【完結】愛を信じないモブ令嬢は、すぐ死ぬ王子を護りたいけど溺愛だけはお断り!

miniko

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休日の、グルーバー家のタウンハウスの玄関ホール。
私の目の前では、麗しの王子様が、緊張の面持ちで、大きな赤い薔薇の花束を差し出している。

物語のワンシーンのように現実味のない光景である。
どう反応するべきなのか分からずに、オロオロと視線を彷徨わせていると・・・・・・

「エルザ?」

返事を促すように、彼が静かに私の名を呼んだ。




数日前から、周囲の様子がおかしい事には気付いていた。
テオは何だか常にソワソワと落ち着かない様子で、デニス兄様は少しだけ不機嫌そうだった。
気にはなっていたが、その理由は分からなかったし、誰に聞いても明確な答えは返って来なかった。


そして、今日。
正装に身を包み、花束を抱えたテオが、先触れも無く突然我が家を訪れたのだ。

いや、きっと先触れはあったのだろう。
私に伝えられなかっただけで。

その証拠に、私と共にテオを出迎えた兄様が、

「チッ!本当に来やがったか」

と、聞こえるか聞こえないかの声で悪態をついた。
兄様は知っていたのだ。
テオが今日ウチに来る事も、
その目的も。


「急にゴメンね。
今日はエルザに、大事な話があって来たんだ」

「大事な話・・・・・・ですか?」

戸惑いながら振り返ると、一緒に出迎えた筈の兄様も執事も侍女達も、知らない内に姿を消していた。

「うん。
こんなムードの無い状況で言うのもなんだけど・・・・・・。
そろそろ、僕の唯一の妃になる覚悟をしてくれないか?」

「・・・・・・っ!」

「幼い時、エルザに出会っていなかったら、今頃僕は生きてなかったかもしれない。
そんなエルザを好きになってしまうのは仕方ないだろう?
僕が君を愛してしまったのは、君のせいなんだ。
だから、責任取って、もう僕の物になってよ」

そう言って彼は、少し困った様に笑った。

大事な話と言われた時から、何の話なのかはおおよその想像が付いていた。

だが・・・・・・

『唯一の妃』

その言葉に、微かな希望が胸に湧いてくる。

この国の王族は、複数の妃を娶る事が許されている。
前世の常識を捨てきれない私にとっては、その事もテオとの婚約にイマイチ前向きになれない要因であった。

だが、彼は『唯一の』と言ってくれた。
勿論、私が男児を産む事が出来なければ、きっと側妃を娶らなければならなくなるだろう。
王家の血を絶やさない事は、王族の義務だから。

それでも、彼が私だけを望んでくれていると言う事実は、私の不安を少しだけ軽くしてくれた。


誠実で、私を愛してくれて、私を護ってくれる人。

───でも。

前世で受けた心の傷は、今でも私を悩ませる。

元夫のプロポーズを受けた時は、彼の事も誠実で優しくて愛してくれる人だと思っていたのだから・・・・・・。

心の奥底にある古い傷口から、私の心を蝕む毒の様なものが流れ出して、胸の中に充満していくみたいな感覚に襲われる。

(やっぱり、まだ信じるのが怖い)

テオならばきっと大丈夫だと思う反面、自分の見る目の無さを痛感している私は、その判断に自信が持てなくなっている。


「エルザ?」

名を呼ばれて、いつの間にか俯いていた視線をテオに向ける。
花束を差し出す彼の手は、微かに震えていて・・・・・・。


頭の中で明確な答えを出す前に、私はその花束にゆっくりと手を伸ばしていた。

その瞬間、少し潤んだ青色の瞳が大きく見開かれ、輝く様な笑顔に変わった。

彼の幸せそうな表情を見ていたら、私の中の迷いや不安は、いつの間にか小さく萎んでいた。

(まだ起きてもいない事を、心配するのはやめよう)

テオと元夫は全く違う。
あんな奴と一緒にするのは失礼だ。

「・・・はい。
私をテオのお嫁さんにして?
これからも、貴方を隣で支えられる様に頑張りますから」

「ありがとう。
一緒に幸せになろうね」

幸せに、なれるかなぁ?
今度こそ。


その為には、テオの死亡フラグを全て壊さなければいけない。
幸いな事に、テオ自身が健康で強くなっているので、暴漢に襲われるなどの細かいフラグは彼が自分の力で簡単に回避出来ている。



だが、まだ一つだけ、気を付けなければならない大きなフラグが残っているのだ。
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