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13 再びの真っ暗森
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それからアルバートは、私の手を引いて魔道具屋に連れて行くと、発信機付きの腕輪を購入して、有無を言わさぬ笑顔で私に装着させた。
一度身に着けると、鍵が無ければ絶対に外す事が出来ない代物。
勿論、鍵はアルバートが持っている。
私が一度逃げた事で、彼は少々病んでしまったのかもしれない。
いや、少々どころじゃ無く病んでるかもしれない。
彼のご両親には、なんてお詫びをすればいいのやら。
元はと言えば私が消えたせいだし、発信機くらいは仕方が無いか。
監禁されなかっただけ、良かったと思おう。
……良かった、のか?
う~ん……、やっぱり何か違う気もする。
しかし、そんな病んでる疑惑のアルバートでも、やっぱり好きなのだから、私も大概だわ。
そして私は次の休日、役に立たない魔術薬の製造元に苦情を入れる為、再び真っ暗森に踏み込んだ。
真っ暗森はとても広く、王都にも隣接しているが、この港街からも森に分け入る事が出来る。
普通ならば、王都から徒歩で日帰り出来る場所に、この港街からも徒歩で行くなど不可能だ。
だが、この森の中には色々と不思議な秘密がありそうで……。
試しに港街から森に入ってみたのだが、やっぱりウサギは現れた。
そして森の中はどうやら時空が歪んでいるらしく、王都の入り口から入った時とほぼ同じ位の距離感で、魔女さんの家に辿り着いたのだった。
「このくそウサギがっ! いつもいつも面倒な客ばっかり案内して来やがって。
いっその事、鍋にぶち込んで食ってやろうかっ?」
乱暴に耳を掴まれて持ち上げられた黒ウサギが、私の目の高さにプランとぶら下がっている。
フルフルと震えながら、「助けて~」と言う様に涙目で見られたら、放っておく訳にもいかないだろう。
元々私を案内して来た事が、魔女さんの怒りの原因なのだから。
「あの……、その招かれざる客が言うのもなんですが、もうその辺で許して差し上げては如何でしょうか…」
ギロリと私を睥睨した魔女さんは、大きな溜息を吐き出すと、パッと手を離してウサギを落とした。
落ちたウサギは地面にお尻を強かに打ち付けながらも、すぐに起き上がって私の背後に身を隠す。
「フンッ! まあ、来ちまったもんは仕方ないさね。
お茶でも飲んで行きな」
扉の中を顎で示す魔女さんの後について、家の中に入った。
「ここはアンタみたいなお嬢ちゃんが何度も来るような所じゃないんだけどねぇ……。
で?今日は何の用だい?」
いつも以上にぶっきらぼうに問い掛ける魔女さん。
『どんな願いだ』と聞かない所を見ると、私の要件なんてきっとお見通しなのだ。
「解呪されました」
「そうみたいだね」
「そうみたいだね、じゃないですよ!
何を呑気な事言ってるんですか?
困りますぅーー!! 思い出されちゃ困るんですよーー!
もう一回、あの薬を売ってください」
ブーブー文句を垂れる私に、魔女さんは肩をすくめた。
「そんな事を言われてもねぇ。
アンタ達が思っている以上に、人間の想いって奴は厄介なんだよ。
それこそ、時には呪いに打ち勝ってしまう位にね。
それに、一度呪いを解いた者に、再度同じ呪いを掛ける事は出来ないんだ。
だからもう諦めな。
良いじゃ無いか、それだけ深く愛されてるって事なんだから、素直に喜びなよ。
女冥利に尽きるってもんだろ」
魔女さんは私の腕輪にチラリと視線を向けると、憐れみを浮かべた顔で笑った。
「そんなぁ……。それじゃあ詐欺じゃ無いですか」
「人聞きの悪い事を言うんじゃ無いよっ!
営業妨害で訴えるぞ」
「だってぇ……」
「……まあ、今回の場合はちょっとばっかし解呪が早かった気もするから、お詫びと言っちゃあなんだけど、アンタが幸せになれる様に少しだけ手助けをしてやっても良いよ」
なんだかんだ言って、やっぱり結構優しい。
ツンデレ? ツンデレなの?
「手助けって、具体的には?」
「その時が来れば分かる」
前言撤回。
優しくない。
やっぱり詐欺師だ。
夕方、黒猫亭に戻ると、お怒りモードのアルバートが店の前で私を待ち構えていた。
どうやら真っ暗森には魔道具発信機の効果が無効になるような結界が張られているらしく、私がまた消えたんじゃないかと思って探し回ったらしい。
こうならない様に、「今日は遠出をするけど、ちゃんと帰ってくるから」と宣言してから出掛けたのだが、発信機の反応が消えたのは想定外だった。
なんだかどんどんアルバートの病みが深まっていきそうで心配だ。
もう一度忘却の薬を買う事は出来なかったし、これ以上私が逃げれば、アルバートが精神的に壊れてしまいそう。
だけど、横領事件も解決していないし、エルウッド家の名誉は地に落ちたままだ。
なんか陰謀の臭いもするから、アルバート達を巻き添えにはしたくない。
私はどうすれば良いのだろうか?
答えが出ない問題を、ずっと考えてるみたいな気分。
ぐるぐるぐるぐる、思考が同じ所を行ったり来たりしている。
私が幸せになる為に、手を貸してくれると言うのならば───、
今がその時なんじゃないの?魔女さん。
一度身に着けると、鍵が無ければ絶対に外す事が出来ない代物。
勿論、鍵はアルバートが持っている。
私が一度逃げた事で、彼は少々病んでしまったのかもしれない。
いや、少々どころじゃ無く病んでるかもしれない。
彼のご両親には、なんてお詫びをすればいいのやら。
元はと言えば私が消えたせいだし、発信機くらいは仕方が無いか。
監禁されなかっただけ、良かったと思おう。
……良かった、のか?
う~ん……、やっぱり何か違う気もする。
しかし、そんな病んでる疑惑のアルバートでも、やっぱり好きなのだから、私も大概だわ。
そして私は次の休日、役に立たない魔術薬の製造元に苦情を入れる為、再び真っ暗森に踏み込んだ。
真っ暗森はとても広く、王都にも隣接しているが、この港街からも森に分け入る事が出来る。
普通ならば、王都から徒歩で日帰り出来る場所に、この港街からも徒歩で行くなど不可能だ。
だが、この森の中には色々と不思議な秘密がありそうで……。
試しに港街から森に入ってみたのだが、やっぱりウサギは現れた。
そして森の中はどうやら時空が歪んでいるらしく、王都の入り口から入った時とほぼ同じ位の距離感で、魔女さんの家に辿り着いたのだった。
「このくそウサギがっ! いつもいつも面倒な客ばっかり案内して来やがって。
いっその事、鍋にぶち込んで食ってやろうかっ?」
乱暴に耳を掴まれて持ち上げられた黒ウサギが、私の目の高さにプランとぶら下がっている。
フルフルと震えながら、「助けて~」と言う様に涙目で見られたら、放っておく訳にもいかないだろう。
元々私を案内して来た事が、魔女さんの怒りの原因なのだから。
「あの……、その招かれざる客が言うのもなんですが、もうその辺で許して差し上げては如何でしょうか…」
ギロリと私を睥睨した魔女さんは、大きな溜息を吐き出すと、パッと手を離してウサギを落とした。
落ちたウサギは地面にお尻を強かに打ち付けながらも、すぐに起き上がって私の背後に身を隠す。
「フンッ! まあ、来ちまったもんは仕方ないさね。
お茶でも飲んで行きな」
扉の中を顎で示す魔女さんの後について、家の中に入った。
「ここはアンタみたいなお嬢ちゃんが何度も来るような所じゃないんだけどねぇ……。
で?今日は何の用だい?」
いつも以上にぶっきらぼうに問い掛ける魔女さん。
『どんな願いだ』と聞かない所を見ると、私の要件なんてきっとお見通しなのだ。
「解呪されました」
「そうみたいだね」
「そうみたいだね、じゃないですよ!
何を呑気な事言ってるんですか?
困りますぅーー!! 思い出されちゃ困るんですよーー!
もう一回、あの薬を売ってください」
ブーブー文句を垂れる私に、魔女さんは肩をすくめた。
「そんな事を言われてもねぇ。
アンタ達が思っている以上に、人間の想いって奴は厄介なんだよ。
それこそ、時には呪いに打ち勝ってしまう位にね。
それに、一度呪いを解いた者に、再度同じ呪いを掛ける事は出来ないんだ。
だからもう諦めな。
良いじゃ無いか、それだけ深く愛されてるって事なんだから、素直に喜びなよ。
女冥利に尽きるってもんだろ」
魔女さんは私の腕輪にチラリと視線を向けると、憐れみを浮かべた顔で笑った。
「そんなぁ……。それじゃあ詐欺じゃ無いですか」
「人聞きの悪い事を言うんじゃ無いよっ!
営業妨害で訴えるぞ」
「だってぇ……」
「……まあ、今回の場合はちょっとばっかし解呪が早かった気もするから、お詫びと言っちゃあなんだけど、アンタが幸せになれる様に少しだけ手助けをしてやっても良いよ」
なんだかんだ言って、やっぱり結構優しい。
ツンデレ? ツンデレなの?
「手助けって、具体的には?」
「その時が来れば分かる」
前言撤回。
優しくない。
やっぱり詐欺師だ。
夕方、黒猫亭に戻ると、お怒りモードのアルバートが店の前で私を待ち構えていた。
どうやら真っ暗森には魔道具発信機の効果が無効になるような結界が張られているらしく、私がまた消えたんじゃないかと思って探し回ったらしい。
こうならない様に、「今日は遠出をするけど、ちゃんと帰ってくるから」と宣言してから出掛けたのだが、発信機の反応が消えたのは想定外だった。
なんだかどんどんアルバートの病みが深まっていきそうで心配だ。
もう一度忘却の薬を買う事は出来なかったし、これ以上私が逃げれば、アルバートが精神的に壊れてしまいそう。
だけど、横領事件も解決していないし、エルウッド家の名誉は地に落ちたままだ。
なんか陰謀の臭いもするから、アルバート達を巻き添えにはしたくない。
私はどうすれば良いのだろうか?
答えが出ない問題を、ずっと考えてるみたいな気分。
ぐるぐるぐるぐる、思考が同じ所を行ったり来たりしている。
私が幸せになる為に、手を貸してくれると言うのならば───、
今がその時なんじゃないの?魔女さん。
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