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22 恋愛音痴
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授業が終了する合図の鐘が鳴り、板書を写す手を止めた。
生徒達のお喋りが始まり、一気に教室内に騒めきが広がる。
事件の後処理などがあり、またもや休学を余儀なくされていた私達だが、漸く全ての処理が済んだので学園に通い始めた。
休学中も自邸での学習は続けていたので、授業には問題無く付いて行く事が出来ている。
しかし、私と違って、休学中、とても忙しかったレイモンドは、おそらく勉強をする時間は無かったに違いない。
ちゃんと授業に付いて行けているのだろうか?
学年が違うので様子が分からず、少し心配だ。
まあ、彼は私よりもずっと頭が良いので、余計な心配なのかも知れないけれど。
「ねえ、悪いけど、この教材を職員室に運んでおいて頂けないかしら?
この後すぐに、職員会議に出なくてはいけなくて・・・」
焦った様子の女性教員に呼び止められて、雑用を頼まれた。
男子生徒の方が適任では?と思って、周囲を見回すが、次の授業は移動教室なので、既にこの場に残っている生徒は少ない。
(まあ、私でもなんとか持てそうか。
片付けてからでも、移動は間に合いそうだし・・・)
「良いですよ」
「ごめんなさいね。有難う」
見た目よりもズッシリと重い教材を両腕に抱えて、私は教室を出た。
「凄い荷物ですね」
廊下を歩いていると、一人の男子生徒に声を掛けられた。
今迄話した事は無かったけど、人の良さそうな顔にはなんとなく見覚えがある。
確か、隣のクラスの人だ。
「半分持ちましょう」
そう言いながら、答えを待たずに、重そうな物ばかりをヒョイヒョイと私の腕の中から取り除いていく。
「有難うございます。
思ったより重たくて、ちょっと困っていたので助かります」
お礼を言うと、微かに照れた様な笑顔になった。
「メルヴィル様の事は以前から気になっていて、是非一度お話ししてみたいと思っていたんです。
良かったらお友達になってくれませんか?
僕の名前は・・・」
「姉上、何をしているんですか?」
話を遮る様に投げ掛けられた声に振り返ると、顔に感情の読めない笑みを貼り付けたレイモンドが居た。
「ああ、レイモンド。
さっき先生に教材の片付けを頼まれて・・・」
「そちらの方は?」
レイが、私の隣の彼にチラリと視線を向ける。
「お隣のクラスの方なの。
重そうだからって手伝ってくださったのよ」
「そうなんですか。
姉を助けて下さって、有難うございます。
姉に急ぎの話がありますので、ここからは僕が代わりに持ちましょう」
有無を言わさず彼から教材の束を受け取ると、ニコリと微笑んで、さっさと歩き出してしまった。
「あ、あの。
本当に、有難うございました」
手伝ってくれた彼にペコリと頭を下げて、レイの背中を小走りで追い掛ける。
職員室に教材を届け終わるまで、二人とも無言だった。
なんとなく、話しかけ難い空気が漂っていたから。
頼まれた雑用を済ませ、戻る途中でレイが徐に口を開いた。
「・・・・・・さっきの彼とは、仲が良いのですか?」
レイが私の交友関係に口を出すのは初めてだ。
少々不機嫌な様にも見えるのだが、気のせいだろうか?
「さっき初めて話したのよ。
でも、お友達になりたいって言ってくれて・・・」
「へぇ・・・」
「レイ、何か怒ってる?」
「いや、怒っては居ないです。
ですが、彼がなりたいのは『友達』では無いと思いますよ。
気を付けて下さいね。
貴女、今、王太子殿下と婚約を破棄したばっかりで、男性達の注目を集めているのですから」
下心を持って私に近付く者を警戒していたのか。
だが、ちょっと心配し過ぎなのではないだろうか。
「えー?考え過ぎよぉ」
「いいえ。
姉上は、恋愛に関してはポンコツなのですから、自覚して下さい」
「普通に失礼ね」
まさかのポンコツ呼ばわり!
確かに、恋愛事には疎いかも知れないけど、そこまで言われる程では無いと思うの。
思わず不満顔になってしまった私に、レイは胡乱な目を向ける。
「はぁ・・・・・・。
義弟という立場は厄介ですね。
どんなに必死にアピールしても、全く本気にしてもらえない」
「急になんの話?」
「なんでもありません。
・・・・・・ところで、義父上に釣書を渡されたそうですが、どうするつもりですか?」
先程レイが隣のクラスの男子に言っていた『姉に急ぎの話』とは、私の縁談の件なのだろうか?
特に緊急性は感じられないけれど。
「お父様は、『自分の幸せだけを考えて決めろ』って仰るのだけれど、私には、まだ良く分からなくて・・・。
取り敢えず、いつまでもお返事しない訳にもいかないから、一旦全てお断りしようかと思っているの」
「そうですか、それは良かった」
良かったとは、どう言う意味なのだろうか?
今日のレイは謎の発言が多い。
「姉上、今日、邸に帰ったら、大事なお話があります。
お時間頂けますか?」
「別に構わないけど・・・」
「では、また後ほど」
いつの間にか上機嫌になっていたレイは、颯爽と去って行った。
(なんだったのかしら?)
私は彼の背中をボンヤリと見送った。
生徒達のお喋りが始まり、一気に教室内に騒めきが広がる。
事件の後処理などがあり、またもや休学を余儀なくされていた私達だが、漸く全ての処理が済んだので学園に通い始めた。
休学中も自邸での学習は続けていたので、授業には問題無く付いて行く事が出来ている。
しかし、私と違って、休学中、とても忙しかったレイモンドは、おそらく勉強をする時間は無かったに違いない。
ちゃんと授業に付いて行けているのだろうか?
学年が違うので様子が分からず、少し心配だ。
まあ、彼は私よりもずっと頭が良いので、余計な心配なのかも知れないけれど。
「ねえ、悪いけど、この教材を職員室に運んでおいて頂けないかしら?
この後すぐに、職員会議に出なくてはいけなくて・・・」
焦った様子の女性教員に呼び止められて、雑用を頼まれた。
男子生徒の方が適任では?と思って、周囲を見回すが、次の授業は移動教室なので、既にこの場に残っている生徒は少ない。
(まあ、私でもなんとか持てそうか。
片付けてからでも、移動は間に合いそうだし・・・)
「良いですよ」
「ごめんなさいね。有難う」
見た目よりもズッシリと重い教材を両腕に抱えて、私は教室を出た。
「凄い荷物ですね」
廊下を歩いていると、一人の男子生徒に声を掛けられた。
今迄話した事は無かったけど、人の良さそうな顔にはなんとなく見覚えがある。
確か、隣のクラスの人だ。
「半分持ちましょう」
そう言いながら、答えを待たずに、重そうな物ばかりをヒョイヒョイと私の腕の中から取り除いていく。
「有難うございます。
思ったより重たくて、ちょっと困っていたので助かります」
お礼を言うと、微かに照れた様な笑顔になった。
「メルヴィル様の事は以前から気になっていて、是非一度お話ししてみたいと思っていたんです。
良かったらお友達になってくれませんか?
僕の名前は・・・」
「姉上、何をしているんですか?」
話を遮る様に投げ掛けられた声に振り返ると、顔に感情の読めない笑みを貼り付けたレイモンドが居た。
「ああ、レイモンド。
さっき先生に教材の片付けを頼まれて・・・」
「そちらの方は?」
レイが、私の隣の彼にチラリと視線を向ける。
「お隣のクラスの方なの。
重そうだからって手伝ってくださったのよ」
「そうなんですか。
姉を助けて下さって、有難うございます。
姉に急ぎの話がありますので、ここからは僕が代わりに持ちましょう」
有無を言わさず彼から教材の束を受け取ると、ニコリと微笑んで、さっさと歩き出してしまった。
「あ、あの。
本当に、有難うございました」
手伝ってくれた彼にペコリと頭を下げて、レイの背中を小走りで追い掛ける。
職員室に教材を届け終わるまで、二人とも無言だった。
なんとなく、話しかけ難い空気が漂っていたから。
頼まれた雑用を済ませ、戻る途中でレイが徐に口を開いた。
「・・・・・・さっきの彼とは、仲が良いのですか?」
レイが私の交友関係に口を出すのは初めてだ。
少々不機嫌な様にも見えるのだが、気のせいだろうか?
「さっき初めて話したのよ。
でも、お友達になりたいって言ってくれて・・・」
「へぇ・・・」
「レイ、何か怒ってる?」
「いや、怒っては居ないです。
ですが、彼がなりたいのは『友達』では無いと思いますよ。
気を付けて下さいね。
貴女、今、王太子殿下と婚約を破棄したばっかりで、男性達の注目を集めているのですから」
下心を持って私に近付く者を警戒していたのか。
だが、ちょっと心配し過ぎなのではないだろうか。
「えー?考え過ぎよぉ」
「いいえ。
姉上は、恋愛に関してはポンコツなのですから、自覚して下さい」
「普通に失礼ね」
まさかのポンコツ呼ばわり!
確かに、恋愛事には疎いかも知れないけど、そこまで言われる程では無いと思うの。
思わず不満顔になってしまった私に、レイは胡乱な目を向ける。
「はぁ・・・・・・。
義弟という立場は厄介ですね。
どんなに必死にアピールしても、全く本気にしてもらえない」
「急になんの話?」
「なんでもありません。
・・・・・・ところで、義父上に釣書を渡されたそうですが、どうするつもりですか?」
先程レイが隣のクラスの男子に言っていた『姉に急ぎの話』とは、私の縁談の件なのだろうか?
特に緊急性は感じられないけれど。
「お父様は、『自分の幸せだけを考えて決めろ』って仰るのだけれど、私には、まだ良く分からなくて・・・。
取り敢えず、いつまでもお返事しない訳にもいかないから、一旦全てお断りしようかと思っているの」
「そうですか、それは良かった」
良かったとは、どう言う意味なのだろうか?
今日のレイは謎の発言が多い。
「姉上、今日、邸に帰ったら、大事なお話があります。
お時間頂けますか?」
「別に構わないけど・・・」
「では、また後ほど」
いつの間にか上機嫌になっていたレイは、颯爽と去って行った。
(なんだったのかしら?)
私は彼の背中をボンヤリと見送った。
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