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27 素顔を晒す決意
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「この後ご予定が無ければ、私の私室でお茶をご一緒して頂けませんか?」
その日の夕刻、学園から帰る馬車の中でリベリオ様にお願いをしてみた。
「予定はありませんので構いませんが、何かあったのですか?」
「ええ、少々ご相談したい事がありまして」
「分かりました。喜んでご一緒させて頂きます」
快諾してくれたリベリオ様と一緒に王宮の私室へ帰った私は、カリーナが淹れてくれた紅茶を一口飲むと、今朝の不愉快な出来事について話し始めた。
話が進むにつれ、隣に座っているリベリオ様の表情が剣呑さを増して行く。
「私がお側にいない時に、そんな事があったのですか……。
守って差し上げられなくて、申し訳ありませんでした。
ですが、丁度良いタイミングで、昨日陛下にジョスラン殿下の対処を全て任された所だったんですよ。
売られた喧嘩は買って差し上げなければいけませんね」
リベリオ様はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
昨日の謁見の内容は、やはりジョスラン殿下の件だったみたいだ。
とは言え、相手は腐っても王子殿下だ。
お父様はリベリオ様が対処出来ると判断したのだろうけど、大丈夫なのだろうか?
私の心中を察したのか、リベリオ様は安心させる様に私の頭をそっと撫でた。
まだ想いが通じたばかりなので、恋人同士の様な甘い空気が少し擽ったい。
「ジョスラン殿下は私の事を簡単に籠絡出来ると考えている節があります。
それが、なんだかとても腹立たしくて……。
いっその事、眼鏡を外した方が良いのかとも思っているのですが……」
ジョスラン殿下が私を侮っているのは、私の容姿を見て、『引き篭もりで暗くて地味な王女』という噂を真実だと思ったせいだろう。
ならば、素顔を晒してもっと堂々と王女らしく振る舞うべきなのかもしれないと思ったのだ。
私はずっと、自分は恋愛とか幸せな結婚とは無縁なのだと諦めていた。
だから、他人から『眼鏡の下は二目と見れられない程に醜いらしい』とか『何の取り柄も魅力も無い』とか言われても、何とも思わなかった。
軽んじられているのは私だけで、私が大切に思っている家族達(王族)を軽視する様な者はいなかったから。
家族が私のせいで心を痛めている事には気付いていたけど、魅了眼の件もあって何も言わないでいてくれたし、私もそれに甘えてしまっていた。
でも、今は違う。
私が馬鹿にされるという事は、私のパートナーであるリベリオ様も馬鹿にされるという事なのだ。
それだけは、どうしても我慢ならない。
彼の隣に立つ為には、私も強くならなければいけない。
リベリオ様は私の言葉を聞いて、少し考え込む様な顔をした。
「私もその方が良いとは思います。
貴女に関する事実無根の不名誉な噂は、腹に据えかねていましたし。
ただ、以前のストーカーの様な輩が増える心配はありますね。
一緒にいる時には私が必ず守りますが、婚姻前はずっとお側に居られる訳ではありませんので」
「その点でしたら、大丈夫だと思います。
護衛を二人増やす予定ですので」
護衛を増やす話は、少し前から持ち上がっていた。
魔力を捨てた事によって、色々な制約が無くなったので、私にもっと自由に行動して欲しいとお父様達はお考えになっているみたいで、それには護衛が一人だけでは心もとないのだ。
それに、私の側に近付く人間を光属性に限定しなくて良くなったので、護衛騎士の選定も以前より容易になったのだ。
「護衛、ですか?」
リベリオ様は少しだけ眉根を寄せて呟いた。
「リベリオ様?」
「………いや、済みません。
貴女の身を守る為に必要な事だとは分かっているんですが、他の男性が貴女に近付くのは、なんて言うか……、少し、複雑です」
そう言って、ちょっと拗ねた様な顔で目を逸らしたリベリオ様。
もしかして、嫉妬してくれてる?
どうしよう、私の婚約者が可愛い。
私は頬が緩みそうになるのを我慢しながら、彼を安心させる為に口を開いた。
「増員する護衛は、二人とも女性騎士ですよ。
一人はイメルダの妹で、火属性の魔力を豊富に持ち、攻撃魔法を得意とする騎士だそうです。
もう一人は期間限定で、お母様の護衛をしている女性騎士を私が嫁ぐまでの間だけ貸してもらう予定なのです」
二人とも、まだあまり親しく話した事は無いのだが、お母様やイメルダが太鼓判を押す人物なので信用して良いと思う。
護衛が実力のある女性騎士と分かって、リベリオ様はあからさまにホッとした表情になった。
「それなら良かったです。
私も、貴女に邪な気持ちを寄せる人間は、片っ端から容赦無く潰して行きますので、ご安心ください」
黒い笑顔を振り撒きながら高らかに宣言するリベリオ様に、私の従者二人はニコニコと頷いている。
いや、寧ろ心配しか無いです。
その日の夕刻、学園から帰る馬車の中でリベリオ様にお願いをしてみた。
「予定はありませんので構いませんが、何かあったのですか?」
「ええ、少々ご相談したい事がありまして」
「分かりました。喜んでご一緒させて頂きます」
快諾してくれたリベリオ様と一緒に王宮の私室へ帰った私は、カリーナが淹れてくれた紅茶を一口飲むと、今朝の不愉快な出来事について話し始めた。
話が進むにつれ、隣に座っているリベリオ様の表情が剣呑さを増して行く。
「私がお側にいない時に、そんな事があったのですか……。
守って差し上げられなくて、申し訳ありませんでした。
ですが、丁度良いタイミングで、昨日陛下にジョスラン殿下の対処を全て任された所だったんですよ。
売られた喧嘩は買って差し上げなければいけませんね」
リベリオ様はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
昨日の謁見の内容は、やはりジョスラン殿下の件だったみたいだ。
とは言え、相手は腐っても王子殿下だ。
お父様はリベリオ様が対処出来ると判断したのだろうけど、大丈夫なのだろうか?
私の心中を察したのか、リベリオ様は安心させる様に私の頭をそっと撫でた。
まだ想いが通じたばかりなので、恋人同士の様な甘い空気が少し擽ったい。
「ジョスラン殿下は私の事を簡単に籠絡出来ると考えている節があります。
それが、なんだかとても腹立たしくて……。
いっその事、眼鏡を外した方が良いのかとも思っているのですが……」
ジョスラン殿下が私を侮っているのは、私の容姿を見て、『引き篭もりで暗くて地味な王女』という噂を真実だと思ったせいだろう。
ならば、素顔を晒してもっと堂々と王女らしく振る舞うべきなのかもしれないと思ったのだ。
私はずっと、自分は恋愛とか幸せな結婚とは無縁なのだと諦めていた。
だから、他人から『眼鏡の下は二目と見れられない程に醜いらしい』とか『何の取り柄も魅力も無い』とか言われても、何とも思わなかった。
軽んじられているのは私だけで、私が大切に思っている家族達(王族)を軽視する様な者はいなかったから。
家族が私のせいで心を痛めている事には気付いていたけど、魅了眼の件もあって何も言わないでいてくれたし、私もそれに甘えてしまっていた。
でも、今は違う。
私が馬鹿にされるという事は、私のパートナーであるリベリオ様も馬鹿にされるという事なのだ。
それだけは、どうしても我慢ならない。
彼の隣に立つ為には、私も強くならなければいけない。
リベリオ様は私の言葉を聞いて、少し考え込む様な顔をした。
「私もその方が良いとは思います。
貴女に関する事実無根の不名誉な噂は、腹に据えかねていましたし。
ただ、以前のストーカーの様な輩が増える心配はありますね。
一緒にいる時には私が必ず守りますが、婚姻前はずっとお側に居られる訳ではありませんので」
「その点でしたら、大丈夫だと思います。
護衛を二人増やす予定ですので」
護衛を増やす話は、少し前から持ち上がっていた。
魔力を捨てた事によって、色々な制約が無くなったので、私にもっと自由に行動して欲しいとお父様達はお考えになっているみたいで、それには護衛が一人だけでは心もとないのだ。
それに、私の側に近付く人間を光属性に限定しなくて良くなったので、護衛騎士の選定も以前より容易になったのだ。
「護衛、ですか?」
リベリオ様は少しだけ眉根を寄せて呟いた。
「リベリオ様?」
「………いや、済みません。
貴女の身を守る為に必要な事だとは分かっているんですが、他の男性が貴女に近付くのは、なんて言うか……、少し、複雑です」
そう言って、ちょっと拗ねた様な顔で目を逸らしたリベリオ様。
もしかして、嫉妬してくれてる?
どうしよう、私の婚約者が可愛い。
私は頬が緩みそうになるのを我慢しながら、彼を安心させる為に口を開いた。
「増員する護衛は、二人とも女性騎士ですよ。
一人はイメルダの妹で、火属性の魔力を豊富に持ち、攻撃魔法を得意とする騎士だそうです。
もう一人は期間限定で、お母様の護衛をしている女性騎士を私が嫁ぐまでの間だけ貸してもらう予定なのです」
二人とも、まだあまり親しく話した事は無いのだが、お母様やイメルダが太鼓判を押す人物なので信用して良いと思う。
護衛が実力のある女性騎士と分かって、リベリオ様はあからさまにホッとした表情になった。
「それなら良かったです。
私も、貴女に邪な気持ちを寄せる人間は、片っ端から容赦無く潰して行きますので、ご安心ください」
黒い笑顔を振り撒きながら高らかに宣言するリベリオ様に、私の従者二人はニコニコと頷いている。
いや、寧ろ心配しか無いです。
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