【完結】私を嫌ってたハズの義弟が、突然シスコンになったんですが!?

miniko

文字の大きさ
上 下
16 / 24

16 異国の青い花

しおりを挟む
「・・・ねぇ、レイモンド。
休憩前に私が読んでた図鑑、動かしてないよね?」

「え?はい。
触ってませんけど」

「・・・・・・無くなってる」

休憩の直前に書いたメモを見直していて、掲載されていた本のタイトルを書き忘れている事に気付き、その本を探したのだが見当たらない。
読み終えた本の山の一番上に乗せたはずなのに・・・。

「本当ですか!?
どんな図鑑だったか、覚えてます?」

「タイトルは覚えてないけど、確か、遠くの小さな島国『N王国』の本だったはずよ」

「誰かが持ち去ったのでしょうか?」

「・・・・・・」

お金になりそうな貴重な本だったら、他にも沢山所蔵されているが、私達が持って来て机に積んである本以外は、本棚から抜き取られた様な形跡は無いみたい。

積んであった山の中でも、無くなったのは多分一冊だけ。

これって事件と関係あるの?



その後、私達は図書館の責任者の方に事情を説明して、図鑑の紛失を陳謝した。
後日、図書館職員が蔵書を確認した所、やはり紛失したのは一冊だけだった様だ。

すぐに捜査機関が動いて、指紋などが残っていないか調べたが、空振りだったらしい。
流石に犯人も、そこまで馬鹿では無いみたいだ。

紛失した図鑑は、新品を公爵家が取り寄せて返す事になった。
更にご迷惑を掛けたお詫びとして、公爵家が所有している希少な書物を何冊か寄贈させて貰った。
蔵書の確認などの無駄な作業をさせてしまい、残業した職員もいたらしいので。
結果的には、責任者の方は、滅多にお目に掛かれない貴重な書物が手に入って、ホクホク顔で喜び、逆にお礼を言ってらしたとか。
きっと根っからの本好きなんだろうな。


発注から二週間が経ち、紛失したN王国の植物図鑑が公爵邸に届けられた。
図書館へ返却する前に、改めて内容を確認させて貰う。

(そうそう。この図鑑だ。見覚えがあるわ)

椅子に座って図鑑を開くと、私の背後に立っていたレイが一歩近付く気配がした。

「紛失が事件に関係あるなら、この図鑑に私が飲まされた毒が掲載されているのかしらね」

「うーん・・・。
だとしたら、あまり頭の良い犯人では無さそうですよね。
一冊だけ無くなるなんて、怪しんで下さいって言っているみたいな物だ」

「たまたま私が読んだばっかりだったから気付いたけど、一冊くらい無くなっても、直ぐには気付かれないと思ったんじゃないかしら?
逆に沢山の本が無くなれば、すぐに気付かれてしまうわ」

「そうかもしれませんね」

私が飲んだ毒について分かっている事は・・・・・・
植物性である事。
多分、遅効性である事。
眠った様な昏睡が続く事。
この国には無い、珍しい毒である事。

当初は、判断材料が少な過ぎて特定出来る気がしなかったのだが、この本から抜粋してメモに残した毒物は二つだけ。
結果として、図鑑紛失事件のお陰で大幅に絞り込む事が出来たのだ。
私達にとっては幸運。
犯人にとっては大誤算だろう。

ペラペラとページを捲り、一つ目の毒物を探す。

「あ・・・・・・」

私は、その毒の解説を読んで小さく声を上げた。

「ん?どうしました?」

問い掛けられて振り返ると、私の肩口から図鑑を覗き込もうと更に近付いていたレイと、思った以上に至近距離で目が合った。

心臓が大きく跳ねる。

驚いて固まる私と視線が絡まり、レイの頬がちょっと赤くなる。

「スミマセン・・・」

呟きながら、片手で顔を覆って目を逸らすレイ。
彼がこんなに動揺している所を見せるのは珍しい。

「いえ、急に振り返った私が悪かったの、だ、から・・・」

しどろもどろになりながら返事をする私の頬も、だんだん熱を持って来た。

(鼻先を掠めて、危うく唇まで触れてしまいそうな距離感だった・・・)

胸を摩り、ドクドクと煩く鳴り響く自分の心音を無視して、誤魔化す様に口を開く。

「あ、あのね・・・、この本の中で条件に合いそうだと思ったのは二つだけだったの。
でも、あの時は気付かなかったけど、こっちの草は、苦味が強いって書いてあるから・・・・・・」

私が指差したのは、ススキの様な細長い葉を持つ雑草。
根の部分が猛毒らしいが、苦味が強いならば、紅茶のような繊細な味の飲み物に入れたら、直ぐに気付かれてしまうだろう。

「と、いう事は、必然的にもう一つの方が・・・って事ですね」

レイに頷き、再びペラペラとページを捲って、目的の毒が掲載されている部分を見つけた。

「多分、この花ね」

鮮やかな青い色をしたその花は、形は菊にそっくりだが、全く違う品種らしい。
そもそも菊には青い色の物は存在しない。
N王国の中でも、特定の山の崖の上にしか咲かないその花は非常に珍しく、また、毒性が高い危険な植物でもあるとの事。

花弁の部分が特に毒性が強く、一輪分程も口にすれば、助からない事の方が多いらしい。
遅効性で、口にしてから数時間は全く変化が無く、突然意識を失い眠る様に命を落とす。
そんな、異国の毒花───。

私が飲んだ毒の条件にピッタリだ。


「一歩前進・・・なのかしら?」

「そうですね。
取り敢えず、アシュトン商会がN王国と取引をしているか確認させましょうか」

「それも勿論必要だけど・・・・・・。
私、ちょっと良い事思いついちゃった」

ウフフと笑うと、レイが苦い顔をした。

「姉上の言う〝良い事〟って大概ろくな事じゃないんですよね」

「あら失礼ね」

危険な事ではないわよ・・・・・・多分。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。 そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~

ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された 「理由はどういったことなのでしょうか?」 「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」 悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。 腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。

処理中です...