【完結】私を嫌ってたハズの義弟が、突然シスコンになったんですが!?

miniko

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4 義理の姉

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《side:レイモンド》


「・・・もう、良いですよね?」

姉上から事情を聞いた後、義父上と僕は執務室で向かい合っていた。

「ああ。もう良いよ。
私もまさか、あの男があそこまでクズだとは思わなかった。
もうお前の好きにして良い。
だが、キャシーの意思は尊重しなさい」

「勿論です。僕が姉上の嫌がる事をする筈がない。
ところで、義父上はお忙しいでしょうから、事件の始末は僕に任せてもらえませんか?」

「私より容赦無くやりそうだな。
私の協力が必要な事があれば、言いなさい」

ため息混じりにそう言った義父上に、僕は一つお願いをする。

「では、王太子の金の動きを調べて頂けますか?
何か大きな不正の証拠でも見付けないと、此方から婚約破棄を申し出るのは難しいですから。
王太子が犯人なら、実行犯に金を支払った可能性も有りますし」

「分かった。必ず証拠を押さえよう」

義父上は財務の仕事をしているが、担当は王妃の予算なので、王太子の金の動きに関して普段はノータッチだ。
しかし、調べようと思えば簡単に調べられる立場にある。

義父上の力強い言葉に安堵して、僕は静かに執務室を後にした。





僕は貧乏な子爵家の三男として生まれた。

生家では嫡男は勿論、次男もそのスペアとして、それなりに大事に扱われていた。
しかし、予期せず生まれてしまった三男である僕は、ほとんど見向きもされず、両親どころか使用人にも構われずに、5歳まで育った。
まあ、懐に余裕もない中で、食事が普通に提供され、最低限の世話をされただけでも、有り難いと思わなければいけないのだろう。

義父上が、親戚の中でもかなりの遠縁で、碌な教育もされていない僕を養子に選んだのは、その境遇を哀れに思ったからかもしれない。


連れて来られた公爵邸で、僕は、今迄見た事が無いほどに美しい少女に出会う。
淡い紫色の珍しい髪色のその少女は、僕を見て嬉しそうに駆け寄った。

「私はキャサリン・メルヴィル。
貴方のお姉さんになるのよ。
姉上って呼んでね」

「姉上・・・・・・?」

「そうよ。仲良くしましょうね」

義姉は麗しい微笑みを浮かべて、優しく僕を抱き締めた。
彼女の腕の中は温かくて、ふわりと甘い花の香りがした。
心臓が信じられないくらいに速く拍動している。
居た堪れなくなって、小さく身動ぎすると、腕の中から解放された。
抱き締められているのが恥ずかしくて、離して欲しいと思ったのに、少しづつ消えていく彼女の温もりがすぐに恋しくなった。


僕等は毎日一緒に過ごした。

庭を一緒に駆け回って僕が転べば、擦りむいた膝を姉上が自ら消毒してくれて、痛くなくなるおまじないを掛けてくれる。

嵐の夜が怖いと泣けば、姉上が抱き締めて慰めてくれて、そのままリビングのソファーで毛布に包まって寄り添い、手を繋いだまま一晩を共に過ごした。

僕が風邪をひいて熱を出した時は、姉上は自分の事の様に辛そうな表情で、付きっきりで看病してくれた。

僕は生まれて初めて、愛情というものを知った。
彼女の愛は、乾いた僕の心にグングン染み込み、気付けば彼女は一番大事な人になっていた。

しかし、そんな幸せは、そう長くは続かない。


公爵家の養子になって半年が過ぎた頃、義父上の執務室に呼び出された。

「レイモンド、お前の気持ちは分かるが、キャシーとは距離を置きなさい。
キャシーはやがては王妃となる子だ。
君は彼女に恋愛感情を持ってはいけないのだよ」

義父上は苦笑しながら、そう言った。
考えてみれば当たり前の事。
彼女が王家に輿入れするからこそ、僕が公爵家の養子になったのだから。

姉上が向けてくれる愛情に浮かれてしまって、そんな単純な事さえ忘れかけていたのだ。

頭の芯が急速に冷えるのを感じた。

公爵家への大恩を仇で返す訳にはいかない。
僕はその日から、姉上を避けるしかなかった。
彼女の優しさに触れてしまえば、また甘えたくなる。
だから、必要以上に距離を置いた。

「嫌いだ」

思わずそう言ってしまった時の、彼女の悲しそうな顔が忘れられない。


彼女に冷たい態度を取る度に、僕の胸は潰れそうに痛む。
でも、これは必要な事なのだと、自分自身に言い聞かせていた。

───それが、彼女の幸せと、公爵家の繁栄の為になるのだと思っていたのに・・・。




しかし彼女が倒れた事で、事情は大きく変わった。



姉上が意識を失っている間は、僕は殆ど眠ることも出来ず、常に彼女のベッド脇に居座って看病を続けた。

こんな事になるなら、姉上を避けたりしなければ良かった。
浮気者の王太子などに遠慮せずに、彼女の一番近くで、僕が護っていれば良かった。

どんなに後悔しても、時間は戻ってはくれない。


義父上は5日間仕事を休んだが、もうこれ以上休まれては困ると補佐官が呼びに来て、引き摺られる様に城へと出仕した。
義母上は、最初は僕と一緒に姉上の看病をしていたが、心労のせいもあり体調が悪そうだったので「義母上まで倒れては、姉上が悲しみます」と言って、自室で休ませた。


姉上が目覚めて僕の名前を呼んだ時、僕は信じてもいない神様に生まれて初めて深く感謝した。
それと同時に、彼女をこんな目に合わせた人間を、絶対に許さないと誓ったのだ。

その思いは、義父上も義母上も同じ筈。


義父上の「好きにして良い」と言う言葉は、僕の気持ちをもう抑えなくて良いと言う許可だ。

僕は、もう姉上の事を諦めないと決めた。
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