【完結】私を嫌ってたハズの義弟が、突然シスコンになったんですが!?

miniko

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20 元王太子の罪

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《side:レイモンド》


姉上の毒殺未遂事件は解決し、同時に姉上が気にしていた違法薬物密輸入事件も解決した。
アシュトン商会の人間や、違法薬物を流出させた他国側の関係者も含めて、予想以上に多くの人間が捕縛された。


クリストファー殿下は、姉上の事件に直接の関わりは無かったのだが、義父上に依頼してあった金の動きの調査の結果、国費を不正流用していた事が判明した。

求められていた執務の量に対して、自身の能力が足りていなかったクリストファーは、常に仕事を溜め込んでおり、時間に追われていた。
度々アシュトン嬢に宝石やドレスを強請られていたのだが、彼は女性のドレスや宝飾品にはあまり興味がなく、恋人へのプレゼントを選ぶ時間さえ惜しんだ。
だから、プレゼントをする代わりに、求められるままに現金を渡してしまっていたのだそうだ。
その資金源は、王太子の婚約者の為の経費。
領収書を偽装し、姉上の為に使っている様に見せ掛けて、不正に流用していたのだ。

アシュトン嬢に渡った金は、ドレスなどの購入にはほんの一部しか使われておらず、その殆どがアシュトン商会へと流れていた。
王太子殿下が、国庫の金を犯罪集団へと流していたのだ。

陛下はこの事実を重く見て、クリストファーを廃嫡し、罪に問う事を決めた。
当然ながら、姉上との婚約も、王家の有責により破棄となる予定だ。


・・・・・・と、まあ、それは僥倖であるのだが。



「あ"~~!!
足りない!姉上が足りない!!」

王城の文官達が、無言で、残念な物を見る目を僕に向ける。

メルヴィル公爵家が独自に調査していた、姉上の殺害未遂とアシュトン商会の違法行為について、捜査への協力を求められ、僕は毎日王城に出仕している。

(何故、僕がこんな目に・・・)

帰宅してからも、被害者の家族として、罪人達の刑罰に関する要望書を作成したり、出来るだけ辛い刑罰が科される様にと裏から色々と工作している。
姉上にした事を心の底から後悔させる為、手を尽くす。
特に元王太子達三人については、死ぬ程辛い思いをさせたい所なのだが、元王太子の実母である王妃が邪魔をしてきて、なかなか上手く行かない。

その他にも、元王太子と姉上の婚約破棄に関する書類を作成したり、第二王子を次の王太子に推す為の根回しをしたりもしなければならず・・・・・・。
義父上と分担して作業に当たっているのだが、やる事が山積みで睡眠時間も削られている。

当然、姉上に会う時間も極端に減っているのだ。
つい先日迄は、護衛と称して常に姉上にべったり寄り添っていられたのに・・・。

(無理だ。
ちょっと充電しなければ、これ以上は頑張れない)

僕は、今日こそは絶対に早く帰宅すると決意した。



「お帰りなさい、レイ。
今日は早く帰れたのね
貴方、最近働き詰めだけど、体は大丈夫なの?」

姉上が心配そうに僕の顔を覗き込む。
夢にまで見た彼女の姿を前にして、どうしても抱き締めたい衝動に駆られた。

「・・・・・・ハグして下さい」

「は?」

意外過ぎる要求だったのだろうか?
姉上が珍しく、淑女らしからぬ声を漏らして呆気に取られた表情になった。

「あはは。
ポカンとした表情も可愛いなぁ」

「何言ってんの?
もしかして、揶揄ってる?」

「全然。揶揄ってなんかいないですよ。
もう疲労が限界で。
姉上がハグしてくれたら復活します。
ちょっとで良いから。
ね?はい」

さあ、どうぞ。と言う様に、僕は両腕を広げた。

「いやいや、おかしいでしょ?」

「姉上の事件の後始末と姉上の婚約破棄の手続きで、多忙を極めてヘトヘトなんです。
ハグしてくれないと、もう動けません」

「なにそれ、拒絶し難い!」

困った様に眉を下げた姉上は、少し逡巡する様子を見せる。
やがて、目を閉じてため息をつくと、諦めた様に軽く笑った。
ポスンと僕の胸に顔を埋めた彼女の小さな手が、僕の背中をさする。

「お疲れ様。
レイはとっても頑張ってるね」

いつの間にか僕よりもずっと小さくなっていた彼女の体をギュと抱き締めて、ひと時の幸せに浸る。

(ああ、この幸せの為なら、僕はなんだって出来るのに・・・)

もう少しで、この諸々の後処理が終わる。
事件に区切りが付いたら、彼女に想いを伝えるつもりだ。
義父上からは、「キャサリンが同意したら」と言う条件で、既に結婚の許可を得ている。

だが、もしも、彼女が僕の手を取ってくれなかったら・・・・・・。

元王太子との婚約破棄は、まだ正式発表の前だが、既に噂は出回っており、姉上には早くも沢山の婚約の打診が寄せられている。
釣書の中には、オスカー・デズモンドの名もあった。

デズモンドと姉上が微笑み合う姿を想像するだけで、腹の奥から不快な何かが湧いて来る。


───もしも、彼女が他の誰かの手を取った時、僕は本当に祝福してあげる事が出来るのだろうか?
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