【完結】愛を拒絶した王女に捧げる溺愛

miniko

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3 厄介な能力

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 この世界の人間は、魔力の器を体内に持って生まれて来ると言われている。
 そこには生まれた時は三分の一くらいしか魔力が入っていないのだが、呼吸や飲食によって少しづつ体内に取り込まれた魔力の素がその器に溜まっていき、初めて満杯になった時、魔法が使える様になると言う。
 個人差はあるが、早い者だと五歳くらいから魔法を使える様になるらしい。

 とは言え、魔力の器の大きさは人それぞれであり、それによって使える魔法の威力は異なる。
 だから、ごく小さな器しか持たない人は、殆ど魔法を使えない場合もあるのだが。

 魔力の器には属性と呼ばれる分類がある。
 その属性によって、使える魔法の種類が違ってくる。
 属性は大きく分けて六種類。
 火、土、風、水が四大属性と呼ばれる物で、それぞれの物質を操る魔法を扱える。
 殆どの人は、この内のどれか一つを持って生まれる。

 四大属性よりも少しだけ低い確率で生まれるのが、光属性。
 これは生物の生命力を高める魔法が使える属性である。
 所謂治癒魔法などが代表的な例だ。
 だが、これも器の大きさによって威力が左右されるので、光属性自体はそれ程珍しい訳ではないが、病気や怪我を治せるほどの治癒を使える能力者は非常に少ない。
 魔力量が少なければ、ちょっと疲れを癒せる程度の効果しか無いのだ。
 光属性について、特筆するべき点がもう一つ。
 この属性を持つ者は、他者の魔法の影響を受けない。
 攻撃魔法などを受けても、全く効果が無いのだ。
 だが、自分で自分にかける魔法や魔道具を使った魔法についてはこの限りでは無い。


 そして、最も希少で厄介な属性。
 それが闇属性である。
 闇属性は人の精神に影響を与える魔法を扱う事が出来る。
 魅了や洗脳が代表的な例だ。
 魅了魔法は目を合わせる事で発動させる為、この魔法を操る者は、魅了眼などと呼ばれる事がある。


 説明が長くなってしまったが、これでお分かり頂けただろうか?
 私が、望まぬ能力を持って生まれてしまったのだという事が。

 しかも私は魔法を上手くコントロールする事が出来ずに、魔力が溜まって来た五歳頃から無意識に魅了を垂れ流していたのだ。

 王族は他者の魔法を弾く魔道具を身につけている為、両親や弟、叔父様達には魅了の効果が無かったが、その他の長く近くにいる人間や、至近距離で目を合わせて会話をした人間などが魅了の影響を受けてしまったらしい。

 護衛騎士も侍女も、完全な被害者である。
 誘拐犯として一時期捉えられていた護衛騎士は、精神が安定した事を確認されると、『嫌疑が晴れた』として慰謝料を渡して釈放され、私とは顔を合わせない部署へと移動となり職場復帰をしたそうだ。

 真面目で誠実な人間を簡単に狂わせてしまう、他人の人生を簡単に壊してしまう、自分の魔法が恐ろしくて仕方ない。


 魅了も洗脳も、人々を破滅させ、国を揺るがす可能性がある危険な魔法。
 勿論、禁術に指定されている。
 自分の魔法を完璧にコントロールして禁術を使わなければ罪にはならないのだが、魔力量が多い場合、放置するには危険な存在である。
 過去に見つかった闇魔法の使い手は、魔力を封印する魔道具を着用させた上で、王家に仕えさせたらしい。
 王家が必要とした場合のみ、魔道具を外すことが許され、その能力を使用するのだ。
 例えば重犯罪者に自白を促す場合などは、闇属性の魔法が重宝される。

 とは言え、闇属性を持って生まれる者など、我が国ではニ百年に一人いるかいないかと言われて来たのだ。
 それゆえ彼等を制御する為の完璧な対策や法律などは無い。


 精神干渉系の魔法が使えるなどと世間に知れれば、その能力への恐怖から迫害されるか、もしくはその力を利用しようとする者達に攫われて、無理矢理協力させられる事も考えられる。

 だから、私のこの秘密を知っているのは、私の家族である王家の人間と、大神官や魔術師団長、それからごく一部の私に仕える者のみ。


 ───だったのだ。今迄は。

 魔道具を使って防音の結界を張ったガゼボで、私の告白を聞いたフォルキット伯爵の顔は先程よりも青褪めている様に見える。

 話す前に一応覚悟を聞いたとは言え、少々申し訳なくなって来た。

「ごめんなさいね、重荷を背負わせてしまって」

「いえ、その……なんて言うか、大変な人生だったんですね」

 こんな迷惑な告白をされて、最初に出て来たのが私を気遣う言葉なのか。

(彼はなかなかのお人好しね)

 そう思った私は、知らない内に笑みを零していた。

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