【完結】愛を信じないモブ令嬢は、すぐ死ぬ王子を護りたいけど溺愛だけはお断り!

miniko

文字の大きさ
上 下
21 / 33

21 悪役令嬢の失脚

しおりを挟む
右腕を強く掴まれたままなので、逃げることも出来ない。
ドロテーアは漸く焦り始めた私を見て、醜悪な笑みを浮かべた。

私を取り囲んだ男達が、腰の剣を抜く。
ギラリと光る刃を突き付けられた瞬間・・・・・・

「ぅぎゃあ"ぁ!」

私の腕を掴んでいた男の悲鳴が耳元で聞こえて、頬に生温かい液体が飛び散り、腕が解放された。

「ねぇ、僕のエルザをこんな目に合わせて、生きて帰れるとでも思ってるの?」

背後から聞こえた地を這う様な低い声に、ビクッと肩が震えた。
振り向くと、ヤバいくらい瞳孔が開ききったテオがいた。

さっきまで私を捕らえていた男は、肩を斬りつけられて、地面でのたうち回っている。

(何で来たの?
どうしよう、テオが死んじゃうかも・・・)

一瞬そう思って青褪めたのだが───。

周りを囲んでいた破落戸達は急な出来事に驚き、一瞬固まってしまったらしく、その隙にさっきまでテオの護衛についていた騎士と、黒い騎士服を着た男性の二人に呆気なく制圧された。
街の破落戸風情が、王族を護る騎士に敵う訳がない。


そうだった。
ゲームの中のテオは病弱だと言うイメージがなかなか払拭出来ずに、第二王子を王太子にするべきだと言う声も多く、王宮内での処遇があまり良く無かったのだ。
だが、今は誰もが認める文武両道の完璧王子である。
自然と、ゲームの中よりも有能な者達が周囲に集まる様になる。
侍従も、護衛も。



テオは呆然と立ち尽くすドロテーアに、鮮血が滴る剣を向ける。

「本当はこの場で殺してやりたいけど、我慢しよう。
直ぐに楽になんかさせてあげないよ」

本気の殺意を向けられたドロテーアは、ヒュッと息を飲むと、その場に崩れ落ちた。

二人の騎士が、犯人達全員を縛り上げている間に、テオは私の頬をハンカチで丁寧に拭った。

「ごめん。
汚い男の血が付いちゃったね」

「テオ・・・・・・」

微かに震える手をテオに伸ばすと、その手をグイッと引っ張られて、強く抱きしめられた。
胸に顔を埋めると、彼の心臓が驚く程速く脈打っている事に気付く。

「・・・・・・怖かった。
エルザが、死んじゃうかと思った」

「うん。私も、怖かったみたい。
助けてくれて、有難う」



それから、犯人達は駆け付けた衛兵に引き渡されて移送された。
私はテオとその護衛に邸まで送ってもらう事になった。

「ところで、何故私が襲われていると分かったのですか?」

王家所有の豪華な馬車で移動中、テオに質問すると、そっと左手を取られた。

「この指輪、実は魔道具なんだ」

私が左手の薬指に嵌めているのは、婚約の話の際にテオから贈られた指輪だ。
上品なデザインの普通の指輪にしか見えないのだが・・・。
金の部分に彫られた細かい模様は魔法陣で、サファイアかと思っていた小さな石は魔石だったらしい。

「この指輪が持ち主の危険を察知すると、僕が身に付けているこのブレスレットに振動が伝わる。
で、指輪の持ち主がいる方向へ誘導してくれるんだよ」

「誘導?どうやって?」

「この魔石から地面に光が投射されて、その光を追い掛けると指輪の在処に辿り着く」

テオのブレスレットには、私の指輪と同じ様な深い青の魔石が付いていた。
そこから光が投影されるのだ。
よく出来てるね。

「成る程。
便利な魔道具があるんですね」


テオはこの指輪を贈ってくれた時から、ずっと私を護ってくれていたのだ。
私の方が、テオを護っているつもりでいたのにな。

それは、なんだか寂しい様な、嬉しい様な、不思議な気持ちだった。




ドロテーアはその後、劣悪な環境の地下牢に死ぬまで幽閉される事が決まった。
死罪にならなかった事にテオは納得いかないみたいだが、私はそれで良いと思う。
私が正式な婚約者であったなら、王族に準ずる者への殺害未遂なので、もっと重い罪になったのかもしれないが、まだ候補でしかないのだ。
重過ぎる罰を与えれば、他の貴族達にも動揺が広がってしまうだろう。

公爵にも連座が適用されて、領地の一部は没収となり、早期の世代交代を国王から命じられたらしい。


私を路地裏へ連れ込んだ騎士は妹がレーヴェンタール公爵家のメイドをしていて、その妹をドロテーアに人質に取られてしまい、仕方なく協力したらしい。
だが、彼の役目は私を誘い出す所までだったという事もあり、比較的軽い刑罰で済みそうだ。

この事でお父様や兄様達は、私を害する様な人間を雇ってしまったと深く後悔している。
勿論、グルーバー家でも、騎士や使用人を雇う時には厳しく身上調査をしているのだが、ゲームの内容を知らないお父様や兄様達はレーヴェンタール公爵家を警戒するはずも無く、今回の件を防ぐ事は難しかっただろう。
デニス兄様は学園での様子を見ていた事から、ドロテーアが私に対抗意識を燃やしているとは知っていたけど、王子の婚約者候補になった者への嫉妬心くらいにしか考えていなかったはず。
まさかここまでの事件を起こすなんて、想定外だったと思う。


とにかく私は無事だったのだから、皆んなにはあまり気に病まないで欲しい。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

俺の婚約者が可愛すぎる件について ~第三王子は今日も、愚かな自分を殴りたい~

salt
恋愛
ぐらりと視界が揺れて、トラヴィス・リオブライド・ランフォールドは頭を抱えた。 刹那、脳髄が弾けるような感覚が全身を襲い、何かを思い出したようなそんな錯覚に陥ったトラヴィスの目の前にいたのは婚約したばかりの婚約者、フェリコット=ルルーシェ・フォルケイン公爵令嬢だった。 「トラ……ヴィス、でんか…っ…」 と、名前を呼んでくれた直後、狂ったように泣きだしたフェリコットはどうやら時戻りの記憶があるようで……? ライバルは婚約者を傷つけまくった時戻り前の俺(八つ裂きにしたい)という話。 或いは性根がダメな奴は何度繰り返してもダメという真理。 元サヤに見せかけた何か。 *ヒロインターンは鬱展開ですので注意。 *pixiv・なろうにも掲載しています

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

処理中です...