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22 幸せだった

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 結局私は、二男三女を産む事になった。
 両親がいなくなった分新しい家族が沢山欲しいと思っていた私の希望を、アルバートが叶えてくれたのだ。
 収入は順調に増えて行ったが、その分家族も増えたので、豪華な暮らしは出来なかったけれど、子爵家としては平均程度の生活水準は保てたと思う。
 何より、子供達は皆んな性格がバラバラなのに不思議と仲が良く、協力し合って逞しく成長してくれた。

 月日は流れ、立派な大人になった子供達。
 長男は子爵家を継ぎ、次男はアルバートに師事して王宮騎士となって独り立ちし、三人の娘達はそれぞれ愛する人と出会って嫁いで行った。




 そして、今、五人の子供達とそれぞれの新しい家族が、久し振りに一つの部屋に集まっている。

 部屋の中には小さな嗚咽が響き、誰もが涙を浮かべながら見守る視線の先には、年老いた私とアルバートの姿。

 中央にある大きなベッドの横に座った私は、皺だらけの大きな手を握り、その甲をそっと撫でた。

「………なんだかボンヤリしてきたな。
 そろそろ……、時間かもしれない……」

「……っっ!」

「泣かないで、コーデリア。
 …あぁ……、悔しいなぁ……。
 君の涙を拭ってあげるのは僕だけの役目なのに、もう腕に力が入らないんだ」

「アルバート……」

「ねえ、コーデリア、僕は君と生きる事が出来て、本当に幸せだった。
 ……ありがとう」

 微笑みを浮かべた彼の瞳はとても穏やかだった。

「永遠の別れみたいに言わないでちょうだい。
 私も直ぐに貴方の元へ行きますから」

「ダメだよ。君まで居なくなってしまったら、皆んなが悲しむ。
 孫達が立派に独り立ちするのを見届けてからでも、全然遅くは無いさ。
 ゆっくり来なさい。待っているから」

 アルバートは私を安心させる様に、繋いだ手にキュッと最後の力を込めた。

「本当に?
 私の事を忘れずに、ちゃんと待っていてくれる?」

「ああ、言っただろう?
 たとえ忘れてしまったとしても……」

(ああ、そうか)

 私はアルバートが記憶を取り戻した時の台詞を思い出して、クスッと笑った。

「また……、好きになってくれる?」

「ふふっ。そうだよ、何度でも。約束だ。
 コーデリア、愛して────」

「………アルバート……。私も…、私も愛しています」

 運命に翻弄されてアルバートと別れる決断しか出来なかった私を、連れ戻してくれたのは彼の強い想いだった。
 彼は結婚してからもずっと私のそばにいて、嬉しい時も悲しい時も私を力強く支えてくれた。

 私は、少しくらいは彼の支えになる事が出来たのだろうか?
 少しくらいは、彼に想いを返してあげる事が出来たのだろうか?

 永遠の眠りについた彼の顔は、とても満足そうに微笑んでいた。




 私が彼の元へと旅立つ事が出来たのは、それから六年後の事だった。
 沢山の愛する家族に囲まれた、幸せな最後だった。



~~~~~~~~~~~~~~~



 静かな森の真ん中にある青い屋根の小さな家。
 テラスのベンチに座って空を眺めていた黒いローブを纏った女が、目を閉じてフゥッと小さく溜息を吐く。

「……とうとう逝ったかい?
 やっぱり、人間の一生なんて、儚いねぇ。
 だから関わりたく無いんだよ」

 彼女はマグカップに入った紅茶を飲みながら、独り言の様にポツリと呟いた。
 小さな黒ウサギが、女の顔を心配そうに見上げる。

「……ん? いや、淋しくなんかないさ。
 あの女が来なくなれば、この森も静かになって良いじゃないか。清々するよ」

 そう言いながらも、女の瞳には薄っすらと涙が滲んでいた。

「ほら、またお客さんが迷い込んだみたいだ。
 今回はちょっとはマシな客だと良いけどねぇ……」

 立ち上がった女は、深い森の入り口へと黒ウサギを送り出した。

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