【完結】私を嫌ってたハズの義弟が、突然シスコンになったんですが!?

miniko

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13 眠れぬ夜は

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ふと意識が浮上し、重い瞼を開くと、真っ暗な天井だけが視界に映る。
月明かりを頼りに時計を見れば、まだ深夜であった。
なんとなく寝苦しくて目が覚めてしまったらしい。
最近なかなか寝付けなかったり、変な時間に目が覚めるのは、よくある事だった。

昏睡から目覚めても、暫くの間ベッドで過ごす事を強制されていたので、睡眠のリズムが乱れているのかも知れない。

或いは、命を狙われた事で精神状態が不安定になって、不眠に繋がっているのだろうか?
痛みも苦しみも感じていないせいで、殺されかけた実感が湧かず、あまり恐怖感は無いと思っていたのだが・・・。
普通に考えたら、不安にならない方がおかしい状況ではある。
自分でも気付かぬ内に、大きなストレスを抱えているのかもしれない。

暫くベッドの上で瞳を閉じてじっとしてみたが、眠れる気がしない。

・・・・・・仕方が無いわね。

私は眠るのを一旦諦めて、そっとベッドを抜け出した。
幸い今日は週末で、明日は学園が休みなのだ。
夜更かしして寝不足でも支障はないだろう。

部屋を出てランプを片手に廊下を進むと、レイモンドの執務室の扉の隙間から灯りが漏れていることに気が付く。

ノックをすると、部屋の中から誰何された。

「誰?」

「キャサリンよ。
入っても良い?」

内側から扉を開けたレイモンドは、少し驚いた表情。

「姉上。
こんな時間に何をなさっているのですか?」

「レイこそ、こんな遅くまで執務をしているの?
ちゃんと睡眠を取らないと、体を壊してしまうわ」

「今は僕の話は良いんですよ。
そんな事より・・・・・・」

薄い夜着とガウンを着ている私の姿を見つめた彼は、数秒間フリーズした後フッと目を逸らした。
仮眠に使っているらしいソファーから、大きめのブランケットを持って来ると、私の肩にかける。

「ガウンを着ているから、寒くは無いけど?」

「良いから羽織って下さい。
嫌なら、今すぐ姉上の部屋に強制送還します。
ほら、ちゃんと前を合わせて」

私は渋々ブランケットに包まった。
ちょっと暑い。

「で?こんな時間に何を?」

「ちょっと目が覚めちゃって・・・。
何か飲み物でも飲もうかと厨房に行く途中で、灯が見えたから・・・」

「では、そこに座ってて下さい」

レイは私を残して執務室を出る。
飲み物を取りに行ってくれたのだろうか?

待っている間に彼の執務机を覗き込むと、閉まった机の引き出しから、ちょっとだけ紙がはみ出している。
几帳面なレイがこんな風に書類を雑に扱う事は無い。
今さっき迄見ていた書類を私に見られない様に、咄嗟に引き出しにしまったのだろう。

・・・・・・人の机の引き出しを勝手に開けるのは、無作法過ぎるわよね。
でも・・・、気になる。

それに、妙に確信めいた予感がした。
この書類はきっと、私に関係のある物なのだと・・・・・・。
迷った挙句、思い切って引き出しを開けてはみ出していた二通の書類を取り出すと、ピッタリのタイミングで、マグカップを乗せたトレーを持ってレイが戻って来た。

「あぁ!勝手に見ないでくださいっ」

慌てて私の手から書類を奪うが、何の書類かは分かった。

「お菓子の分析が済んだのね。
あと・・・お腹の子の父親って何?」

レイは呆れた様に深い溜息を吐きながら、テーブルにマグカップを二つ置く。
中身は私のお気に入りの、蜂蜜が入ったホットミルクだった。

「さあ、これを飲んで、早く寝てください。
姉上、眠れない時はいつもこれを飲んでいたでしょ?」

「よく覚えてるわね。
子供の頃の話じゃない」

「姉上の事なら何でも覚えてますよ」

甘い微笑みを向けられると、少しドギマギする。
そういうのは、婚約者か恋人に言うヤツでしょ?

「ほら、昔よくリビングのソファーで毛布に包まって、二人で夜を明かしたじゃないですか。
その時にも、一緒に飲みました」

そう言いながら、レイはあの時と同じ様に、二人掛けのソファーに座った私の隣に寄り添う様に腰を下ろす。

「そんな事もあったわね。
レイが、嵐が怖いって泣くから・・・」

「その部分は思い出さなくて良いんですよ」

少し拗ねた表情で睨むレイが可愛らしくて、思わずフフッと笑みが零れた。
大人になってしまったと寂しく感じていたが、こうして見ればやっぱり子供の頃の面影が色濃く残っている。
レイはいつまでも、私の可愛いレイのままなのだと安心した。


「・・・・・・それで、お腹の子って何の話?
チョコレートブラウニーから何が出て来たの?」

「・・・・・・」

「レイモンド?」

呆れた様な紫の瞳と視線が絡まる。

「やっぱり諦めてはくれないのですね。
まあ、単独で行動されるよりは、情報を共有しておいた方が護りやすいかもしれません」

疎遠だった期間が長いのに、レイは私の性格を良く把握しているみたい。
どうせ止めても無駄だと諦めた様な表情だ。

「心配ばかり掛けてごめんなさい」

「仕方ないです。
姉上を護るのは、僕の役目ですから」

それは少し違う気もするのだけれど。


「・・・・・・実行犯の侍女が発見されました。
彼女は妊娠初期で、駆け出しの役者と付き合っていた形跡があります。
おそらく、それがお腹の子の父親です。
男は多額の借金を事件後に全額返済して、行方をくらませています」

なんとなく、レイの声色が重苦しくなった気がする。

行方をくらませた。
じゃあ、侍女はなぜ発見されたの?

とても嫌な予感───。

「もしかして、その侍女って・・・」

「川辺に倒れているのを遺体で発見されました。
妊娠初期だったので、お腹の子供も・・・。
外傷は有りましたが、全て川底にぶつけて負った物なので、状況から見ると自殺でしょう」

まさか死者まで出ていたなんて・・・・・・。

視界がグラリと揺れた。
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