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19 天国から地獄へ
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《side:エミリー》
「エミリーは世界で一番可愛いよ。
こんなに可愛いのだから、いつか王子様が迎えに来るだろう」
「ええ、きっとそうね。
エミリーほど可愛ければ、この国で一番高貴なお方に見初められるに違いないわ」
お父様もお母様も、いつも私にそう言っていた。
だから、私はそれを信じたの。
───だって、それが私が生きている、小さな小さな世界の全てだったから。
幸いにも愛らしい容姿に生まれた私は、幼い頃から蝶よ花よと大切に育てられた。
「外は危ないんだよ。
悪い大人がいっぱい居るんだ。
大事なエミリーが誘拐されたりしたら、大変だからね」
学園に入る迄、私は余り邸の外へ出して貰えなかった。
同年代のお友達は一人も居ない。
まさに箱入りのご令嬢である。
私と話してくれる人は、両親と、使用人と、たまに来る淑女教育の先生だけ。
だけど私に不満は無かった。
だって、両親も使用人達も、皆んな私を『可愛い、可愛い』ってチヤホヤしてくれるのだもの。
私は家の中に閉じ籠り、趣味のお菓子作りをしたり、読書をしたり、お人形遊びをしたりする生活。
ちょっぴり退屈だったけど、男爵の割にお金持ちなお父様は、私が強請れば何でも買ってくれるし、不自由はしなかった。
だけど、淑女教育の先生だけは嫌い。
こんなに可愛い私の事を、厳しく叱るのだもの。
ポロポロと涙を流しながら、先生が厳し過ぎるとお母様に訴えれば、翌週からは違う先生に代わっていた。
でも、その先生もすぐに叱るから、同じ様に泣きながら訴えて、クビにしてもらった。
そんな事を何度も繰り返して、最後に来た先生は、私にニコニコ話しかけるだけで、全く叱らない人だった。
来る度に、ただ私とお茶を飲んで、楽しくお喋りして帰るだけ。
無理矢理お勉強をさせないこの先生は、私のお気に入りだったので、クビにされる事も無く、私が学園に入学するまで雇われていた。
そして、私も学園に通う年齢になる。
学園には、私が殆ど交流した事が無い同年代の人達が沢山居るんですって。
とってもワクワクする。
(私は可愛いんだし、お金持ちなんだから、皆んな私とお友達になりたがるはず。
そして、カッコいい男の子達にチヤホヤされるはず)
そう思って入学した学園での生活は、私が夢見ていたのと全然違ってた。
礼儀作法が全く身に付いていない私は、同級生達から遠巻きにされ、コソコソと噂話をされる存在だった。
その内、教科書や鞄に悪戯をされる様になる。
今迄、自分を愛してくれる人としか接して来なかった私は、すぐに耐えられなくなって、裏庭のベンチで一人泣いていた。
「どうしたの?
何故泣いているの?」
問い掛けられて顔を上げたら、見た事もない程美しい男の人が、私にハンカチを差し出していた。
「・・・王子様、みたい」
思わず呆然と呟いた私に、その人は笑った。
「一応、本物の王子様だよ」
それが、クリス様と私の出会いだった。
クリス様は、私が虐められていると相談すると、とっても怒ってくれた。
「今度から、虐めてくる奴には、私の名前を出すと良い」
そう言ったクリス様は、その後、授業中以外はなるべく私と一緒に過ごしてくれる様になった。
王太子殿下と親しくしていると知れ渡ると、私を虐める人は居なくなった。
相変わらず遠巻きにされて、お友達が出来ないのは寂しかったけど、クリス様が居れば他は要らないとも思った。
お父様とお母様にクリス様と仲良くなったと報告すると、とても喜んでくれた。
「やっぱり、エミリーは王太子殿下に見初められたのね」
「殿下には婚約者が居るが、もっとエミリーの魅力を知れば、婚約者と別れてエミリーを王妃にしてくれるかも知れないぞ」
そう言って、お父様は私にお菓子を作る様に勧めた。
恋が叶うおまじないだと言って、白い粉を渡された。
この粉を入れてチョコレート味のお菓子を作って、意中の人に食べさせると、恋が叶うんだって!
早速、チョコレート味のお菓子を作ってクリス様に差し入れた。
『皆んなにチヤホヤされたいなら、クリス様といつも一緒にいる二人にも、同じお菓子を渡すと良い』とお父様が言っていたから、勿論そうした。
それから暫く経つと、クリス様は、私に愛を告白してくれた。
婚約者のキャサリン様とは政略的な関係で、愛は無いんだって。
キャサリン様の方は、クリス様の事が好きかも知れないけど、仕方ないじゃない。
だって、私は世界で一番可愛いんだもの。
クリス様が私を選ぶのは当然だわ。
これで私が王妃様になれるって思ったのに・・・・・・。
クリス様は、私を側妃にするとか、愛妾にするとか言い出したの。
酷いと思わない!?
だから、私は泣きながらお父様に相談した。
お父様は、「私がなんとかするから、エミリーは心配しなくて良いよ」って。
お父様がそう言うなら、きっと大丈夫。
だって、今迄お父様が言った事に間違いなんて無かったんだもの。
そう思ってたのに───。
ジェイク様が、キャサリン様を殺そうとした罪で捕まった。
それを指示したのは、お父様だったって・・・・・・。
しかも、お父様は違法な薬物を流通させた罪も犯していたとか言われても・・・・・・。
そんなの嘘よ!信じられない!
そして、私もお母様も、連座?・・・とか言う奴で、牢屋に入れられた。
何もしてないのにって叫んだら、クリス様達に差し入れしていたお菓子に、違法薬物が入れてあったって言われた。
違法薬物って・・・、もしかして、あのおまじないの粉?
なんで!?
お父様、なんで私がこんな目に遭うの?
私は何も知らなかった。
何も知らなかったのに───!!
「エミリーは世界で一番可愛いよ。
こんなに可愛いのだから、いつか王子様が迎えに来るだろう」
「ええ、きっとそうね。
エミリーほど可愛ければ、この国で一番高貴なお方に見初められるに違いないわ」
お父様もお母様も、いつも私にそう言っていた。
だから、私はそれを信じたの。
───だって、それが私が生きている、小さな小さな世界の全てだったから。
幸いにも愛らしい容姿に生まれた私は、幼い頃から蝶よ花よと大切に育てられた。
「外は危ないんだよ。
悪い大人がいっぱい居るんだ。
大事なエミリーが誘拐されたりしたら、大変だからね」
学園に入る迄、私は余り邸の外へ出して貰えなかった。
同年代のお友達は一人も居ない。
まさに箱入りのご令嬢である。
私と話してくれる人は、両親と、使用人と、たまに来る淑女教育の先生だけ。
だけど私に不満は無かった。
だって、両親も使用人達も、皆んな私を『可愛い、可愛い』ってチヤホヤしてくれるのだもの。
私は家の中に閉じ籠り、趣味のお菓子作りをしたり、読書をしたり、お人形遊びをしたりする生活。
ちょっぴり退屈だったけど、男爵の割にお金持ちなお父様は、私が強請れば何でも買ってくれるし、不自由はしなかった。
だけど、淑女教育の先生だけは嫌い。
こんなに可愛い私の事を、厳しく叱るのだもの。
ポロポロと涙を流しながら、先生が厳し過ぎるとお母様に訴えれば、翌週からは違う先生に代わっていた。
でも、その先生もすぐに叱るから、同じ様に泣きながら訴えて、クビにしてもらった。
そんな事を何度も繰り返して、最後に来た先生は、私にニコニコ話しかけるだけで、全く叱らない人だった。
来る度に、ただ私とお茶を飲んで、楽しくお喋りして帰るだけ。
無理矢理お勉強をさせないこの先生は、私のお気に入りだったので、クビにされる事も無く、私が学園に入学するまで雇われていた。
そして、私も学園に通う年齢になる。
学園には、私が殆ど交流した事が無い同年代の人達が沢山居るんですって。
とってもワクワクする。
(私は可愛いんだし、お金持ちなんだから、皆んな私とお友達になりたがるはず。
そして、カッコいい男の子達にチヤホヤされるはず)
そう思って入学した学園での生活は、私が夢見ていたのと全然違ってた。
礼儀作法が全く身に付いていない私は、同級生達から遠巻きにされ、コソコソと噂話をされる存在だった。
その内、教科書や鞄に悪戯をされる様になる。
今迄、自分を愛してくれる人としか接して来なかった私は、すぐに耐えられなくなって、裏庭のベンチで一人泣いていた。
「どうしたの?
何故泣いているの?」
問い掛けられて顔を上げたら、見た事もない程美しい男の人が、私にハンカチを差し出していた。
「・・・王子様、みたい」
思わず呆然と呟いた私に、その人は笑った。
「一応、本物の王子様だよ」
それが、クリス様と私の出会いだった。
クリス様は、私が虐められていると相談すると、とっても怒ってくれた。
「今度から、虐めてくる奴には、私の名前を出すと良い」
そう言ったクリス様は、その後、授業中以外はなるべく私と一緒に過ごしてくれる様になった。
王太子殿下と親しくしていると知れ渡ると、私を虐める人は居なくなった。
相変わらず遠巻きにされて、お友達が出来ないのは寂しかったけど、クリス様が居れば他は要らないとも思った。
お父様とお母様にクリス様と仲良くなったと報告すると、とても喜んでくれた。
「やっぱり、エミリーは王太子殿下に見初められたのね」
「殿下には婚約者が居るが、もっとエミリーの魅力を知れば、婚約者と別れてエミリーを王妃にしてくれるかも知れないぞ」
そう言って、お父様は私にお菓子を作る様に勧めた。
恋が叶うおまじないだと言って、白い粉を渡された。
この粉を入れてチョコレート味のお菓子を作って、意中の人に食べさせると、恋が叶うんだって!
早速、チョコレート味のお菓子を作ってクリス様に差し入れた。
『皆んなにチヤホヤされたいなら、クリス様といつも一緒にいる二人にも、同じお菓子を渡すと良い』とお父様が言っていたから、勿論そうした。
それから暫く経つと、クリス様は、私に愛を告白してくれた。
婚約者のキャサリン様とは政略的な関係で、愛は無いんだって。
キャサリン様の方は、クリス様の事が好きかも知れないけど、仕方ないじゃない。
だって、私は世界で一番可愛いんだもの。
クリス様が私を選ぶのは当然だわ。
これで私が王妃様になれるって思ったのに・・・・・・。
クリス様は、私を側妃にするとか、愛妾にするとか言い出したの。
酷いと思わない!?
だから、私は泣きながらお父様に相談した。
お父様は、「私がなんとかするから、エミリーは心配しなくて良いよ」って。
お父様がそう言うなら、きっと大丈夫。
だって、今迄お父様が言った事に間違いなんて無かったんだもの。
そう思ってたのに───。
ジェイク様が、キャサリン様を殺そうとした罪で捕まった。
それを指示したのは、お父様だったって・・・・・・。
しかも、お父様は違法な薬物を流通させた罪も犯していたとか言われても・・・・・・。
そんなの嘘よ!信じられない!
そして、私もお母様も、連座?・・・とか言う奴で、牢屋に入れられた。
何もしてないのにって叫んだら、クリス様達に差し入れしていたお菓子に、違法薬物が入れてあったって言われた。
違法薬物って・・・、もしかして、あのおまじないの粉?
なんで!?
お父様、なんで私がこんな目に遭うの?
私は何も知らなかった。
何も知らなかったのに───!!
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