6 / 33
6 婚約と留学?
しおりを挟む
その後、一年ほど我が家で療養生活を送ったテオは、すっかり食欲も出て、体力や筋力もある程度は付いた。
療養を終え、王都に帰る事になった時、彼は私の両手を強く握って涙ぐんだ。
「エルザ、必ず迎えに来るからね」
「は・・・い?迎え、ですか?」
(何だろう?
何か約束したっけ?)
考えている間に、デニス兄様が冷たい笑顔を浮かべながら、私とテオの間に割り込んで手を離させる。
「王子殿下と言えども、令嬢に気軽に触れるのはマナー違反ですからね」
兄様、瞳孔が開いてて怖いです。
「くっ・・・!このシスコンがっ!」
そして、テオも負けずに睨み返していて、二人の間に火花が散っている幻が見えた。
(この二人、たまに揉めてるんだよなぁ)
テオは兄様を押し退けて、再び私に向き合った。
「今度会う時までに、絶対に強くなるから。
エルザの事、守れる様に」
(きゃーっ!!
何それ、可愛い!!!)
私は、テオを思いっきり抱きしめて頭をグリグリと撫で繰り回したい衝動を、必死で我慢した。
それを実行したら、流石に引かれるだろう。
「有難うございます。
期待してますね」
こうして、私達はお別れした・・・・・・のだが。
テオは夏になると毎年、避暑と称して私達兄妹に会いに、辺境の我が領地に一ヶ月程滞在する様になった。
そんな時に限って、もうすっかり健康体なクセに「僕は病弱だから、夏バテしない様に、涼しくて空気の良い場所へ・・・」とか何とか言い出すらしく、侍従達も困り顔だ。
まあ、確かに王都に比べたら、気温は低いし空気も綺麗だけれど。
振り回される周囲が少し哀れになる。
でも、それを指摘すると、「エルザは僕に会いたく無いの?」と、ションボリ顔をされてしまうので、推しのこの顔に弱い私はつい口をつぐんでしまうのだ。
それに、毎年会う度に逞しく成長していくテオを見るのは、私にとっても楽しみの一つだった。
テオは、あの約束通り、剣術の腕も磨いていて、今ではかなり強くなった。
因みにデニス兄様も、あれからグングン強くなっていて、もう私ではどちらにも勝てなくなってしまった。
嬉しい様な、少し寂しい様な。
子供の成長を見るのって、こんな気持ちなのだろうか?
前世でも子供はいなかったので、わからないけど。
そんな中、いつもとは違う季節に、テオが慌てた様子で辺境にやって来た。
私が十三歳の秋だった。
この国では、王侯貴族の子女は十五歳から四年間、学園に通う事になっている。
デニス兄様と同じ年齢の彼は、来年春の入学に向けて、色々と準備に忙しいはずなのに、どうしたのだろう?
・・・・・・と思っていたら、馬車を降りたテオは、いきなり険しい顔でグイグイと近寄ってくる。
昔と違って体が大きくなった彼にコレをされると威圧感が凄い。
「エルザ、婚約するって本当?」
「ああ、その事を心配してくれたのですか・・・」
先日、隣国の公爵家の嫡男の釣書が、私宛に届いた。
父と兄達は、可愛がっている私を国外に出すのを泣いて嫌がったが、母に宥められている。
返事はまだ検討中なのだが、隣国と我が国は友好的な関係が長年続いており、決して悪い話では無い。
ただ、婚約の打診と共に、隣国へ留学して文化を学んで欲しいとの誘いも受けている。
乙女ゲームにエルザが登場しないのは、きっとこの誘いを受けたせいなのだろう。
しかし、私は同じ学園でテオを見守りたいので、留学の方は断る予定だ。
「ソイツの事、好きなのか!?」
「好きも何も、まだお会いした事もありません。
顔合わせもこれからです」
「じゃあ、隣国で暮らしたい?」
「いえ。正直に言えば、家族と離れる事に不安はありますよ。
ですが、断る口実もありませんし・・・」
出来る事ならば、結婚自体をしたくない。
だが、貴族令嬢に生まれてしまった以上、そんな我儘は通らないだろうし、家族に迷惑はかけられない。
婚約に若干後ろ向きな私の意見を聞いたテオは、パッと顔を輝かせた。
「じゃあ、僕の婚約者になれば良い!」
「えぇっっ!?」
療養を終え、王都に帰る事になった時、彼は私の両手を強く握って涙ぐんだ。
「エルザ、必ず迎えに来るからね」
「は・・・い?迎え、ですか?」
(何だろう?
何か約束したっけ?)
考えている間に、デニス兄様が冷たい笑顔を浮かべながら、私とテオの間に割り込んで手を離させる。
「王子殿下と言えども、令嬢に気軽に触れるのはマナー違反ですからね」
兄様、瞳孔が開いてて怖いです。
「くっ・・・!このシスコンがっ!」
そして、テオも負けずに睨み返していて、二人の間に火花が散っている幻が見えた。
(この二人、たまに揉めてるんだよなぁ)
テオは兄様を押し退けて、再び私に向き合った。
「今度会う時までに、絶対に強くなるから。
エルザの事、守れる様に」
(きゃーっ!!
何それ、可愛い!!!)
私は、テオを思いっきり抱きしめて頭をグリグリと撫で繰り回したい衝動を、必死で我慢した。
それを実行したら、流石に引かれるだろう。
「有難うございます。
期待してますね」
こうして、私達はお別れした・・・・・・のだが。
テオは夏になると毎年、避暑と称して私達兄妹に会いに、辺境の我が領地に一ヶ月程滞在する様になった。
そんな時に限って、もうすっかり健康体なクセに「僕は病弱だから、夏バテしない様に、涼しくて空気の良い場所へ・・・」とか何とか言い出すらしく、侍従達も困り顔だ。
まあ、確かに王都に比べたら、気温は低いし空気も綺麗だけれど。
振り回される周囲が少し哀れになる。
でも、それを指摘すると、「エルザは僕に会いたく無いの?」と、ションボリ顔をされてしまうので、推しのこの顔に弱い私はつい口をつぐんでしまうのだ。
それに、毎年会う度に逞しく成長していくテオを見るのは、私にとっても楽しみの一つだった。
テオは、あの約束通り、剣術の腕も磨いていて、今ではかなり強くなった。
因みにデニス兄様も、あれからグングン強くなっていて、もう私ではどちらにも勝てなくなってしまった。
嬉しい様な、少し寂しい様な。
子供の成長を見るのって、こんな気持ちなのだろうか?
前世でも子供はいなかったので、わからないけど。
そんな中、いつもとは違う季節に、テオが慌てた様子で辺境にやって来た。
私が十三歳の秋だった。
この国では、王侯貴族の子女は十五歳から四年間、学園に通う事になっている。
デニス兄様と同じ年齢の彼は、来年春の入学に向けて、色々と準備に忙しいはずなのに、どうしたのだろう?
・・・・・・と思っていたら、馬車を降りたテオは、いきなり険しい顔でグイグイと近寄ってくる。
昔と違って体が大きくなった彼にコレをされると威圧感が凄い。
「エルザ、婚約するって本当?」
「ああ、その事を心配してくれたのですか・・・」
先日、隣国の公爵家の嫡男の釣書が、私宛に届いた。
父と兄達は、可愛がっている私を国外に出すのを泣いて嫌がったが、母に宥められている。
返事はまだ検討中なのだが、隣国と我が国は友好的な関係が長年続いており、決して悪い話では無い。
ただ、婚約の打診と共に、隣国へ留学して文化を学んで欲しいとの誘いも受けている。
乙女ゲームにエルザが登場しないのは、きっとこの誘いを受けたせいなのだろう。
しかし、私は同じ学園でテオを見守りたいので、留学の方は断る予定だ。
「ソイツの事、好きなのか!?」
「好きも何も、まだお会いした事もありません。
顔合わせもこれからです」
「じゃあ、隣国で暮らしたい?」
「いえ。正直に言えば、家族と離れる事に不安はありますよ。
ですが、断る口実もありませんし・・・」
出来る事ならば、結婚自体をしたくない。
だが、貴族令嬢に生まれてしまった以上、そんな我儘は通らないだろうし、家族に迷惑はかけられない。
婚約に若干後ろ向きな私の意見を聞いたテオは、パッと顔を輝かせた。
「じゃあ、僕の婚約者になれば良い!」
「えぇっっ!?」
97
お気に入りに追加
1,554
あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

俺の婚約者が可愛すぎる件について ~第三王子は今日も、愚かな自分を殴りたい~
salt
恋愛
ぐらりと視界が揺れて、トラヴィス・リオブライド・ランフォールドは頭を抱えた。
刹那、脳髄が弾けるような感覚が全身を襲い、何かを思い出したようなそんな錯覚に陥ったトラヴィスの目の前にいたのは婚約したばかりの婚約者、フェリコット=ルルーシェ・フォルケイン公爵令嬢だった。
「トラ……ヴィス、でんか…っ…」
と、名前を呼んでくれた直後、狂ったように泣きだしたフェリコットはどうやら時戻りの記憶があるようで……?
ライバルは婚約者を傷つけまくった時戻り前の俺(八つ裂きにしたい)という話。
或いは性根がダメな奴は何度繰り返してもダメという真理。
元サヤに見せかけた何か。
*ヒロインターンは鬱展開ですので注意。
*pixiv・なろうにも掲載しています

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる