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25 聖女の認定
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その後、異例の早さで私達の婚約の手続きが為されて、私はテオの正式な婚約者になった。
どうやら彼が婚約を急いだのは、立太子の儀が迫っていたせいらしい。
そろそろテオが王太子に指名されるだろうと噂はされていたが、ようやく正式に決定したのだ。
王太子になっても、婚約の件が曖昧なままだと、私を排除して妃の座に着こうと狙う者達が増えてしまう。
それを懸念しての事だった。
婚約が成立した時、デニス兄様はなんとも複雑な表情で、私に「おめでとう」と言った。
私達の物語は、ゲームとは全く違うエンディングへ向かって、着々と進んでいた。
衝撃のニュースが飛び込んで来たのは、そんな時だった。
『ユリア・シュタルクが聖女の力を発現させた』
そのニュースは瞬く間に国全体に広がった。
力の発現の切っ掛けになったのは、例のユリアが想いを寄せている子爵令息が事故にあった事らしい。
子爵令息とユリアは少しづつ順調に距離を縮めており、婚約も時間の問題じゃないかと言われていた。
その彼が、先日馬車に乗っている際に事故に遭い、馬車ごと川に転落したのだ。
幸いにも直ぐに近くの医院に搬送され一命は取り留めたのだが、頭を打ったらしく、なかなか意識が戻らなかった。
彼のお見舞いに行ったユリアは、彼を救いたいと言う強い想いのせいか、突然聖女の力に目覚め、強力な治癒魔法で彼の体を完全に回復させたと言う。
愛する人の危機に直面して聖女の力に目覚めるとか、流石は正統派ヒロインである。
私の親友は素晴らしい女性だ。
「ユリア嬢の聖女認定は目出度いんだけど、色々面倒な事になってる。
テオフィル殿下が呼んでいるから、今から俺と一緒に王宮に行ってくれ」
デニス兄様にそう言われて、慌てて身支度を整え、馬車に乗り込んだ。
移動中の兄様は珍しく無口で、ずっと眉間に皺を寄せていた。
王宮に着いて、兄様に連れて行かれたのは謁見の間だった。
警備の騎士は、私たちの顔を見ると軽く頭を下げて、扉を開けた。
室内には、テオ、オリヴァー、王妃殿下と側妃、宰相と複数の大臣達が既に集まっている。
「何故、貴女がここに来たの?」
私の姿を見た側妃が声を上げた。
「僕が呼んだのですよ。
彼女は僕の正式な婚約者です。
無関係では無い筈でしょう。
それとも、彼女が居ると何か不都合でも?」
「不都合などありませんが・・・」
側妃は微かに顔を顰めてフイッと視線を逸らした。
私は兄様に促されて、テオの隣に並ぶ。
奥の扉が開く音がして、全員が深く頭を下げた。
「皆の者、面を上げよ」
低く響いた陛下の声に、顔を上げる。
ピリリとした緊張感が漂っていた。
「今日は聖女の処遇についての話し合いという事だったな?
マクベイン」
すると、大臣の一人が前に進み出た。
彼はマクベイン侯爵。
側妃派の貴族の筆頭だ。
「はい。
聖女様は王家に嫁いで頂くべきなのではないかと言う声が、国民の間で高まっておりますので、それについてご検討頂きたく・・・」
確かに、聖女と歳周りの良い王族がいる場合、結婚させる事例が多いのは事実だ。
それは聖女が国を捨てる事を防ぐ為でもある。
「では、テオフィルかオリヴァーの妃にするべきだと?」
「はい。
その際の聖女様の後見は、私が務めさせて頂ければと」
成る程。それが目的か。
身分の低い者が聖女に認定され、王家に嫁ぐ場合、相応しい教育を受けさせる為、高位貴族の後見人が付けられる。
側妃派の貴族が聖女の後見に付き、聖女を側妃派に引き込もうとしているのだ。
オリヴァーと聖女が結婚すれば、聖女人気にあやかって、オリヴァーを国王に推す人間が増えるだろう。
テオと聖女が結婚した場合も、聖女を側妃が取り込んでいれば、上手く操る事が可能になる。
どちらの場合も側妃にメリットがあるのだ。
「今、婚約者が居らぬのはオリヴァーだが、どうだ?」
陛下がオリヴァーに発言を促す。
「第二王子の俺が聖女を娶れば、要らぬ継承争いが勃発します」
側妃がオリヴァーを睨む。
『余計な事を言うな』と自分の息子を叱りたいのだろうけれど、陛下の手前、無闇に発言出来ないのだ。
オリヴァーは一体何を考えているのだろうか?
健斗だった頃は、負けず嫌いで出世欲もそこそこある方だったから、てっきり玉座を狙って来ると思っていたのだが・・・・・・。
「では、テオフィル殿下と聖女を結婚させて、グルーバー嬢とオリヴァー殿下を結婚させるのはどうでしょう?
政治的な配慮から婚約者を入れ替えるのは良くある事ですし・・・」
「ほぉ、面白い事を言うな。
マクベイン殿は命が惜しく無いらしい」
テオがマクベイン侯爵を睥睨する。
人を呪い殺せそうなくらい禍々しいオーラを放つテオに、マクベイン侯爵は顔色を失って一歩後ずさった。
側妃達はユリアと私の仲が良い事を知っていて、私も側妃派に取り込んで利用しようとしているのかもしれない。
兄様は苦笑しながらテオの肩をポンと叩くと、陛下に向けて手を挙げた。
「発言をお許し頂けますでしょうか?」
「許す」
「聖女様を国に留まらせる事も大事ですが、聖女様のお気持ちが最優先です。
ユリア様は、愛する男性の命を救う為に聖女の力に目覚めたとお聞きしました。
その方を差し置いて王家との婚姻を進めるのは問題では無いですか?」
聖女とは神に愛された者だ。
その聖女の意に沿わない婚姻を押し付けるのは、神の怒りを買う恐れすらある愚行である。
「確かに、その通りだと私も思う。
この話はこれで終わりだ」
陛下は面倒臭そうに話を打ち切った。
この茶番を早く終わらせたかったのかもしれない。
側妃達はまだ諦めきれない様子だったが、陛下の決定に逆らう事は出来ない。
その日はそれで解散となった。
それにしても、オリヴァーの真意が掴めなくて不気味だわ・・・・・・。
どうやら彼が婚約を急いだのは、立太子の儀が迫っていたせいらしい。
そろそろテオが王太子に指名されるだろうと噂はされていたが、ようやく正式に決定したのだ。
王太子になっても、婚約の件が曖昧なままだと、私を排除して妃の座に着こうと狙う者達が増えてしまう。
それを懸念しての事だった。
婚約が成立した時、デニス兄様はなんとも複雑な表情で、私に「おめでとう」と言った。
私達の物語は、ゲームとは全く違うエンディングへ向かって、着々と進んでいた。
衝撃のニュースが飛び込んで来たのは、そんな時だった。
『ユリア・シュタルクが聖女の力を発現させた』
そのニュースは瞬く間に国全体に広がった。
力の発現の切っ掛けになったのは、例のユリアが想いを寄せている子爵令息が事故にあった事らしい。
子爵令息とユリアは少しづつ順調に距離を縮めており、婚約も時間の問題じゃないかと言われていた。
その彼が、先日馬車に乗っている際に事故に遭い、馬車ごと川に転落したのだ。
幸いにも直ぐに近くの医院に搬送され一命は取り留めたのだが、頭を打ったらしく、なかなか意識が戻らなかった。
彼のお見舞いに行ったユリアは、彼を救いたいと言う強い想いのせいか、突然聖女の力に目覚め、強力な治癒魔法で彼の体を完全に回復させたと言う。
愛する人の危機に直面して聖女の力に目覚めるとか、流石は正統派ヒロインである。
私の親友は素晴らしい女性だ。
「ユリア嬢の聖女認定は目出度いんだけど、色々面倒な事になってる。
テオフィル殿下が呼んでいるから、今から俺と一緒に王宮に行ってくれ」
デニス兄様にそう言われて、慌てて身支度を整え、馬車に乗り込んだ。
移動中の兄様は珍しく無口で、ずっと眉間に皺を寄せていた。
王宮に着いて、兄様に連れて行かれたのは謁見の間だった。
警備の騎士は、私たちの顔を見ると軽く頭を下げて、扉を開けた。
室内には、テオ、オリヴァー、王妃殿下と側妃、宰相と複数の大臣達が既に集まっている。
「何故、貴女がここに来たの?」
私の姿を見た側妃が声を上げた。
「僕が呼んだのですよ。
彼女は僕の正式な婚約者です。
無関係では無い筈でしょう。
それとも、彼女が居ると何か不都合でも?」
「不都合などありませんが・・・」
側妃は微かに顔を顰めてフイッと視線を逸らした。
私は兄様に促されて、テオの隣に並ぶ。
奥の扉が開く音がして、全員が深く頭を下げた。
「皆の者、面を上げよ」
低く響いた陛下の声に、顔を上げる。
ピリリとした緊張感が漂っていた。
「今日は聖女の処遇についての話し合いという事だったな?
マクベイン」
すると、大臣の一人が前に進み出た。
彼はマクベイン侯爵。
側妃派の貴族の筆頭だ。
「はい。
聖女様は王家に嫁いで頂くべきなのではないかと言う声が、国民の間で高まっておりますので、それについてご検討頂きたく・・・」
確かに、聖女と歳周りの良い王族がいる場合、結婚させる事例が多いのは事実だ。
それは聖女が国を捨てる事を防ぐ為でもある。
「では、テオフィルかオリヴァーの妃にするべきだと?」
「はい。
その際の聖女様の後見は、私が務めさせて頂ければと」
成る程。それが目的か。
身分の低い者が聖女に認定され、王家に嫁ぐ場合、相応しい教育を受けさせる為、高位貴族の後見人が付けられる。
側妃派の貴族が聖女の後見に付き、聖女を側妃派に引き込もうとしているのだ。
オリヴァーと聖女が結婚すれば、聖女人気にあやかって、オリヴァーを国王に推す人間が増えるだろう。
テオと聖女が結婚した場合も、聖女を側妃が取り込んでいれば、上手く操る事が可能になる。
どちらの場合も側妃にメリットがあるのだ。
「今、婚約者が居らぬのはオリヴァーだが、どうだ?」
陛下がオリヴァーに発言を促す。
「第二王子の俺が聖女を娶れば、要らぬ継承争いが勃発します」
側妃がオリヴァーを睨む。
『余計な事を言うな』と自分の息子を叱りたいのだろうけれど、陛下の手前、無闇に発言出来ないのだ。
オリヴァーは一体何を考えているのだろうか?
健斗だった頃は、負けず嫌いで出世欲もそこそこある方だったから、てっきり玉座を狙って来ると思っていたのだが・・・・・・。
「では、テオフィル殿下と聖女を結婚させて、グルーバー嬢とオリヴァー殿下を結婚させるのはどうでしょう?
政治的な配慮から婚約者を入れ替えるのは良くある事ですし・・・」
「ほぉ、面白い事を言うな。
マクベイン殿は命が惜しく無いらしい」
テオがマクベイン侯爵を睥睨する。
人を呪い殺せそうなくらい禍々しいオーラを放つテオに、マクベイン侯爵は顔色を失って一歩後ずさった。
側妃達はユリアと私の仲が良い事を知っていて、私も側妃派に取り込んで利用しようとしているのかもしれない。
兄様は苦笑しながらテオの肩をポンと叩くと、陛下に向けて手を挙げた。
「発言をお許し頂けますでしょうか?」
「許す」
「聖女様を国に留まらせる事も大事ですが、聖女様のお気持ちが最優先です。
ユリア様は、愛する男性の命を救う為に聖女の力に目覚めたとお聞きしました。
その方を差し置いて王家との婚姻を進めるのは問題では無いですか?」
聖女とは神に愛された者だ。
その聖女の意に沿わない婚姻を押し付けるのは、神の怒りを買う恐れすらある愚行である。
「確かに、その通りだと私も思う。
この話はこれで終わりだ」
陛下は面倒臭そうに話を打ち切った。
この茶番を早く終わらせたかったのかもしれない。
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