【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko

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19 お荷物王女は愛されている(最終話)

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───それから半年後。

無事に学園を卒業したアンジェリーナは、王都から馬車で二日ほど離れたクレメンティ公爵領に居た。



ポカポカと暖かい日差しが降り注ぐ、穏やかな春の日。
鮮やかな新緑に囲まれた大きな公園には、領民を始めとする大勢の人達が駆けつけた。

昔からこの地の住民達は賑やかな事が大好きで陽気な者達が多く、何かに付けては領地の中央にあるその公園でイベントが行われる。

この日は領主の子息と王女殿下の婚姻を祝う為の祭り・・・・・・という名目で、沢山の屋台が出たり、花火が上がったりと大騒ぎ。
勿論、エルヴィーノとアンジェリーナの事である。

二人を祝う気持ちが無い訳じゃないけれど、大多数の人は名目なんて何でも良くて、このお祭りムードを楽しんでいるのだ。

折角領民達が企画してくれた祝いの祭りなので、主役の二人も顔を見せる予定。

後日、王都の教会での挙式や、王宮での披露目の夜会も予定されているのだが、それに先駆けて領地でのお披露目となる今日、入籍の手続きを済ませ、二人は正式な夫婦となった。



この日の為に用意された特別なドレスに袖を通したアンジェリーナは、この上なく幸せな気分だった。

「とても素敵。頑張ったのね・・・」

思わず呟いたアンジェリーナに、長年仕えている侍女が笑顔で頷く。

「夢が叶ったみたいで、本当に良かったですねぇ」

そっと触れた胸元の繊細な刺繍は、かつて薔薇のハンカチをくれた孤児院のアルマが初めて手掛けた物。
アルマは今、領地のドレス工房で見習いとして元気に働いている。
他の子供達も、商会の事務員になったり、騎士になったりと、それぞれの場所で頑張っているのだ。


「アンジー、支度出来た?」

「ええ、もう出発時間?」

迎えに来たエルヴィーノの呼び掛けに振り向くと、デレデレに緩み切った笑顔が向けられていた。

「可愛い。今日も凄い可愛い。超好き」

「語彙力が死んでる!!
もっと、夜空に輝く星よりも───とか、どんな宝石も霞むほど───とか、貴公子っぽいヤツ無いの?」

「そう言うのが良い?
アンジーの事なら、何時間でも余裕で褒め続けられるけど」

「・・・・・・要らない」

最近のエルヴィーノは甘い。
胸焼けしそうなほど甘い。
サラッと告げられた直球すぎる愛の言葉に、照れ隠しで苦言を呈したアンジェリーナだったが、余裕で返り討ちに合ってしまって、ちょっと悔しい。



公園の周辺の道をオープンタイプの馬車に寄り添って座り、手を振りながらゆっくりとひと回りする。
沿道に集まった人々の大きな歓声と拍手。
花びらや紙吹雪が舞い散る中、エルヴィーノがアンジェリーナの頬に優しく口付けると、一際大きな歓声が湧き上がった。





領民達の祝福を受けた後は、公爵邸で身内だけの宴が催された。
国王夫妻は流石に王宮を開けられなかったのだが、兄二人もこの宴の為に公爵領まで出向いてくれた。


「アンジー、ちょっとピッチが早いんじゃ無いか?」

アンジェリーナが手にしたシャンパングラスを、エルヴィーノがヒョイっと取り上げた。

「ああっ!何するの?
まだ飲み足りないのにぃ・・・・・・」

「ダメ」

にべも無く却下されて頬を膨らませたアンジェリーナだが、エルヴィーノが目を離した隙に再びアルコールのグラスに手を伸ばした。

(緊張し過ぎて、飲まなきゃやってられないのよ)

アンジェリーナ達夫婦にとって、実質今夜が初夜となる。
その瞬間が近付くにつれて、アンジェリーナは落ち着きを無くしていった。

エルヴィーノは、アンジェリーナのそんな気持ちに気付きながらも、彼女が酔い潰れてしまうのを心配していた。


そして、案の定───。


「あーあ、やっぱり潰れた」

「アンジーは、元々あんまり酒に強く無かったもんなぁ」

テーブルに突っ伏して、幸せそうに微笑みながらムニャムニャと何事かを呟くアンジェリーナを、シルヴィオとメルクリオが残念な物を見る様な目で眺める。

「だから止めたのに・・・・・・」

エルヴィーノは絶望的な表情で、重い溜息を吐いた。

「まあ、今夜は我慢だな」

ニヤニヤ笑うメルクリオに恨みがましい視線が投げられた。

「クソッ。他人事だと思って・・・・・・。
だが、ここまで何年も我慢して来たんだ。
今更もう一日くらい、我慢してみせるさ」

開き直ったエルヴィーノは、アンジェリーナを抱き上げて、離れの夫婦の寝室へと運ぶ。
ベッドにそっと寝かせたアンジェリーナの着替えを侍女に任せて、自分も寝巻きに着替える為一旦部屋を出た。


「んん・・・エル・・・・・・、大好きぃ」

戻ったエルヴィーノがアンジェリーナの隣に寝そべると、ベッドの振動で微かに目を覚ました彼女が、甘えた声で囁きながら擦り寄ってくる。

「・・・・・・はぁ・・・。生殺し・・・」

苦し気に呟いたエルヴィーノは、彼女を胸に抱き締めて目を閉じた。

「お休み、アンジー。良い夢を」



一夜明けた翌朝、アンジェリーナは二日酔いでエルヴィーノは寝不足の酷い状態だったのだが、夜までには二人ともなんとか回復し、ついにエルヴィーノは本懐を遂げた。

その次の日、二人は一日中寝室に籠りきりだった。
エルヴィーノはアンジェリーナを片時も離さず、侍女が触れる事さえも嫌がって、湯浴みも着替えも食事も自らが嬉しそうに世話をしたという。
あまりの独占欲に呆れた公爵夫人が彼を叱責して、ようやくアンジェリーナは解放された。





それから暫くして、二人の王子とエルヴィーノの協力もあり、ルーナリア教の腐った幹部達の数々の不正が白日の元に晒された。
まともな人間を新たな幹部に据えて生まれ変わったルーナリア教は、かなり規模を縮小したものの、迷える信者達の精神的な支えとなり、しっかりとその役割を果たしている。
そして教義の中からは、『建国の神話』や『王家の瞳』の文言が削除された。

アンジェリーナを『お荷物』と呼ぶ者は、まだ皆無とまでは言えないけど、僅かに残った輩も、エルヴィーノが容赦なく潰して行った。



エルヴィーノはどんなに忙しくとも、アンジェリーナの就寝前迄には、必ず愛する彼女の待つ自邸へと帰宅する。
お休みのキスは絶対に欠かさない。

優しい夫に毎晩抱き締められて、幸せそうに眠る彼女は、結婚後、一度も悪夢を見る事は無かった。




【終】

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感想 20

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みんなの感想(20件)

カーラ
2023.08.21 カーラ

今一人で「minikoさんの作品全部読み終わるまで寝れまてん」を勝手にやってるんですけど、本当に私の好みド・ストライクすぎて終わりたくないって思っちゃいました。
こんなに好みぴったりな作者さん初めてです!
ありがとうございます🙇‍♀️

miniko
2023.08.22 miniko

コメントありがとうございます💕

本当に過去作も読んで下さったんですね(*´꒳`*)ノ♡
小説を書き始めた当初は、誰も読んでくれないのでは?と思っていたのに、こんなに嬉しいコメントを頂ける日が来るとは…… 。゚゚(*´□`*。)°゚。
制覇して下さるのはとても嬉しいのですが、無理せず適度に睡眠もとって下さいね☺️✨
今の所、全作品ずっと無料公開を続ける予定ですので、急がなくても大丈夫です♪

解除
クルス
2023.02.04 クルス

次話が待ちきれなくなると思い完結を待って一気読みしました。
領地に行って離れていた期間があるからこそ拗れた部分もあっただろうけど、それがあったから恋愛感情にもなって、最終的には一緒になり良かったです。
ただどっちも拗れすぎてて、知り合いだったらめんどくせー!感はありました(笑)
次の作品も楽しみに待たせてもらいます。

miniko
2023.02.04 miniko

感想頂きまして、ありがとうございます。

確かに、この2人とお友達にはなりたくないですねぇ💦
今回のお話の脇役達は、凄く優しくて面倒見が良い人ばっかりでした。
私なら付き合いきれん!(笑)

更新を追って読むと余計に焦ったく感じると思うので、一気読みして下さったのは正解だったかもしれませんね。

お読み頂きありがとうございました♪
次回作でもお会い出来ると嬉しいです。

解除
nico
2023.02.04 nico

主人公への愛を自覚したとたん嫉妬メラメラ男に成り下がった婚約者(笑)
年の差も何もあったもんじゃない!
あの余裕風ふかしてた男はいずこへ〜〜〜(⁠ノ⁠*⁠0⁠*⁠)⁠ノ

完結お疲れ様でしたヾ⁠(⁠*⁠’⁠O⁠’⁠*⁠)⁠/
やっぱり男は甘々溺愛がいいですよね~(想い人限定で)
新作も楽しみにしております💗

miniko
2023.02.04 miniko

抑えてきた独占欲が大爆発してましたね(^-^)
「信頼できる男に引き継ぐ」とか、どの口が言っていたのやら💦
絶対無理でしょ(笑)

nico様には連載開始当初からコメント頂き、とても嬉しかったです!
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回作は1〜2週間後の公開を予定しております。
その時に、またお会い出来れば幸いです💕

解除

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