【完結】二度目の人生に貴方は要らない

miniko

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『バークレイ侯爵家を潰しませんか?』

その不穏な提案に、私は驚いて立ち上がった。

「いや、ちょっと待って!
バークレイ侯爵家が潰れたら、侯爵家で働いているリリー達も困るんじゃないの?」

「どうせあの家では使用人はロクな扱いを受けません。
皆んな本心では辞めたがっています。
それにディアナ様が階段から落ちた時、私、もの凄く後悔したのです。
もっと早く何か出来たんじゃないかって。
若奥様を逃がしてあげる方法が、何かあったんじゃないかって・・・」

「リリー・・・・・・」

リリーが私の死を悼んで駆け寄ってくれたせいで、時間を遡る光に巻き込んでしまったのだ。
それなのに、未だに私の心配をしてくれる彼女に申し訳ない気持ちが溢れて来る。



「バークレイ侯爵家は、美術品詐欺を行っていると思われます」

「美術品詐欺?」

思わず声を上げた私に、リリーは神妙に頷く。

「ええ。旦那様とマーティン様は詐欺集団の片棒を担いでいます。
旦那様が所有している画廊の奥で、名画の贋作を密かに売り捌いているようなのです」

「それは、詐欺師に利用されて、贋作だと知らずに売っている訳ではないのかしら?」

リリーはフルフルと首を左右に振った。

「贋作だと承知の上です。
ディアナ様とマーティン様の婚約が叶わず、資金繰りに苦労していた所を詐欺集団に付け込まれて、仲間に引き入れられたようで・・・」

そう言われてみれば、疑問に思っていたのだ。
私の持参金が無くなり、どうやって投資に失敗した穴を埋める為のお金を工面したのだろうかと。
画廊を手放した様子も無く、その後、困窮しているとの噂も聞いていなかった。

「君は、どうやってそれを知ったの?」

優雅にお茶を飲みながら話を聞いていたフィルが、リリーに質問した。

「ディアナ様への婚約打診を断られて少し経った頃に、怪しげな男達が侯爵家に出入りする様になりました。
つい気になってしまって、悪いこととは思いつつも立ち聞きをしたのです。
その時の会話の内容で、詐欺集団に誘われているのを知りました。
その後、何度かは侯爵邸内で詐欺師と話し合っていたのですが、最近は警戒し始めたのか、何処か別の場所で落ち合って打ち合わせをしているようなので、今も続けているのかは分かりません。
でも、領地の経営状態はあまり良くなさそうなのに、金銭的に困っている様子が無いので、おそらくは・・・」

フィルは微かに眉間に皺を寄せて、考え込みながら、リリーの話を聞いていた。

「立ち聞きの是非については、置いておくとして・・・。
最初に詐欺師との接触を知ってから三年近く経った今になって、その話をしに来たのは何故だ?」

「あの頃は、マーティン様のディアナ様への執着は、持参金が目当てなのかと思っていたのです。
だから、そのまま放置した方が、ディアナ様の安全の為には良いのかもしれないと思いました。
犯罪行為を知りながら放置した件については、お咎めを受けても仕方ありませんけど・・・。
婚約を断られてから半年程はディアナ様に近付こうと躍起になっていたマーティン様も、詐欺に加担し始めた頃からディアナ様に対して目立った動きをしなくなっていましたので、安心しておりました。
ところが先日、マーティン様が、遠縁のご令嬢に、学園の舞踏会のエスコートをさせて欲しいと頼んでいるのを知ったのです。
それは、明らかにディアナ様と接触することが目的で、まだ諦めていなかったのだと知りました。
ディアナ様への執着がお金の為では無いとわかり、このままにさせて置くのは危険だと感じました」

「それで、侯爵家を攻撃した方がいいと判断したんだね」

「そうです」

「話を聞く限りだと、犯罪を裏付けるのは君の証言だけで、証拠は無いってことだね?」

「はい。
証拠は何も。
証拠を手に入れる為に、私に何か出来ることがあれば、なんでも協力させていただきますが・・・。
お恥ずかしながら、私の頭ではどうやって証拠を見つければ良いのか、見当が付かなかったのです」

「駄目よ、リリー!
貴女が下手に動いたら危ないわ」

もしも、侯爵達がリリーの動きに気付いて反撃をしてきたとしても、侯爵邸内の出来事では、私達がリリーを守る事は難しい。

フィルも私の言葉に頷く。

「情報提供だけで充分だ。
後は僕がなんとかするから、君は侯爵達に怪しまれない様に、いつも通りにしていてくれ。
君の身に何かあったら、ディアが悲しむからね」



侯爵家へ帰るリリーを見送り、フィルと二人きりになった。

「どうやって、詐欺を立証すれば良いのでしょうか?」

マーティン様が犯罪者となれば、私に近付く事は今以上に難しくなるだろうから、私にとっては好都合だ。
それに、本当に犯罪が行われているのであれば、見過ごすわけにもいかない。
でも、どうすれば良いのか、私にも皆目見当が付かない。


「大丈夫。
協力してくれる人に心当たりがあるから」

フィルは私の頭を撫でながら微笑んだ。
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