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18 回り道をしたけれど

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「「「おめでとーーーっっ!!」」」

 閉店後の深夜の黒猫亭。

 まだ二歳の息子を連れたリッキーさん夫婦とハワードくん、そして私とアルバートは大きなテーブルを囲んで、もう何度目かも分からなくなった乾杯をしている。

 いよいよこの街でのアルバートの任期が終了し、私達は王都へと戻って結婚する事になった。
 今日はその送別会なのだ。

 男性陣は全員既にかなり酒が回っている。
 肩を組んで上機嫌で歌うハワードくんとアルバート。
 そして「娘を嫁に出す気分だ…」と呟き、涙ぐみながらビールを煽るリッキーさん。
 私とエリノアさんは呆れた笑いを零しつつ、彼等を眺めていた。

「ケイティ…いえ、コーデリアちゃん、絶対に幸せになってね」

 私に祝福の言葉を掛けてくれるエリノアさんに、先程まで歌っていたハワードくんは深く頷く。

「そうだぞぉ。
 でも、もしアルバート様に泣かされたら、いつでも戻って来て良いんだからな」

「余計なお世話だハワード!
 僕はもうコーデリアを手離したりはしない」

 アルバートがハワードくんを軽く睨んだ。

 リッキーさんの膝に座っていたエリノアさんとの息子、今年二歳になるエリックくんは、父親が泣いている隙に腕から抜け出し、トテトテと私に寄って来て両手を広げる。

「ケーチィー、だっこぉ」

 舌っ足らずな喋り方が可愛らしい小さな紳士を抱き上げて、膝に乗せると彼はとても満足そうに笑った。

「あら、エリック、パパの所は飽きちゃったの?」

「パパ、ヤなのよぉ!」

 首を傾げながら問い掛けるエリノアさんに、エリックくんは、鼻を摘んでイヤイヤと首を振った。
 どうやら『お酒臭いから嫌だ』と言いたいらしい。

「すっかり貴女に懐いちゃったわね」

「頻繁に会ってましたからねぇ。
 エリックくんにも会えなくなると思うと、淋しいです。
 私の癒しだったのに……」

「今生の別れとかじゃ無いんだから、また遊びに来てよ」

「勿論です!」

 リッキーさんの美味しい料理に、楽しいお酒。
 賑やかな宴の夜は、あっという間に更けて行った。





 一月後の王都にて───。

 晴れ渡る青空に教会の鐘の音が鳴り響く。

 今日は私達の結婚式だ。


 扉をノックする音に振り向くと、白の婚礼衣装を着たアルバートが、私の控え室に入ってくる所だった。
 彼は、同じく真っ白なドレスを纏った私を目にして、幸せそうに笑う。

「茶色い髪も可愛かったけど、やっぱりコーデリアの金髪は綺麗だね」

 そう言って、元の色に戻った私の髪を、嬉しそうに一束手に取りキスを落とす。

 私が使用していた毛染め剤は、染め直しをしなければ一週間ほどで退色が始まり、元の色に戻るタイプの物。
 色落ちし始めた時は色が斑らになってしまい、どうなることかと思ったけれど、なんとか結婚式までに元の色に戻った事に安堵していた。


 礼拝堂の入り口から、祭壇までの真っ直ぐな道を、アルバートのエスコートでゆっくりと歩く。

 こんな風に彼と一緒に居られる様になるなんて、あの時は思いもしなかった。

 新婦側の最前列の席には、父と母の写真が飾られている。

「コーデリアを産んでくれてありがとうございます。
 彼女を必ず幸せにします」

 真面目な顔をした彼が両親の写真に向けて、そんな風に呟くから、少しだけ視界が滲んだ。



 こうして私は愛する彼と、新たな未来へ一歩踏み出したのだ。
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