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3 意識を失った日
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夕方になって、城に出仕していたお父様と、心労が祟って自室で寝込んでいたお母様が、私の寝室に様子を見に来てくれた。
「キャシー、目が覚めてくれて本当に良かった。
今日は側に居てやれなくて済まなかったね」
「いいえ、お父様。
一週間もお仕事をお休み出来ない事くらい、私でも分かりますわ」
お父様は公爵領の統治だけでなく、城で財務関連の仕事もしており、そうそう休む事が出来ないのは分かっていた。
両親はたった一週間で随分と窶れていて、かなり心配を掛けてしまったのだと実感する。
「姉上、倒れた時の事は覚えていますか?」
「うーん・・・覚えてはいるけど、特に変わった事はなかったと思うの。
学園から邸に帰って来て、制服から着替えて、侍女にお茶を入れてもらっている間に意識が無くなったのよ」
両親と義弟は、視線を交わして頷き合う。
「うん。侍女の証言と同じだな。
・・・・・・お茶を飲む前に倒れたんだね?」
お父様に、真剣な表情で念を押される。
「ええ。それは間違いありません。
そこに注目すると言う事は、毒物が疑われているのですか?」
「姉上が眠っている間に、血液を採取して、鑑定に回しました。
その結果、毒物らしき成分が微量に検出されたのですが、国内で使用された事が無い毒だったみたいで、種類の特定までは出来なかったのです。
分かっているのは、植物性の毒である事くらいで」
それを聞いて、本当に毒を盛られていたのかと、背筋が寒くなる。
運良く死なずに済んだけれど、犯人が見つからなければ、もしかしたらまた命を狙われるかもしれないと言う事なのだ。
「遅効性の毒であれば、帰宅する前に口にしたのかもしれないな。
学園ではどの様に過ごしていたのだ?」
「放課後は、クリストファー殿下達と談話室におりました」
「・・・・・・達?」
室内の空気が急に冷んやりする。
三人は、最近の社交界での噂から、何か良くない想像をしているみたいで・・・。
そしてその想像は、おそらく正解である。
(これ、言って良いのだろうか?)
迷いながらも私は口を開いた。
「デズモンド様と、マクレガー様と、
・・・・・・アシュトン嬢ですわ」
オスカー・デズモンドは、宰相の子息。
ジェイク・マクレガーは、騎士団長の子息。
どちらも、クリストファー殿下の側近候補である。
そして、エミリー・アシュトン男爵令嬢は、クリストファー殿下の恋人と言われている女性だ。
「・・・・・・ほぉ」
お父様が冷たい微笑みを浮かべながら、目を細めた。
レイモンドとお母様も、その瞳に静かに怒りを湛えている。
皆さん、怖いです。
「キャシー、それはどの様な会談だったのかな?」
私は、あの不条理な会話を思い返した。
「キャサリン、私はエミリーを側妃として迎えたいと思っている。
そこで君に、エミリーの淑女教育を手伝って貰いたい」
クリストファー殿下は、言うに事欠いて、私にそんな命令をしたのだ。
「クリス様ぁ、私、側妃なんて嫌です。
王妃様になりたいのですぅ」
「いや、流石にそれは難しい。
側妃ならば、高位貴族の養子になれば、なんとかなるが。
それだって、君が側妃としてのマナーを覚えられなければ無理だよ。
その場合は愛妾になら出来るが・・・」
「そんな、酷い!!」
アシュトン嬢は、何故だかこちらを睨む。
───いや、酷いと言いたいのはこっちだ。
この国では、国王は側妃を娶る事が許されているが、それは正妃が二人以上の男児を産めないと判断された場合である。
実際に現在の国王陛下は側妃を一人娶っているが、それは王妃様がクリストファー殿下を産んだ後、第二子になかなか恵まれなかったせいなのだ。
結婚もまだしていない王太子が側妃を選定するなんて、前代未聞である。
しかもその教育を婚約者にさせようと言うのだから、始末に負えない。
「ご本人に学ぶ気が無いのであれば、私に出来る事はありません」
大体、こんな非常識な令嬢に淑女教育をしろとは、無理難題も甚だしい。
その辺の猿にでも教える方がマシである。
王族の名前を婚約者の目の前で愛称で呼ぶ、その図々しさだけは凄いと思うが・・・。
結局の所、アシュトン嬢がゴネまくったので、その話は保留になった。
私はその顛末を家族に話した。
3人の怒りのオーラが凄い。
部屋の温度がどんどん下がっていく様な錯覚に陥って、思わず身震いした。
「姉上は、その時何か口に入れましたか?」
「流石にそのメンバーで飲食するのは怖かったけど、口を付けないのも失礼になるので、紅茶に少しだけ口を付けたわ」
「それが怪しいですね」
紅茶に毒を入れたと言うの?
誰が、何の為に?
「キャシー、目が覚めてくれて本当に良かった。
今日は側に居てやれなくて済まなかったね」
「いいえ、お父様。
一週間もお仕事をお休み出来ない事くらい、私でも分かりますわ」
お父様は公爵領の統治だけでなく、城で財務関連の仕事もしており、そうそう休む事が出来ないのは分かっていた。
両親はたった一週間で随分と窶れていて、かなり心配を掛けてしまったのだと実感する。
「姉上、倒れた時の事は覚えていますか?」
「うーん・・・覚えてはいるけど、特に変わった事はなかったと思うの。
学園から邸に帰って来て、制服から着替えて、侍女にお茶を入れてもらっている間に意識が無くなったのよ」
両親と義弟は、視線を交わして頷き合う。
「うん。侍女の証言と同じだな。
・・・・・・お茶を飲む前に倒れたんだね?」
お父様に、真剣な表情で念を押される。
「ええ。それは間違いありません。
そこに注目すると言う事は、毒物が疑われているのですか?」
「姉上が眠っている間に、血液を採取して、鑑定に回しました。
その結果、毒物らしき成分が微量に検出されたのですが、国内で使用された事が無い毒だったみたいで、種類の特定までは出来なかったのです。
分かっているのは、植物性の毒である事くらいで」
それを聞いて、本当に毒を盛られていたのかと、背筋が寒くなる。
運良く死なずに済んだけれど、犯人が見つからなければ、もしかしたらまた命を狙われるかもしれないと言う事なのだ。
「遅効性の毒であれば、帰宅する前に口にしたのかもしれないな。
学園ではどの様に過ごしていたのだ?」
「放課後は、クリストファー殿下達と談話室におりました」
「・・・・・・達?」
室内の空気が急に冷んやりする。
三人は、最近の社交界での噂から、何か良くない想像をしているみたいで・・・。
そしてその想像は、おそらく正解である。
(これ、言って良いのだろうか?)
迷いながらも私は口を開いた。
「デズモンド様と、マクレガー様と、
・・・・・・アシュトン嬢ですわ」
オスカー・デズモンドは、宰相の子息。
ジェイク・マクレガーは、騎士団長の子息。
どちらも、クリストファー殿下の側近候補である。
そして、エミリー・アシュトン男爵令嬢は、クリストファー殿下の恋人と言われている女性だ。
「・・・・・・ほぉ」
お父様が冷たい微笑みを浮かべながら、目を細めた。
レイモンドとお母様も、その瞳に静かに怒りを湛えている。
皆さん、怖いです。
「キャシー、それはどの様な会談だったのかな?」
私は、あの不条理な会話を思い返した。
「キャサリン、私はエミリーを側妃として迎えたいと思っている。
そこで君に、エミリーの淑女教育を手伝って貰いたい」
クリストファー殿下は、言うに事欠いて、私にそんな命令をしたのだ。
「クリス様ぁ、私、側妃なんて嫌です。
王妃様になりたいのですぅ」
「いや、流石にそれは難しい。
側妃ならば、高位貴族の養子になれば、なんとかなるが。
それだって、君が側妃としてのマナーを覚えられなければ無理だよ。
その場合は愛妾になら出来るが・・・」
「そんな、酷い!!」
アシュトン嬢は、何故だかこちらを睨む。
───いや、酷いと言いたいのはこっちだ。
この国では、国王は側妃を娶る事が許されているが、それは正妃が二人以上の男児を産めないと判断された場合である。
実際に現在の国王陛下は側妃を一人娶っているが、それは王妃様がクリストファー殿下を産んだ後、第二子になかなか恵まれなかったせいなのだ。
結婚もまだしていない王太子が側妃を選定するなんて、前代未聞である。
しかもその教育を婚約者にさせようと言うのだから、始末に負えない。
「ご本人に学ぶ気が無いのであれば、私に出来る事はありません」
大体、こんな非常識な令嬢に淑女教育をしろとは、無理難題も甚だしい。
その辺の猿にでも教える方がマシである。
王族の名前を婚約者の目の前で愛称で呼ぶ、その図々しさだけは凄いと思うが・・・。
結局の所、アシュトン嬢がゴネまくったので、その話は保留になった。
私はその顛末を家族に話した。
3人の怒りのオーラが凄い。
部屋の温度がどんどん下がっていく様な錯覚に陥って、思わず身震いした。
「姉上は、その時何か口に入れましたか?」
「流石にそのメンバーで飲食するのは怖かったけど、口を付けないのも失礼になるので、紅茶に少しだけ口を付けたわ」
「それが怪しいですね」
紅茶に毒を入れたと言うの?
誰が、何の為に?
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