7 / 24
7 容疑者の来訪
しおりを挟む
《side:レイモンド》
姉上の部屋を出た僕は、大きな溜息を吐いた。
───予想通り、事件に興味を持たれてしまったか。
本当ならば、義姉を出来るだけ危険から遠ざけて置きたいのだ。
事件の報告も、全てが解決してからと考えていた。
しかし、彼女が黙って解決を待っている様な性格では無いと言う事も分かっていた。
危険な事は周囲に任せて、安全な箱庭の中でのんびり過ごして欲しいのに、じっとしていてくれない。
そんな無鉄砲な所も、僕にとっては可愛いと思えてしまうのだから、困った物である。
だが、実行犯にされた侍女については、深く追及されなかった事に、内心ホッとしていた。
実の所、侍女が実行犯だと言う根拠ならあるのだが・・・。
侍女が遺体で発見された事は、姉上にはまだ伏せておきたい。
当日お茶を用意した殿下付きの侍女は、数日前、国境付近の川の下流で、河原に打ち上げられている所を発見された。
妊娠初期だった様だが、お腹の子供の父親は不明。
頭部に外傷があったが、殴られて出来た傷か、川底の石にぶつけたのか調査中である。
なので、事故か自殺か事件かは、まだ特定されていない。
しかし、姉上の事件に近い人物がタイミングよく死亡したのだから、無関係な訳は無いだろう。
「レイモンド様」
いつも冷静な執事が、若干の困惑を滲ませて僕を呼び止めた。
「デズモンド公爵家のオスカー様から、本日午後にお嬢様のお見舞いに伺いたいとの先触れが届きましたが、いかが致しましょう?」
「はっ?」
何故、オスカー・デズモンドが、わざわざ姉上の見舞いになど来るのか?
今まで対外的には、姉上は疲れから来る体調不良で伏せっているという事になっていたが、原因不明の昏睡状態が続いていた事を王家には明かして、その健康不安を理由に婚約解消を願い出ている。
このタイミングで来るという事は、その件に関する話なのか。
だとしたら、宰相か王太子の指示で動いているのだろうけれど。
もしくは、デズモンドも事件に関係していて、こちらに探りを入れようとしているのか。
奴がどんな目的で見舞いに来るのかは気になるが、姉上を会わせる訳にはいかない。
「断っておけ」
「勝手に断らないでよ」
背後から不機嫌そうな声がして、慌てて振り返る。
「姉上、ベッドから出てはダメじゃ無いですか」
「もう。大丈夫だってば。
邸の中くらい自由にしても良いでしょう?
そろそろ少しづつ動かさなければ、体がおかしくなっちゃうわ。
それより、私への面会の要請を、勝手に断らないでちょうだい」
「ですが、あの男は容疑者の一人ですよ?
姉上が会うのは危険です」
「容疑者だからこそ、話を聞きたいじゃない。
心配しなくても、一人で会ったりしないわ。
護衛も同席させるし、レイも立ち会ってくれるでしょう?
レイが私を護ってくれるのでしょう?」
上目遣いに僕を見上げる姿に、心臓が鷲掴みにされる。
クソッ!可愛いなっ!(チョロい)
「・・・わかりました」
「急に押し掛けてしまい、申し訳ありません。
しかし、思ったよりもお元気そうで安心しました」
僕達の正面のソファーに怜悧で美しい青年が座った。
彼は眼鏡の奥の瞳をスッと細めて、口元に笑みを浮かべる。
相変わらず、何を考えているかよく分からない男だ。
「わざわざお見舞いに来て頂き、有難うございます。
ご心配をお掛けして申し訳ありません」
暫く学園内の話や最近の気候の話など、当たり障りの無い会話が続き、コイツ何しに来たんだろうと思い始めた頃、デズモンドは漸く本題に入った。
「ところで、キャサリン嬢は、クリストファー殿下との婚約解消を打診していらっしゃるとか」
一瞬だけ姉上の眉がピクッと動いたが、直ぐに動揺を隠すように淑女の笑みを湛える。
王太子に頼まれて考え直す様に説得する為に来たのか、それとも円満に婚約解消を進める為に来たのか・・・。
「さあ?
婚約の事は父に全て任せておりますので、私は何も存じ上げません。
貴方のお父上である、宰相閣下にお聞きになられた方が宜しいのでは?」
「いえ、それが、この件に関しては、メルヴィル公爵と陛下が直接交渉なさっている様で、父の耳にも詳しい話はまだ入っていないのですよ。
ご本人が進捗をご存知ないのなら、まだ話し合いはあまり進んでいないのかもしれないですね。
残念です。
もし婚約解消なさるなら、次の婚約者に立候補しようと思って来たのですが」
「「は?」」
何食わぬ顔で紅茶に口を付ける男が発した言葉の意図を理解しかねる。
一拍遅れて、じわじわと胸に不快感が広がった。
姉上の部屋を出た僕は、大きな溜息を吐いた。
───予想通り、事件に興味を持たれてしまったか。
本当ならば、義姉を出来るだけ危険から遠ざけて置きたいのだ。
事件の報告も、全てが解決してからと考えていた。
しかし、彼女が黙って解決を待っている様な性格では無いと言う事も分かっていた。
危険な事は周囲に任せて、安全な箱庭の中でのんびり過ごして欲しいのに、じっとしていてくれない。
そんな無鉄砲な所も、僕にとっては可愛いと思えてしまうのだから、困った物である。
だが、実行犯にされた侍女については、深く追及されなかった事に、内心ホッとしていた。
実の所、侍女が実行犯だと言う根拠ならあるのだが・・・。
侍女が遺体で発見された事は、姉上にはまだ伏せておきたい。
当日お茶を用意した殿下付きの侍女は、数日前、国境付近の川の下流で、河原に打ち上げられている所を発見された。
妊娠初期だった様だが、お腹の子供の父親は不明。
頭部に外傷があったが、殴られて出来た傷か、川底の石にぶつけたのか調査中である。
なので、事故か自殺か事件かは、まだ特定されていない。
しかし、姉上の事件に近い人物がタイミングよく死亡したのだから、無関係な訳は無いだろう。
「レイモンド様」
いつも冷静な執事が、若干の困惑を滲ませて僕を呼び止めた。
「デズモンド公爵家のオスカー様から、本日午後にお嬢様のお見舞いに伺いたいとの先触れが届きましたが、いかが致しましょう?」
「はっ?」
何故、オスカー・デズモンドが、わざわざ姉上の見舞いになど来るのか?
今まで対外的には、姉上は疲れから来る体調不良で伏せっているという事になっていたが、原因不明の昏睡状態が続いていた事を王家には明かして、その健康不安を理由に婚約解消を願い出ている。
このタイミングで来るという事は、その件に関する話なのか。
だとしたら、宰相か王太子の指示で動いているのだろうけれど。
もしくは、デズモンドも事件に関係していて、こちらに探りを入れようとしているのか。
奴がどんな目的で見舞いに来るのかは気になるが、姉上を会わせる訳にはいかない。
「断っておけ」
「勝手に断らないでよ」
背後から不機嫌そうな声がして、慌てて振り返る。
「姉上、ベッドから出てはダメじゃ無いですか」
「もう。大丈夫だってば。
邸の中くらい自由にしても良いでしょう?
そろそろ少しづつ動かさなければ、体がおかしくなっちゃうわ。
それより、私への面会の要請を、勝手に断らないでちょうだい」
「ですが、あの男は容疑者の一人ですよ?
姉上が会うのは危険です」
「容疑者だからこそ、話を聞きたいじゃない。
心配しなくても、一人で会ったりしないわ。
護衛も同席させるし、レイも立ち会ってくれるでしょう?
レイが私を護ってくれるのでしょう?」
上目遣いに僕を見上げる姿に、心臓が鷲掴みにされる。
クソッ!可愛いなっ!(チョロい)
「・・・わかりました」
「急に押し掛けてしまい、申し訳ありません。
しかし、思ったよりもお元気そうで安心しました」
僕達の正面のソファーに怜悧で美しい青年が座った。
彼は眼鏡の奥の瞳をスッと細めて、口元に笑みを浮かべる。
相変わらず、何を考えているかよく分からない男だ。
「わざわざお見舞いに来て頂き、有難うございます。
ご心配をお掛けして申し訳ありません」
暫く学園内の話や最近の気候の話など、当たり障りの無い会話が続き、コイツ何しに来たんだろうと思い始めた頃、デズモンドは漸く本題に入った。
「ところで、キャサリン嬢は、クリストファー殿下との婚約解消を打診していらっしゃるとか」
一瞬だけ姉上の眉がピクッと動いたが、直ぐに動揺を隠すように淑女の笑みを湛える。
王太子に頼まれて考え直す様に説得する為に来たのか、それとも円満に婚約解消を進める為に来たのか・・・。
「さあ?
婚約の事は父に全て任せておりますので、私は何も存じ上げません。
貴方のお父上である、宰相閣下にお聞きになられた方が宜しいのでは?」
「いえ、それが、この件に関しては、メルヴィル公爵と陛下が直接交渉なさっている様で、父の耳にも詳しい話はまだ入っていないのですよ。
ご本人が進捗をご存知ないのなら、まだ話し合いはあまり進んでいないのかもしれないですね。
残念です。
もし婚約解消なさるなら、次の婚約者に立候補しようと思って来たのですが」
「「は?」」
何食わぬ顔で紅茶に口を付ける男が発した言葉の意図を理解しかねる。
一拍遅れて、じわじわと胸に不快感が広がった。
98
お気に入りに追加
1,989
あなたにおすすめの小説

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~
八重
恋愛
【全32話+番外編】
「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」
伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。
ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。
しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。
そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。
マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。
※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。
加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。
そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる