」
イメルダに言われて、壁の時計を見上げた。
「あら、本当。もうこんな時間なのね」
「では、参りましょうか。俺の姫」
微笑みかけるリベリオ様の腕に手を添えて、控え室を出る。
なんだか戦場へ赴く様な気持ちだ。
気合いだけは充分だったはずなのだが……、
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「え?誰?」
「リベリオ様がエスコートしてるって事は……」
「嘘っ!クラウディア王女!?」
いつも以上に注目されている。
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すると何故か一瞬だけ、騒めきが静まった。
「……?」
「クラウディアの微笑みが美しいから、皆見惚れているのですよ」
「まさか」
「本当です。私以外の男に無闇に微笑み掛けてはいけませんよ」
「ふふっ。ええ、気を付けます」
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