【完結】小さなマリーは僕の物

最終話

【マリー視点】



無言で保健室へ連れて行かれた私は、掌を消毒されながら、アランの尋問を受ける事になった。

「マリー？この手の傷、どうしたの？
タリーニ殿の話から推察すると、誰かにやられたんだよね？」

「･･････」

「黙ってるって事はそうなんだね。誰？」

こういう時のアランは、優しく話していても逆らえないオーラを放っている。

「･･･名前も知らない女生徒に」

「何か言われたの？」

あー、もう隠すのも面倒臭くなってきちゃったな。
全部話して、婚約解消してもらおう。
そうしよう。


「私みたいな幼児体型が婚約者だと、アランが可哀想なんだって」

瞬間、アランの目が鋭くなった。

「は！？なにそれ。もしかして、以前にも同じ様な事を言われてた？」

「まあ、たまに」

「成る程ね。タリーニ殿が怒るはずだな･･････」

「？」

独り言のような呟きの意味は、私にはよく分からない。

アランはハッとしたように私を見た。

「ねぇ、それって婚約解消の件と関係ある？」

「･･･なくもない」

「分かった。今度からは、そういう事あったらちゃんと相談して。
マリーが知らない相手でも、必ず特定して対処するから」


「でも･･････私もそう思うし」

アランは、呆れたように深く息を吐いた。

「なんで僕以外の人間の言う事ばっかり気にするかな。
僕はそんな風に思った事ないし、婚約解消するつもりはない」

「どうして･･･」

「好きだからに決まってるでしょ」

「妹みたいに？」

「は？そんな訳ないでしょ。婚約者だよ？
子供の頃から散々好きだって言って来たのに、忘れたの？」

子供の頃からと言うか、子供の頃だけだ。

「もう3年くらいは、言われてない」

「･･･確かにそうだけど、それは、ほら･･････、僕だって思春期だし」

「私が思ったように成長しなかったから、子供の頃みたいには好かれてないのかと。
私、モテないし」

「うー･･･、ごめん。
最近ちゃんと伝えてなかったから、不安にさせたんだね。
それに、マリーは普通にモテるよ。
実は、マリーに気がありそうなヤツには、僕が片っ端から釘を刺してたんだよ。
マリーに他の男が近寄るのが、我慢出来なかったから。
ごめんね、嫉妬深くて」

「嫉妬･･････」

「そうだよ」

嬉しい･･･けど、どうしても自信が持てなくて、長年のコンプレックスが顔を出す。

「でも、私、胸も小さい」

「そこも気にしてたのか。
あのね、大きさの好みとかないから。
僕にとっては〝マリーの〟と〝それ以外〟って認識しかないんだよ。
因みに〝マリーの〟にしか興味ないから」

アランの頬がちょっと赤くなった。
興味･･････あったのか。
我に帰れば私も恥ずかしい。
なんで胸の事とか言っちゃったかな？

「そもそも、マリーはこの婚約が父親達の気紛れで結ばれたと思ってない？」

「それはそうでしょ？お父様とセネヴィルのおじ様が親友だから･･･」

「そこから間違ってる。僕が2人に婚約させて欲しいって何度も頼んだんだよ。
マリーが好きだから」

驚いた。そんな話はお父様からも聞いていなかった。

「これからは、僕の気持ちは僕に聞いて。ちゃんと答えるから」

「･･････ごめん、なさい」

「もう婚約解消とか言わないでよ」

懇願する様な声に小さく頷いた瞬間、私はアランの温かな腕に閉じ込められた。


「あーー、もう。怖かった･･･」

ぎゅうぎゅうに抱きしめながら、アランが呟く。

「怖い？」

「普通は怖いでしょ。好きな子が自分との婚約を解消したがってるとか。
いつの間にか、僕の目を掻い潜って仲良くなってるヤツもいるし。
しかも、かわいいとか優しいとか言っちゃってさ」

見上げると、少し拗ねた顔。

「ああ、タリーニ様？」

「そう。それ。
彼の事、好きになった訳じゃないんだよね？」


当たり前だ。

「私はアランが好きだよ。子供の頃から、ずっと」

「～～～っっ！！！
･･････そういうのは、もっと早く言ってよ！」

耳まで真っ赤になったアランを見て、申し訳ない気持ちと、愛しい気持ちが同時に込み上げる。


きっと、私達は将来幸せな夫婦になる。