【完結】愛を拒絶した王女に捧げる溺愛

miniko

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13 強くて弱い

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《side:リベリオ》


 俺の愛を求めないと言うのなら、今迄付き合った女性の様に、研究の邪魔にはならないのだから、俺にとっても好都合なはず。

 だけど───、

 この縁談を進めて、もしも、この先クラウディア様を本気で好きになったとしても、それを言葉にも態度にも出す事は許されない。
 彼女を好きになればなるほど、苦労する事は目に見えている。
 気持ちを殺してまで、好きな人の事を守るなんて、果たして自分に出来るのだろうか?

 今思えば、そんな事を考えている時点で既に彼女に惹かれ始めていたのかもしれない。


『断るべきだ』と俺の中の冷静な部分が訴える。

 その訴えを無視してまで、正式にこの話を受けてしまったのは何故か。
 勿論、研究所の件も魅力ではあった。
 だが、危うい所があるクラウディア様を放って置けないと思ったのが、最大の理由だったのかも知れない。

 生まれ持ってしまった望んでもいない能力に、振り回される彼女が可哀想だと思った。
 まだ年若い女の子が、恋もお洒落も楽しむことが出来ず、大きな秘密を抱えている。
 しかも、友人も作れない彼女にとって頼れる人間はごく少数なのだ。
 それでも前を向こうとする彼女を、支えてあげたかった。





 それから異例のスピードで婚約発表の夜会の準備が進められた。


 控え室の扉を叩くと、誰何の声もなく入室を促される。
 部屋に入ると、真っ先に着飾ったクラウディア様が目に入った。
 いつも三つ編みにされただけのピンクブロンドは、複雑な形に結い上げられているが、顔の印象の大部分を占める眼鏡は今日も健在だ。

「少しだけ取って見せて頂いても?」

 一か八かの提案は受け入れられ、俺は初めて彼女の顔を見る事が出来た。

 レンズの下に隠されていたアメジストの瞳は思ったよりも大きく、キラキラと輝いてる。
『絶世の』とか、『傾国の』と表現されるほどでは無いかも知れないが、王妃様に似た面差しの彼女は確かに美少女だった。

(ああ、やっぱり美しい)

 反射的に出てきそうになった褒め言葉を慌てて飲み込んで、無表情を貫いたのは、彼女の瞳が不安気に揺れている事に気付いたから。
 恋愛感情を恐れる彼女は、容姿を褒められる事も厭うのかも知れないと察した。

「何故、いつも伊達眼鏡を?」

 飲み込んだ言葉の代わりに素朴な疑問を投げ掛けると、彼女は得意気に答えてくれた。

「ブレスレットをしていても、稀に私に強い恋情を抱く人が居ます。
 私は魔力量がかなり多いらしいので、魔道具だけでは抑えきれないのかも知れませんね。
 でも、ダサい格好をしていると、誰も私の瞳を覗き込んだりしないので、魅了は発動しません」

 良いアイデアでしょう?とでも言い出しそうなドヤ顔に、溜息が出そうになる。

「いや、それは───」

 魅了が漏れているのではなくて、単純に貴女が可愛いせいでしょう?

「なんですか?」

「いえ、良いです。なんでもありません」

 だが、彼女のトラウマを考えると、その真実も、やはり口に出す事は出来なかった。


 夜会の開始が近付くに連れ、彼女の緊張感は高まっている様だった。
 しかし、会場に一歩入った途端、彼女の纏う空気は一瞬でガラリと変わった。
 先日の見合いの時と同じ様に、気品溢れるオーラを放ち初める。

 それでも、陛下から婚約の発表があり、会場がどよめいた時には俺の腕に添えていた手に、ギュッと力が入る。
 エスコートをしている俺にしか感じ取れない位の、微かな怯え。

「大丈夫ですよ」

 そっと囁くと、彼女の口元に仄かな笑みが浮かんだ。


 更に、彼女を連れてホールへ降りると、俺達は多くの不躾な視線に晒された。
 彼女を軽んじる者達に苛立っていると、無礼な令嬢達の噂話が耳に入って来る。
 流石に捨て置けないと思った俺に、彼女は言った。

「良いのです。こういった類の悪口は慣れていますから」

 は?
 慣れてるって何だ?
 こんな風に本人に聞こえる様に、悪口を言う奴がいるのか!?

 クラウディア様はまだ学生だ。
 もしも学園の内部でこんな扱いを受けているとしても、俺は何も出来ない。
 無力感に苛まれる俺に彼女は言った。

「黙って見ていて下さいね」

 そしてクラウディア様は悪口を言っていた令嬢達の元へ真っ直ぐに向かうと、言葉を発する事さえ無く、微笑み一つで彼女達を黙らせて見せたのだ。
 背筋を伸ばして、真っ直ぐに前を見る横顔は凛としていて───。

 だが、俺の腕に添えられた彼女の手は、ほんの少しだけ震えていたのだ。

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