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29 二度と会わせない

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《side:フィリップ》


潜入捜査でディアが持ち帰った映像記録を元にして、バークレイ侯爵家の人間と、画廊の従業員達は全員拘束された。
詐欺集団を壊滅させる為、家宅捜索は秘密裏に行われた。
捜索の結果、充分過ぎるほど沢山の証拠品が押収された。
証拠品や取調べの内容から、詐欺集団のアジトやメンバーも特定されて、ほぼ全員が逮捕され、事件は一応の解決を見たのだが・・・・・・。


しかし、僕達が抱えている問題は、まだ解決していない。
これだけでは全然安心出来ないのだ。


おそらくバークレイ侯爵家の人間は、暫く拘束された後、刑期を終えたら平民に堕とされて、侯爵位は遠縁の子息辺りが引き継ぐ事になるのだろう。

マーティンは、詐欺集団の中では末端の人間なので、これ以上の重い刑罰は望めない。
平民となったら、ディアへの接触は難しくなるだろうが、逆に自棄になって強硬手段に出ないとも限らない。
失う物が何も無い人間ほど怖い物は無いのだ。

このままでは、ディアの安全が保証出来ないだろう。



僕は、色々と考えた末、マーティンが取り調べ室から牢屋へと移送される際に、立ち会わせて貰う事にした。

厳しい取り調べを受けたせいか、憔悴した様子で部屋から出てきたマーティンは、廊下に控えていた騎士の隣に僕の姿を見付けると、憎々し気な表情で睨み付けてくる。

(なんだ。まだ結構元気そうじゃ無いか)

一瞬立ち止まったマーティンだが、騎士に促されて重い足取りで廊下を歩き出した。


「残念だったね。
ディアは僕のものだよ。
お前とディアの間に、運命なんて最初から存在しなかった。
お前は一生彼女に手が届かない」

マーティンが僕の隣を通り過ぎる時、見下した様に嗤いながらそう言うと、奴は怒りに震えてカッと顔を染めた。

拘束していた騎士の一瞬の隙を突いて、その腕を振り払ったマーティンは、ポケットに隠し持っていた小型のナイフを取り出すと、獣の様な叫び声を上げながら、僕に襲い掛かって来た。

だが、直ぐに騎士がマーティンを取り囲み、めちゃくちゃにナイフを振り回していた右手の手首を叩き落として、いとも簡単に凶器を奪い去る。
そのまま騎士達に制圧され、床に引き倒されて拘束された。


「クソッ・・・!
殺してやるっ・・・!!
殺してやるぅぅっ!!」

涙と鼻水を垂らしながら喚き散らすマーティンに、僕は笑みを深める。

こんなに大勢の騎士がいる場所で、僕を傷付ける事など出来る訳が無いじゃないか。
本当に単細胞だな。

勾留手続きの時に、マーティンの目に付く場所にさりげなく小型のナイフを置いて、それを盗ませたところから計画は始まっていた。
取調べ前の身体検査の際に、そのナイフを見逃したのも、わざとだ。

奴を嘲笑って、煽る様な台詞を吐いたのも。
奴を拘束していた騎士が、一瞬だけ隙を見せたのも。
その後直ぐに制圧されたのも。

全ては僕の指示した通り。

僕の計画に踊らされた馬鹿なマーティンは、思った通りに僕に襲い掛かってくれた。


「お前が暴れてくれて良かったよ。
お陰で、罪状が一つ増えた。
筆頭公爵家子息の殺害未遂だ。
重~い判決が下る事を覚悟するんだな」

心からの感謝を込めた僕の言葉に、漸く嵌められた事に気付いたマーティンは、愕然とした表情で固まった。
そうそう、その絶望した顔が見たかった。

「ふっ・・・・・・」

込み上げてくる笑いを抑えながら、振り返らずに立ち去る。

「あ・・・・・・っ。
あああ"ぁ"ーーーーっっっ!!」

背後から聞こえてくる断末魔の様な叫び声を聞きながら、僕はとても晴れやかな気持ちだった。
これで、あの男がディアに顔を見せる事は二度と無い筈だ。

ディアを死に追いやっておきながら、まだ付き纏って口説こうとする男に対する報復としては、ちょっと優し過ぎたかもしれないな。
本当なら三回くらい殺しても足りないくらいだ。
刑罰は出来るだけ重くなる様に手を回そう。



勿論、ディアには今日僕がやった事は絶対に秘密だ。

こんな危険な賭けをしたと知られたら、きっと物凄~く怒られるだろうから。
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