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21 愚か者達の末路
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「キャシー、本当に済まなかった!!」
珍しく執務室に呼び出された私は、応接セットのソファーにお父様と向かい合って座っている。
座ったままの姿勢で、勢い良く私に頭を下げたお父様は、テーブルに額を『ゴッ』と打ち付け、そのまま動かなくなった。
(今、凄い音したけどっっ!?)
「おっ、お父様、頭をお上げくださいませ。
なんの謝罪ですか!?」
慌ててそう問うと、悲痛な顔のお父様がゆっくりと顔を上げた。
その額は真っ赤になっている。
とても痛そう。
「私が王家からの婚約打診を断りきれなかったばっかりに、キャシーをあんなクズの婚約者にしてしまった。
長年苦労をさせた挙句、命まで脅かされて・・・・・・。
親として情け無い」
「いいえ。
こんな事態になるまで、私が放って置いたのがいけなかったのです。
もっと早く、お父様に相談していれば良かったのですわ。
だから、もう気にしないで下さい」
「キャシー・・・・・・。有難う」
お父様の目には涙が浮かんでいた。
感極まったからなのか、打ち付けた額が痛いからなのかは不明である。
お父様は、今回の事件の一番の被害者だった私に、罪を犯した者達の供述や下された判決について説明してくれた。
まず、ジェイク・マクレガーについて。
彼は、エミリー・アシュトンの菓子に混入していた薬物の影響で、洗脳状態と言うか彼女への思慕が盲目的になっている状態の為、先ずは薬物を抜く為に医療研究施設に送られるらしい。
自分の罪を正しく理解した上で、刑に服させる為である。
まだ認可されていない、薬物を抜く治療法の治験者として協力した後、薬が抜けたら罪人の焼印を押されて炭鉱へ労働者として送られる予定だ。
公爵令嬢の殺人未遂を犯した割には甘い刑罰にも思えるが、心神喪失状態での犯行なので、これくらいが妥当だろう。
・・・・・・と、いうのは表向きの話で、おそらくはレイモンドかお父様が『死んで楽になるよりも、正気を取り戻して後悔の中で生きて苦しめ』と考えて、この刑罰になる様に誘導したのでは無いかと私は思っている。
黒幕だったアシュトン男爵は、余罪もたっぷり見つかった為、公開処刑が決まったと言う。
因みに王立図書館で図鑑を盗んだのは、男爵の手の者だったらしい。
メルヴィル公爵家がアシュトン商会を調べ始めた事に気付いて、私達を監視していた様だ。
焦って余計な事をしなければ、こんなに早く毒薬の種類が判明する事も無かったのに。
馬鹿だな。
エミリー・アシュトンは、王太子とその側近候補へ洗脳効果のある薬を盛った罪と、父である男爵の罪の連座が適用され、罪人の焼印を押されての国外追放が決まった。
爵位は低くともお金持ちの家に生まれ、なんでも与えられて我儘放題に育った彼女が、言葉も通じない異国で平民として暮らさなければならないのだから、きっと耐えられないだろう。
しかも、罪人の焼印が押されていては、まともな職に就いたり結婚する事なども叶わない。
男爵夫人もエミリーと同じ罰を受けることになった。
クリストファー殿下に対しては、メルヴィル公爵家としては、『地下牢への幽閉が妥当である』と主張したのだが、王妃は納得出来ないと言い張った。
『薬を盛られたせいで正気では無かった』と、実際にはクリストファーには効果が出なかった薬の件を持ち出して減刑を求めたらしい。
結局はジェイク・マクレガーと共に施設に送られた後、子種を撒かない様に去勢されて、王家が所有する辺境の別邸にて蟄居させられると言う、甘めの判決となった。
だが、この件で多くの高位貴族達が王妃への不信感を抱いている。
結果、殆どの貴族が側妃様の子である第二王子派となり、王妃が産んだ第三王子の王位継承は絶望的となった。
本来、王妃は今迄通りの権力を維持したいのであれば、クリストファーを切り捨てて、第三王子を王太子にする事にのみ尽力するべきだった。
しかし、彼女は愛する息子を見捨てられなかった。
王妃のした事は、為政者としては最低の悪手である。
だが、一人の母として考えた場合、完全な間違いであるとも言い切れない気がするのだ。
クリストファーは、幼い頃から周囲に能力を疑問視され、影で嘲られたりした結果、誰のことも信じられない状態になった。
そして、無邪気に自分を頼ってくれて、手放しで褒め倒してくれるエミリーに夢中になったのだ。
だが、一番彼の事を愛していたのは、きっと王妃だと思う。
クリストファーの軽率な行動のせいで、その王妃の権威は失墜した。
更に、同じ両親を持つ唯一の弟は、玉座から遠ざかった。
それに気付いた時に、クリストファーは何を思うのだろうか?
彼の刑罰について、レイモンドは未だに納得出来ないらしく、事あるごとにブツブツと文句を言っているのだが、私としては、二度と会わずに済むのであればそれで良いと思っている。
クリストファーの蟄居が解かれる事はレイモンドが許さないだろうから、その点に関しては全く心配していない。
事件が無事に解決してホッとした反面、少々気掛かりな事もあって・・・。
良い機会なので、お父様に相談してみる事にした。
「クリストファー殿下との婚約が、王家の有責で解消出来たのは良かったのですが、いくら此方に問題がなかったとはいえ婚約破棄をした私に次の縁談が見つかるでしょうか?
お父様やレイモンドに迷惑がかかるのでは無いかと・・・」
「キャシーは今迄、婚約者に苦労をさせられ続けたのだから、無理に結婚しなくても良いけれど、婚約の打診ならば既に沢山届いているよ」
そう言って、お父様がキャビネットから取り出したのは本当に沢山の釣書だった。
少なく見積もっても二十は有りそうだ。
「結婚相手はキャシーが決めて良い。
この中から選んでも良いし、それ以外でも。
キャシーが想いを寄せる相手であれば、身分も問わない。
家の為では無く、自分の幸せだけを考えて決めなさい」
「自分の・・・幸せ・・・」
そんな風に考えた事は無かった。
貴族令嬢に生まれた以上、家の為に結婚するのが当たり前だと思っていたから。
渡された釣書を抱えて自室に戻った私は、お父様の言葉を思い返していた。
(私が、想いを寄せる相手・・・)
あり得ない人物の顔が浮かびそうになって、慌ててかぶりを振る。
浮かびかけた顔が霧散して、ホッと息を吐いた。
(最近ずっと近くにいたから、思い浮かんだだけよ。
深い意味なんてない。
きっと、多分、そうだわ)
珍しく執務室に呼び出された私は、応接セットのソファーにお父様と向かい合って座っている。
座ったままの姿勢で、勢い良く私に頭を下げたお父様は、テーブルに額を『ゴッ』と打ち付け、そのまま動かなくなった。
(今、凄い音したけどっっ!?)
「おっ、お父様、頭をお上げくださいませ。
なんの謝罪ですか!?」
慌ててそう問うと、悲痛な顔のお父様がゆっくりと顔を上げた。
その額は真っ赤になっている。
とても痛そう。
「私が王家からの婚約打診を断りきれなかったばっかりに、キャシーをあんなクズの婚約者にしてしまった。
長年苦労をさせた挙句、命まで脅かされて・・・・・・。
親として情け無い」
「いいえ。
こんな事態になるまで、私が放って置いたのがいけなかったのです。
もっと早く、お父様に相談していれば良かったのですわ。
だから、もう気にしないで下さい」
「キャシー・・・・・・。有難う」
お父様の目には涙が浮かんでいた。
感極まったからなのか、打ち付けた額が痛いからなのかは不明である。
お父様は、今回の事件の一番の被害者だった私に、罪を犯した者達の供述や下された判決について説明してくれた。
まず、ジェイク・マクレガーについて。
彼は、エミリー・アシュトンの菓子に混入していた薬物の影響で、洗脳状態と言うか彼女への思慕が盲目的になっている状態の為、先ずは薬物を抜く為に医療研究施設に送られるらしい。
自分の罪を正しく理解した上で、刑に服させる為である。
まだ認可されていない、薬物を抜く治療法の治験者として協力した後、薬が抜けたら罪人の焼印を押されて炭鉱へ労働者として送られる予定だ。
公爵令嬢の殺人未遂を犯した割には甘い刑罰にも思えるが、心神喪失状態での犯行なので、これくらいが妥当だろう。
・・・・・・と、いうのは表向きの話で、おそらくはレイモンドかお父様が『死んで楽になるよりも、正気を取り戻して後悔の中で生きて苦しめ』と考えて、この刑罰になる様に誘導したのでは無いかと私は思っている。
黒幕だったアシュトン男爵は、余罪もたっぷり見つかった為、公開処刑が決まったと言う。
因みに王立図書館で図鑑を盗んだのは、男爵の手の者だったらしい。
メルヴィル公爵家がアシュトン商会を調べ始めた事に気付いて、私達を監視していた様だ。
焦って余計な事をしなければ、こんなに早く毒薬の種類が判明する事も無かったのに。
馬鹿だな。
エミリー・アシュトンは、王太子とその側近候補へ洗脳効果のある薬を盛った罪と、父である男爵の罪の連座が適用され、罪人の焼印を押されての国外追放が決まった。
爵位は低くともお金持ちの家に生まれ、なんでも与えられて我儘放題に育った彼女が、言葉も通じない異国で平民として暮らさなければならないのだから、きっと耐えられないだろう。
しかも、罪人の焼印が押されていては、まともな職に就いたり結婚する事なども叶わない。
男爵夫人もエミリーと同じ罰を受けることになった。
クリストファー殿下に対しては、メルヴィル公爵家としては、『地下牢への幽閉が妥当である』と主張したのだが、王妃は納得出来ないと言い張った。
『薬を盛られたせいで正気では無かった』と、実際にはクリストファーには効果が出なかった薬の件を持ち出して減刑を求めたらしい。
結局はジェイク・マクレガーと共に施設に送られた後、子種を撒かない様に去勢されて、王家が所有する辺境の別邸にて蟄居させられると言う、甘めの判決となった。
だが、この件で多くの高位貴族達が王妃への不信感を抱いている。
結果、殆どの貴族が側妃様の子である第二王子派となり、王妃が産んだ第三王子の王位継承は絶望的となった。
本来、王妃は今迄通りの権力を維持したいのであれば、クリストファーを切り捨てて、第三王子を王太子にする事にのみ尽力するべきだった。
しかし、彼女は愛する息子を見捨てられなかった。
王妃のした事は、為政者としては最低の悪手である。
だが、一人の母として考えた場合、完全な間違いであるとも言い切れない気がするのだ。
クリストファーは、幼い頃から周囲に能力を疑問視され、影で嘲られたりした結果、誰のことも信じられない状態になった。
そして、無邪気に自分を頼ってくれて、手放しで褒め倒してくれるエミリーに夢中になったのだ。
だが、一番彼の事を愛していたのは、きっと王妃だと思う。
クリストファーの軽率な行動のせいで、その王妃の権威は失墜した。
更に、同じ両親を持つ唯一の弟は、玉座から遠ざかった。
それに気付いた時に、クリストファーは何を思うのだろうか?
彼の刑罰について、レイモンドは未だに納得出来ないらしく、事あるごとにブツブツと文句を言っているのだが、私としては、二度と会わずに済むのであればそれで良いと思っている。
クリストファーの蟄居が解かれる事はレイモンドが許さないだろうから、その点に関しては全く心配していない。
事件が無事に解決してホッとした反面、少々気掛かりな事もあって・・・。
良い機会なので、お父様に相談してみる事にした。
「クリストファー殿下との婚約が、王家の有責で解消出来たのは良かったのですが、いくら此方に問題がなかったとはいえ婚約破棄をした私に次の縁談が見つかるでしょうか?
お父様やレイモンドに迷惑がかかるのでは無いかと・・・」
「キャシーは今迄、婚約者に苦労をさせられ続けたのだから、無理に結婚しなくても良いけれど、婚約の打診ならば既に沢山届いているよ」
そう言って、お父様がキャビネットから取り出したのは本当に沢山の釣書だった。
少なく見積もっても二十は有りそうだ。
「結婚相手はキャシーが決めて良い。
この中から選んでも良いし、それ以外でも。
キャシーが想いを寄せる相手であれば、身分も問わない。
家の為では無く、自分の幸せだけを考えて決めなさい」
「自分の・・・幸せ・・・」
そんな風に考えた事は無かった。
貴族令嬢に生まれた以上、家の為に結婚するのが当たり前だと思っていたから。
渡された釣書を抱えて自室に戻った私は、お父様の言葉を思い返していた。
(私が、想いを寄せる相手・・・)
あり得ない人物の顔が浮かびそうになって、慌ててかぶりを振る。
浮かびかけた顔が霧散して、ホッと息を吐いた。
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