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21 悪役令嬢の失脚
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右腕を強く掴まれたままなので、逃げることも出来ない。
ドロテーアは漸く焦り始めた私を見て、醜悪な笑みを浮かべた。
私を取り囲んだ男達が、腰の剣を抜く。
ギラリと光る刃を突き付けられた瞬間・・・・・・
「ぅぎゃあ"ぁ!」
私の腕を掴んでいた男の悲鳴が耳元で聞こえて、頬に生温かい液体が飛び散り、腕が解放された。
「ねぇ、僕のエルザをこんな目に合わせて、生きて帰れるとでも思ってるの?」
背後から聞こえた地を這う様な低い声に、ビクッと肩が震えた。
振り向くと、ヤバいくらい瞳孔が開ききったテオがいた。
さっきまで私を捕らえていた男は、肩を斬りつけられて、地面でのたうち回っている。
(何で来たの?
どうしよう、テオが死んじゃうかも・・・)
一瞬そう思って青褪めたのだが───。
周りを囲んでいた破落戸達は急な出来事に驚き、一瞬固まってしまったらしく、その隙にさっきまでテオの護衛についていた騎士と、黒い騎士服を着た男性の二人に呆気なく制圧された。
街の破落戸風情が、王族を護る騎士に敵う訳がない。
そうだった。
ゲームの中のテオは病弱だと言うイメージがなかなか払拭出来ずに、第二王子を王太子にするべきだと言う声も多く、王宮内での処遇があまり良く無かったのだ。
だが、今は誰もが認める文武両道の完璧王子である。
自然と、ゲームの中よりも有能な者達が周囲に集まる様になる。
侍従も、護衛も。
テオは呆然と立ち尽くすドロテーアに、鮮血が滴る剣を向ける。
「本当はこの場で殺してやりたいけど、我慢しよう。
直ぐに楽になんかさせてあげないよ」
本気の殺意を向けられたドロテーアは、ヒュッと息を飲むと、その場に崩れ落ちた。
二人の騎士が、犯人達全員を縛り上げている間に、テオは私の頬をハンカチで丁寧に拭った。
「ごめん。
汚い男の血が付いちゃったね」
「テオ・・・・・・」
微かに震える手をテオに伸ばすと、その手をグイッと引っ張られて、強く抱きしめられた。
胸に顔を埋めると、彼の心臓が驚く程速く脈打っている事に気付く。
「・・・・・・怖かった。
エルザが、死んじゃうかと思った」
「うん。私も、怖かったみたい。
助けてくれて、有難う」
それから、犯人達は駆け付けた衛兵に引き渡されて移送された。
私はテオとその護衛に邸まで送ってもらう事になった。
「ところで、何故私が襲われていると分かったのですか?」
王家所有の豪華な馬車で移動中、テオに質問すると、そっと左手を取られた。
「この指輪、実は魔道具なんだ」
私が左手の薬指に嵌めているのは、婚約の話の際にテオから贈られた指輪だ。
上品なデザインの普通の指輪にしか見えないのだが・・・。
金の部分に彫られた細かい模様は魔法陣で、サファイアかと思っていた小さな石は魔石だったらしい。
「この指輪が持ち主の危険を察知すると、僕が身に付けているこのブレスレットに振動が伝わる。
で、指輪の持ち主がいる方向へ誘導してくれるんだよ」
「誘導?どうやって?」
「この魔石から地面に光が投射されて、その光を追い掛けると指輪の在処に辿り着く」
テオのブレスレットには、私の指輪と同じ様な深い青の魔石が付いていた。
そこから光が投影されるのだ。
よく出来てるね。
「成る程。
便利な魔道具があるんですね」
テオはこの指輪を贈ってくれた時から、ずっと私を護ってくれていたのだ。
私の方が、テオを護っているつもりでいたのにな。
それは、なんだか寂しい様な、嬉しい様な、不思議な気持ちだった。
ドロテーアはその後、劣悪な環境の地下牢に死ぬまで幽閉される事が決まった。
死罪にならなかった事にテオは納得いかないみたいだが、私はそれで良いと思う。
私が正式な婚約者であったなら、王族に準ずる者への殺害未遂なので、もっと重い罪になったのかもしれないが、まだ候補でしかないのだ。
重過ぎる罰を与えれば、他の貴族達にも動揺が広がってしまうだろう。
公爵にも連座が適用されて、領地の一部は没収となり、早期の世代交代を国王から命じられたらしい。
私を路地裏へ連れ込んだ騎士は妹がレーヴェンタール公爵家のメイドをしていて、その妹をドロテーアに人質に取られてしまい、仕方なく協力したらしい。
だが、彼の役目は私を誘い出す所までだったという事もあり、比較的軽い刑罰で済みそうだ。
この事でお父様や兄様達は、私を害する様な人間を雇ってしまったと深く後悔している。
勿論、グルーバー家でも、騎士や使用人を雇う時には厳しく身上調査をしているのだが、ゲームの内容を知らないお父様や兄様達はレーヴェンタール公爵家を警戒するはずも無く、今回の件を防ぐ事は難しかっただろう。
デニス兄様は学園での様子を見ていた事から、ドロテーアが私に対抗意識を燃やしているとは知っていたけど、王子の婚約者候補になった者への嫉妬心くらいにしか考えていなかったはず。
まさかここまでの事件を起こすなんて、想定外だったと思う。
とにかく私は無事だったのだから、皆んなにはあまり気に病まないで欲しい。
ドロテーアは漸く焦り始めた私を見て、醜悪な笑みを浮かべた。
私を取り囲んだ男達が、腰の剣を抜く。
ギラリと光る刃を突き付けられた瞬間・・・・・・
「ぅぎゃあ"ぁ!」
私の腕を掴んでいた男の悲鳴が耳元で聞こえて、頬に生温かい液体が飛び散り、腕が解放された。
「ねぇ、僕のエルザをこんな目に合わせて、生きて帰れるとでも思ってるの?」
背後から聞こえた地を這う様な低い声に、ビクッと肩が震えた。
振り向くと、ヤバいくらい瞳孔が開ききったテオがいた。
さっきまで私を捕らえていた男は、肩を斬りつけられて、地面でのたうち回っている。
(何で来たの?
どうしよう、テオが死んじゃうかも・・・)
一瞬そう思って青褪めたのだが───。
周りを囲んでいた破落戸達は急な出来事に驚き、一瞬固まってしまったらしく、その隙にさっきまでテオの護衛についていた騎士と、黒い騎士服を着た男性の二人に呆気なく制圧された。
街の破落戸風情が、王族を護る騎士に敵う訳がない。
そうだった。
ゲームの中のテオは病弱だと言うイメージがなかなか払拭出来ずに、第二王子を王太子にするべきだと言う声も多く、王宮内での処遇があまり良く無かったのだ。
だが、今は誰もが認める文武両道の完璧王子である。
自然と、ゲームの中よりも有能な者達が周囲に集まる様になる。
侍従も、護衛も。
テオは呆然と立ち尽くすドロテーアに、鮮血が滴る剣を向ける。
「本当はこの場で殺してやりたいけど、我慢しよう。
直ぐに楽になんかさせてあげないよ」
本気の殺意を向けられたドロテーアは、ヒュッと息を飲むと、その場に崩れ落ちた。
二人の騎士が、犯人達全員を縛り上げている間に、テオは私の頬をハンカチで丁寧に拭った。
「ごめん。
汚い男の血が付いちゃったね」
「テオ・・・・・・」
微かに震える手をテオに伸ばすと、その手をグイッと引っ張られて、強く抱きしめられた。
胸に顔を埋めると、彼の心臓が驚く程速く脈打っている事に気付く。
「・・・・・・怖かった。
エルザが、死んじゃうかと思った」
「うん。私も、怖かったみたい。
助けてくれて、有難う」
それから、犯人達は駆け付けた衛兵に引き渡されて移送された。
私はテオとその護衛に邸まで送ってもらう事になった。
「ところで、何故私が襲われていると分かったのですか?」
王家所有の豪華な馬車で移動中、テオに質問すると、そっと左手を取られた。
「この指輪、実は魔道具なんだ」
私が左手の薬指に嵌めているのは、婚約の話の際にテオから贈られた指輪だ。
上品なデザインの普通の指輪にしか見えないのだが・・・。
金の部分に彫られた細かい模様は魔法陣で、サファイアかと思っていた小さな石は魔石だったらしい。
「この指輪が持ち主の危険を察知すると、僕が身に付けているこのブレスレットに振動が伝わる。
で、指輪の持ち主がいる方向へ誘導してくれるんだよ」
「誘導?どうやって?」
「この魔石から地面に光が投射されて、その光を追い掛けると指輪の在処に辿り着く」
テオのブレスレットには、私の指輪と同じ様な深い青の魔石が付いていた。
そこから光が投影されるのだ。
よく出来てるね。
「成る程。
便利な魔道具があるんですね」
テオはこの指輪を贈ってくれた時から、ずっと私を護ってくれていたのだ。
私の方が、テオを護っているつもりでいたのにな。
それは、なんだか寂しい様な、嬉しい様な、不思議な気持ちだった。
ドロテーアはその後、劣悪な環境の地下牢に死ぬまで幽閉される事が決まった。
死罪にならなかった事にテオは納得いかないみたいだが、私はそれで良いと思う。
私が正式な婚約者であったなら、王族に準ずる者への殺害未遂なので、もっと重い罪になったのかもしれないが、まだ候補でしかないのだ。
重過ぎる罰を与えれば、他の貴族達にも動揺が広がってしまうだろう。
公爵にも連座が適用されて、領地の一部は没収となり、早期の世代交代を国王から命じられたらしい。
私を路地裏へ連れ込んだ騎士は妹がレーヴェンタール公爵家のメイドをしていて、その妹をドロテーアに人質に取られてしまい、仕方なく協力したらしい。
だが、彼の役目は私を誘い出す所までだったという事もあり、比較的軽い刑罰で済みそうだ。
この事でお父様や兄様達は、私を害する様な人間を雇ってしまったと深く後悔している。
勿論、グルーバー家でも、騎士や使用人を雇う時には厳しく身上調査をしているのだが、ゲームの内容を知らないお父様や兄様達はレーヴェンタール公爵家を警戒するはずも無く、今回の件を防ぐ事は難しかっただろう。
デニス兄様は学園での様子を見ていた事から、ドロテーアが私に対抗意識を燃やしているとは知っていたけど、王子の婚約者候補になった者への嫉妬心くらいにしか考えていなかったはず。
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