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5 白い結婚か否か
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「……では、王女殿下は契約結婚、いわゆる白い結婚をお望みと言う事だったのですね」
質問とも言えないようなフォルキット伯爵の断定的な言葉に、私は慌てて首を振った。
「いえ、それについては、フォルキット伯爵のご希望に合わせたいと思います。
正妻が子を産んだ方が良ければ頑張りますし、他の方と恋愛関係を築きたいのであれば、白い結婚にして外で子供を作って頂いても構いませんよ」
私の答えを聞いた伯爵は、少し意外そうな顔をした。
「出来ますか?子を作る行為が?私と?」
「はい。多分」
「いや、どういう行為をするかちゃんと分かってます!?
閨教育受けてますか?」
簡単に肯定した私に、彼は呆れた様に言い募った。
こう見えても、私だって一応十七歳の王女なのだ。
嫁ぐ予定は無かったとは言え、念の為閨教育くらいは受けているし、何が行われるかは知っているつもりだ。
勿論、実践経験は無いのだから、絶対に大丈夫とまでは言えないけれど。
寧ろ、そちらこそ出来るのかと問いたい位である。
相手は地味王女の私なのだから。
「私が怖いと思うのは恋愛感情を向けられる事であって、異性に触れられる事では無いので、おそらく行為自体は大丈夫かと。
実際に貴族の中には、愛情は無くても信頼や利害関係の絆で結ばれて、子を成す夫婦も沢山いらっしゃいますし。
未知の行為に対する恐怖心はありますが、それは…所謂……その、乙女であれば、皆感じでいる程度の不安だと思いますよ」
「はあ、そうでしょうか…」
私は力強く頷いた。
「勿論、外で恋愛をなさる場合は、貴方の恋人にも子供にも不自由はさせません。
残念ながら正妻の立場をお譲りする事は出来ませんが、その代わりに私に出来る事は何でも……」
「いや、そこは張り切らないで良いですから!」
食い気味に私の言葉を止めた伯爵は、大きく溜息をついて頭を抱えた。
「お疲れですか?」
「主に貴女のせいでね」
「まあ、それは申し訳ありません」
私のせいという理屈は良く分からなかったが取り敢えず謝罪をすると、伯爵は諦めた様な視線を私に向けた。
「もう良いです。
王女殿下は少しズレていらっしゃる様だ」
ボソッと零された言葉は、私には良く聞こえなかった。
「何と仰いましたの?」
「何でもありません。
ところで、王女殿下…」
「その呼び方は堅苦しいですね。出来ればクラウディアとお呼び下さいませ」
「クラウディア様。では私の事はリベリオと。
それでですね……、先程、恋心が無ければ触れられても大丈夫と仰いましたが、試してみても宜しいでしょうか?」
何をするつもりなのだろうか?
私は少しだけ思案して、答えを返した。
「初めての顔合わせをしたばかりの関係として、不適切で無い範囲内であれば」
「では、失礼。お手に触れても?」
「どうぞ」
私が差し出した手を取ったリベリオ様は、指を絡ませてキュッと握った。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
「ではこれは?」
そっと持ち上げた私の手の甲に、軽く触れる口付けが落とされた。
「嫌じゃないですか?」
「全く嫌では、ない、です……けど…」
(ええぇぇぇ……!?)
顔を上げたリベリオ様の頬が、見る見る内に真っ赤に染まって行く。
「スミマセン……クラウディア様が、あまりにも無反応なので、逆に恥ずかしくなってしまいました。
慣れない事をするもんじゃないですね」
フゥッと小さく息を吐いた彼は、そっと視線を逸らして呟いた。
いや、私より乙女かっ!!
こっちまで照れるわっ!!
取り敢えず、リベリオ様に触れられる事に嫌悪感は無い事が証明された。
勿論、閨を共に出来るかどうかは、また別の話かもしれないけれど。
「リベリオ様。他に確認して置きたい事はございますか?」
「そうですね……王女殿下の降嫁先として、伯爵家では身分が低過ぎないですか?
光属性が条件なのは分かりましたが、公爵家や侯爵家にも確か居ましたよね、光属性のご令息」
「ええ。ですが、婚約者の有無や人柄、功績などを考慮して選ばせて頂いた候補者の中には伯爵家の方も含まれています。
それに、リベリオ様は近々侯爵に陞爵される予定ですよ」
「は……!?初耳ですが」
十歳も年上の男性なのに、ポカンとしたその表情はなんとも可愛らしい。
「ええ、今初めてお知らせしましたもの」
質問とも言えないようなフォルキット伯爵の断定的な言葉に、私は慌てて首を振った。
「いえ、それについては、フォルキット伯爵のご希望に合わせたいと思います。
正妻が子を産んだ方が良ければ頑張りますし、他の方と恋愛関係を築きたいのであれば、白い結婚にして外で子供を作って頂いても構いませんよ」
私の答えを聞いた伯爵は、少し意外そうな顔をした。
「出来ますか?子を作る行為が?私と?」
「はい。多分」
「いや、どういう行為をするかちゃんと分かってます!?
閨教育受けてますか?」
簡単に肯定した私に、彼は呆れた様に言い募った。
こう見えても、私だって一応十七歳の王女なのだ。
嫁ぐ予定は無かったとは言え、念の為閨教育くらいは受けているし、何が行われるかは知っているつもりだ。
勿論、実践経験は無いのだから、絶対に大丈夫とまでは言えないけれど。
寧ろ、そちらこそ出来るのかと問いたい位である。
相手は地味王女の私なのだから。
「私が怖いと思うのは恋愛感情を向けられる事であって、異性に触れられる事では無いので、おそらく行為自体は大丈夫かと。
実際に貴族の中には、愛情は無くても信頼や利害関係の絆で結ばれて、子を成す夫婦も沢山いらっしゃいますし。
未知の行為に対する恐怖心はありますが、それは…所謂……その、乙女であれば、皆感じでいる程度の不安だと思いますよ」
「はあ、そうでしょうか…」
私は力強く頷いた。
「勿論、外で恋愛をなさる場合は、貴方の恋人にも子供にも不自由はさせません。
残念ながら正妻の立場をお譲りする事は出来ませんが、その代わりに私に出来る事は何でも……」
「いや、そこは張り切らないで良いですから!」
食い気味に私の言葉を止めた伯爵は、大きく溜息をついて頭を抱えた。
「お疲れですか?」
「主に貴女のせいでね」
「まあ、それは申し訳ありません」
私のせいという理屈は良く分からなかったが取り敢えず謝罪をすると、伯爵は諦めた様な視線を私に向けた。
「もう良いです。
王女殿下は少しズレていらっしゃる様だ」
ボソッと零された言葉は、私には良く聞こえなかった。
「何と仰いましたの?」
「何でもありません。
ところで、王女殿下…」
「その呼び方は堅苦しいですね。出来ればクラウディアとお呼び下さいませ」
「クラウディア様。では私の事はリベリオと。
それでですね……、先程、恋心が無ければ触れられても大丈夫と仰いましたが、試してみても宜しいでしょうか?」
何をするつもりなのだろうか?
私は少しだけ思案して、答えを返した。
「初めての顔合わせをしたばかりの関係として、不適切で無い範囲内であれば」
「では、失礼。お手に触れても?」
「どうぞ」
私が差し出した手を取ったリベリオ様は、指を絡ませてキュッと握った。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
「ではこれは?」
そっと持ち上げた私の手の甲に、軽く触れる口付けが落とされた。
「嫌じゃないですか?」
「全く嫌では、ない、です……けど…」
(ええぇぇぇ……!?)
顔を上げたリベリオ様の頬が、見る見る内に真っ赤に染まって行く。
「スミマセン……クラウディア様が、あまりにも無反応なので、逆に恥ずかしくなってしまいました。
慣れない事をするもんじゃないですね」
フゥッと小さく息を吐いた彼は、そっと視線を逸らして呟いた。
いや、私より乙女かっ!!
こっちまで照れるわっ!!
取り敢えず、リベリオ様に触れられる事に嫌悪感は無い事が証明された。
勿論、閨を共に出来るかどうかは、また別の話かもしれないけれど。
「リベリオ様。他に確認して置きたい事はございますか?」
「そうですね……王女殿下の降嫁先として、伯爵家では身分が低過ぎないですか?
光属性が条件なのは分かりましたが、公爵家や侯爵家にも確か居ましたよね、光属性のご令息」
「ええ。ですが、婚約者の有無や人柄、功績などを考慮して選ばせて頂いた候補者の中には伯爵家の方も含まれています。
それに、リベリオ様は近々侯爵に陞爵される予定ですよ」
「は……!?初耳ですが」
十歳も年上の男性なのに、ポカンとしたその表情はなんとも可愛らしい。
「ええ、今初めてお知らせしましたもの」
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