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前編
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「フローラ王女、貴様との婚約を破棄する!!」
煌びやかな夜会の会場で、突然声を荒げたのは本日の主役、ザカリー王太子殿下。
王太子殿下と言っても、この国のでは無い。
ザカリー殿下の国は、地図の南の端に位置する、小さな小さな島国だ。
私は先程名指しで婚約破棄を突きつけられた、フローラ王女殿下付きの侍女である。
名乗るほどの者でもない。
ザカリー殿下は、婚約者であるフローラ王女との交流を図りつつ異国の文化を学ぶ為と称し、一年程前からこちらに留学していた。
この度、自国へ帰る事が決まった為、彼を見送る夜会が王宮で催されていたのだ。
「お前が非道な手段でアリシアを虐めていた事はわかっている」
「フローラ様、謝ってくだされば許して差し上げます」
ザカリー殿下と、彼の腕に絡み付いている令嬢は、口々にフローラ様に失礼すぎる発言を繰り返す。
ザカリー殿下はフローラ様の容姿がお気に召さなかったらしく「あんな気の強そうな女は好みじゃない。もっと可愛らしい妃が欲しい」と周囲に漏らしていた。
その〝可愛らしい妃〟候補が、腕にへばりついているアリシアとか言う女なのだろうか?
フワフワのピンクブロンドの髪をツインテールにして、まん丸の瞳をウルウルさせて、殿下を見上げている。
どう見ても〝可愛らしい〟と言うよりも〝あざとい〟と言う感じなのだが。
フローラ様の美しさが分からないなんて、美的感覚がどうかしてるとしか思えない。
「わたくしが、いつ貴女をいじめたと?」
「いつもです!」
「直近ではいつ?」
「昨日のお昼に、私に頭から水をかけたじゃないですか!」
自信満々にそう叫ぶ令嬢だが、それは無理がある。
「昨日はわたくし、隣国との石油の輸入に関する協議の席についておりましたので、貴女に嫌がらせをする暇などありませんでしたわ」
令嬢はサッと青褪める。
「あ・・・、一昨日だったかも・・・」
「昨日の事か、一昨日の事かも曖昧なのですか?頭大丈夫ですか?」
「そんな言い方・・・酷い!王女に生まれたからって、そんなに偉いのですか!?」
「偉いですよ」
「えっ!?」
「偉いに決まってるじゃないですか。
ここにお集まりの皆さんに聞いてみてください。
貴女方以外はきっと皆さん〝偉いです〟と答えますから」
フローラ様の言葉に従いぐるりと見回せば、聴衆の誰もが「うんうん」と頷いている。
「大体、わたくしは王女に生まれたから偉いわけではありません。
わたくしは3歳の頃から王族としての教育を受けているのですよ?
5歳の頃には主要4カ国語をマスターして、当時から外交の際にはマスコット的な存在として活躍しましたし、ここ数年は交渉のテーブルでも中心的な役割を果たさせて頂く事が多いのです。
幼い頃から公務をこなすわたくしが、偉くないはずないでしょう」
周囲の頷きがどんどん深くなる。
「そんなに・・・小さな頃から・・・?」
「当たり前です。王族が煌びやかな衣装を着て、夜会でクルクル踊って、ニコニコ笑っているだけの存在だとでも思ったのですか?
お目出度い頭ですね。
一方の貴女はいかが?
今まで生きてきて、何か少しでも世の中の役に立った事はあるのかしら?
相手に婚約者が居ようが居まいが、身分の高い令息に付き纏っているのだと伺ってますよ。
役に立つどころか、世の中の害悪にしかなってないのでは?」
「言葉が過ぎるぞ、フローラ王女!
そうやって常にアリシアを罵倒して来たのだろう!」
吠えるザカリー殿下をよそに、フローラ様は尚も令嬢の方に話しかける。
「ご存知無かったでしょうけれど、貴女、この国の高位貴族や王族に礼儀も立場も弁えずに近寄るから、王家の監視対象になっているんですよ。
ご自分で教科書を破ったり、ご自分で水をかぶる姿が、影によって目撃されています」
「王家の影なんて、王女であるお前の肩を持つに決まっている!」
「そ、そうよ!信用出来ないわ!」
「あら、影を疑うなんて、我が国の国王陛下に異を唱えるのと同じ事ですよ。
どれだけ不敬を重ねるのでしょう?
刑が決まるのが楽しみですね」
艶然と微笑むフローラ様は、怖いくらいに美しい。
・・・・・・いや、実際に怖い。いろんな意味で。
煌びやかな夜会の会場で、突然声を荒げたのは本日の主役、ザカリー王太子殿下。
王太子殿下と言っても、この国のでは無い。
ザカリー殿下の国は、地図の南の端に位置する、小さな小さな島国だ。
私は先程名指しで婚約破棄を突きつけられた、フローラ王女殿下付きの侍女である。
名乗るほどの者でもない。
ザカリー殿下は、婚約者であるフローラ王女との交流を図りつつ異国の文化を学ぶ為と称し、一年程前からこちらに留学していた。
この度、自国へ帰る事が決まった為、彼を見送る夜会が王宮で催されていたのだ。
「お前が非道な手段でアリシアを虐めていた事はわかっている」
「フローラ様、謝ってくだされば許して差し上げます」
ザカリー殿下と、彼の腕に絡み付いている令嬢は、口々にフローラ様に失礼すぎる発言を繰り返す。
ザカリー殿下はフローラ様の容姿がお気に召さなかったらしく「あんな気の強そうな女は好みじゃない。もっと可愛らしい妃が欲しい」と周囲に漏らしていた。
その〝可愛らしい妃〟候補が、腕にへばりついているアリシアとか言う女なのだろうか?
フワフワのピンクブロンドの髪をツインテールにして、まん丸の瞳をウルウルさせて、殿下を見上げている。
どう見ても〝可愛らしい〟と言うよりも〝あざとい〟と言う感じなのだが。
フローラ様の美しさが分からないなんて、美的感覚がどうかしてるとしか思えない。
「わたくしが、いつ貴女をいじめたと?」
「いつもです!」
「直近ではいつ?」
「昨日のお昼に、私に頭から水をかけたじゃないですか!」
自信満々にそう叫ぶ令嬢だが、それは無理がある。
「昨日はわたくし、隣国との石油の輸入に関する協議の席についておりましたので、貴女に嫌がらせをする暇などありませんでしたわ」
令嬢はサッと青褪める。
「あ・・・、一昨日だったかも・・・」
「昨日の事か、一昨日の事かも曖昧なのですか?頭大丈夫ですか?」
「そんな言い方・・・酷い!王女に生まれたからって、そんなに偉いのですか!?」
「偉いですよ」
「えっ!?」
「偉いに決まってるじゃないですか。
ここにお集まりの皆さんに聞いてみてください。
貴女方以外はきっと皆さん〝偉いです〟と答えますから」
フローラ様の言葉に従いぐるりと見回せば、聴衆の誰もが「うんうん」と頷いている。
「大体、わたくしは王女に生まれたから偉いわけではありません。
わたくしは3歳の頃から王族としての教育を受けているのですよ?
5歳の頃には主要4カ国語をマスターして、当時から外交の際にはマスコット的な存在として活躍しましたし、ここ数年は交渉のテーブルでも中心的な役割を果たさせて頂く事が多いのです。
幼い頃から公務をこなすわたくしが、偉くないはずないでしょう」
周囲の頷きがどんどん深くなる。
「そんなに・・・小さな頃から・・・?」
「当たり前です。王族が煌びやかな衣装を着て、夜会でクルクル踊って、ニコニコ笑っているだけの存在だとでも思ったのですか?
お目出度い頭ですね。
一方の貴女はいかが?
今まで生きてきて、何か少しでも世の中の役に立った事はあるのかしら?
相手に婚約者が居ようが居まいが、身分の高い令息に付き纏っているのだと伺ってますよ。
役に立つどころか、世の中の害悪にしかなってないのでは?」
「言葉が過ぎるぞ、フローラ王女!
そうやって常にアリシアを罵倒して来たのだろう!」
吠えるザカリー殿下をよそに、フローラ様は尚も令嬢の方に話しかける。
「ご存知無かったでしょうけれど、貴女、この国の高位貴族や王族に礼儀も立場も弁えずに近寄るから、王家の監視対象になっているんですよ。
ご自分で教科書を破ったり、ご自分で水をかぶる姿が、影によって目撃されています」
「王家の影なんて、王女であるお前の肩を持つに決まっている!」
「そ、そうよ!信用出来ないわ!」
「あら、影を疑うなんて、我が国の国王陛下に異を唱えるのと同じ事ですよ。
どれだけ不敬を重ねるのでしょう?
刑が決まるのが楽しみですね」
艶然と微笑むフローラ様は、怖いくらいに美しい。
・・・・・・いや、実際に怖い。いろんな意味で。
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