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21 やっぱり真っ暗森

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 マクダウェル侯爵が罪を犯した事で、侯爵家は子爵家に降爵となっていた。
 その上、元侯爵の子息がその爵位を継ぐ事は許されず、遠縁の子息が新たにマクダウェル子爵の名を賜った。
 市井へと放たれた元夫人は平民の生活に耐えられず心を壊してしまい、私達を逆恨みして凶行に及んだようだ。

 元マクダウェル侯爵の関係者の中には、私達を恨んでいる者がまだいるかも知れない。
 しかし、アルドリッジ公爵の手配でエルウッド子爵邸の周辺の警邏を強化して貰えた。

 私一人の時も防御の魔術が有効である事が分かったし、アルバートも騎士として優秀なので自衛は出来るはずだから、今の所、それ程心配していない。


 また、領地経営も順調で収益が増えて来ているし、アルバートは騎士として昇進の話も出ている。
 家族が増える迄には収入も増えそうだし、その頃には常駐の使用人や警備の騎士を雇おうと話し合った。






 結論から言えば、その後私達が襲撃される事件は起きなかった。

 そして、穏やかに時が過ぎていき───。





 小さな家の玄関の扉を開けて中に入ろうとした黒いローブの女性が、家の中に居た私と娘を視界に映してギョッとした様に立ち尽くした。

「あら、お帰りなさい。何処に行ってたの?」

「…ちょっと薬草畑の手入れをしに……って、そんな事はどうでも良いんだよっ!
 何、勝手に私の家に入ってるんだい!?
 こういうのを不法侵入って言うんだろうがっっ! 犯罪だぞ」

「マジョさま、まっくら森にもホウリツがテキヨウされるのですか?」

 まだ幼い私の娘が、キョトンとした顔で魔女さんに疑問を呈する。

「ガキのくせに痛い所を突いてくるんじゃないよっ!」

 小さな子供に言い負かされてムキになってる魔女さんが可笑しくて、フフッと笑うと、彼女は諦めた様にガックリと肩を落として溜息をついた。

「まあまあ、お茶でも飲んで落ち着いて」

 紅茶が入ったマグカップを魔女さんに差し出す。

「勝手にお茶まで……自由過ぎる……。
 アンタ、子供産んでから益々図々しくなったんじゃないかい」

「勝手知ったる他人の家ね」

「真っ暗森の高貴な魔女のイメージが……」

 確かに巷の噂では、『真っ暗森に住んでいるのは、人嫌いの高貴な魔女だ』なんて言われているけど、その実態がコレとはね…。

「かあさま、コウキって何ですか?」

 知らない言葉に首を傾げる娘。
 幼い彼女に『高貴』の意味を理解させるのは、まだ難しいだろう。

「う~ん、取り敢えず、魔女さんみたいじゃ無い人のことかな?」

「はぁ……。本当に嫌味な親娘だよ。
 アンタが淹れたお茶が美味いのがまた腹立たしい!
 大体にして、普通の人間は、こんなに頻繁に真っ暗森に入ったりはしないんだ。
 もう来るなって、何度言ったら分かるんだい」

 私が淹れたお茶を飲みながら、魔女さんは呆れた様に呟いた。

「だって、森の入り口まで行くと、黒ウサギさんが出迎えてくれるのだもの。
 だから、来ても良いのかと思って」

「お前のせいだったのか。
 くたばれ、くそウサギ!」

 魔女さんにギロリと睨まれた黒ウサギは、慌てた様子で私の娘の背後に隠れた。

「マジョさま、ウサギさんをいじめちゃダメよっ」

「ぐっ……」

「大丈夫よ。
 魔女さんとウサギさんは本当はとっても仲良しなんだから」

「ほんとうに?」

「ええ、本当よ」

 娘は訝しげな顔で私と魔女さんを交互に見た。

 子供が生まれてからも私は度々真っ暗森を訪れる。
 ここに来ると、実家に帰って来たみたいな気持ちになって落ち着くのだ。
 魔女さんには迷惑がられているけれど。
 でも、彼女は意外と子供に優しい。
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