【完結】愛を信じないモブ令嬢は、すぐ死ぬ王子を護りたいけど溺愛だけはお断り!

miniko

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2 すぐ死ぬ王子様

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そんな訳で、それから一週間後、お父様が言っていた予定通りに、テオフィル殿下が我が家を訪れて、冒頭の初対面のシーンである。


「ねえ、エルザ。
辺境伯邸の庭を一緒に探検しよう」

探検って言われても、私にとっては自分の住む邸なので、今更新発見など無いのだが。

テオは王子だから、王都に居た時は自由が全くなかったらしい。
うるさく監視されない今の状況に、テンションが上がっている様だ。

「わかりました」

友達認定された私は、テオにニコニコと手を繋がれて、あちこち案内させられる。
めっちゃ可愛い仔犬に懐かれて、連れ回されている気分。
流石に王子を犬呼ばわりは不敬過ぎて、口が裂けても言えないけれど・・・。

「薔薇の花はもう終わってしまったんだね」

「ええ、春薔薇は終わってしまいましたが、また秋には咲きます。
ウチの薔薇園は広いので、満開の季節は見事ですよ」

「それまで僕はここに居るかな?」

テオが少し寂しそうに見えたのは、早く城に帰りたいからなのか、このままここに居たいと思っているからなのか・・・・・・。
判断がつかない私は、曖昧に微笑んだ。


しかし、日差しが強かったこの日、テオと庭を散策した事を、私は激しく後悔する事になる。

夕方になって、体調を崩したテオが寝込んでしまったのだ。
決して激しい運動をさせた訳では無かったのだが・・・・・・。

その時になって、漸く私は、ゲームの中のテオフィル殿下が、子供の頃病弱だったという設定を思い出した。

(そう言えば、お父様も『療養の為』って言ってたじゃない!
今頃気付いたって遅過ぎるわ!)

前世の記憶が蘇った事で、なんとなくフィクションと現実の境が曖昧になり、深く考えて行動出来ていなかった。
ここは、ゲームの世界だが、ゲームみたいにやり直しは効かない。
怪我をすれば痛いし、病気をすれば苦しいし、死ねば生き返る事は無いのだ。
そんな当たり前の事を、再確認する出来事だった。

(これからは、テオの体調も気遣ってあげなくては)

テオフィル殿下は、当時、乙女ゲーム史上で一番攻略が難しいキャラなんじゃないかと話題になっていた。
それは、好感度を上げるのが難しいとかいう意味では無い。

少し選択を間違えただけで、『すぐに死ぬ』キャラクターだったのだ。


病弱だった殿下は、成長するにつれ、体調を崩す事は少なくなるが、肉体派の体力が有り余ったタイプとは程遠い、線が細いインテリ系の王子になる。

そんな彼は、流行り病にかかって死に、暗殺者に襲われて死に、魔獣の討伐に失敗して・・・・・・以下略。
他にも様々な状況で、とにかく、すぐ死ぬ。

そんな弱っちぃ王子の何処が良いのかって!?
失礼な。

彼はとにかく眉目秀麗なのだ。
『麗しい』と書いて『テオフィル』と読むと言っても過言では無いくらいに麗しい。
欲望とか、憎しみとか、裏切りとか、そんな人間の汚い部分を一切感じさせない、綺麗な綺麗な王子様。
そんな美しく儚げな王子様を護ってあげたい!
・・・と、当時、夫の不倫に悩んで男性不信気味だった私は、二次元のキャラクターの中でも特に現実味の無い、美し過ぎる青年に庇護欲をそそられて、夢中になったのだ。


でも、そうか・・・すぐ死んじゃうと言う事は・・・・・・
見守るだけでは、ハッピーエンドに辿り着くか分からないんだわ。
私が同じ世界に転生したからには、むざむざ推しを死なせる訳にはいかない。
なんとしても、天寿を全うして、幸せを手にして貰わなければ!!



そして私は、取り敢えずお見舞いに行ってみようと、テオが休んでいる部屋を訪ねる事にした。



部屋の扉を小さくノックすると、テオの侍従が中に入れてくれた。

カーテンが閉められた薄暗い空間に、テオの苦しそうな寝息だけが響いていた。
小さな体で病と戦う彼の辛さを思うと、心臓をギュッと掴まれた様な痛みを感じる。

(あぁ、私のせいだ・・・。もっとちゃんと気を付けてあげていれば・・・)

ベッドサイドの椅子に座って、彼の額に手を当てると、とても熱かった。
洗面器に用意された冷たい水でタオルを濡らして、額に乗せる。
苦し気に眉を寄せて眠っていた彼の瞼がゆっくり開いた。

「・・・・・・エル、ザ?
ありがとう。冷たくて気持ち良い」

少し掠れた声でお礼を言うテオ。
私は首を横に振った。

「テオ、申し訳ありません。私のせいで・・・」

「エルザのせいじゃ無いよ。
僕が自分で気を付けなきゃいけなかったんだ」

彼の手を握り、頭をそっと撫でる。

「起こしてごめんなさい。もう少し眠って」

「うん・・・」

暫く頭を撫でていると、先程よりは幾らか楽そうな寝息が聞こえ始めた。



彼の眠りが深くなった頃、私は彼の手をゆっくり離して、音を立てない様にそっと部屋を出た。
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