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7 運命のお茶会

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朝食時の両親の話で、時が巻き戻った事を確信した。
亡国の秘宝かどうかは知らないけれど、この指輪が何らかの不思議な力を持っているのは間違い無いだろう。

そして、巻き戻ったのならば、やはり一ヶ月後に侯爵家からの婚約打診があると言う事だ。
本格的に、回避の方法を考えねばならない。
お父様の話が本当ならば、指輪が命を護ってくれるのは、一度きり。
もうその効果は期待出来ないのだから。

だが、この国で、高位貴族からの申し出を断る術などあるのだろうか?

打開策を見出せないまま夜になった。


「さあお嬢様、今日はいつもより早めに寝て頂きますよ」

スーザンがサッサと湯浴みを促す。

「え~?まだ良いじゃない」

「ダメです!
明日は大事な王家主催のお茶会なのですから。
早く寝て、お肌と体調をしっかりと整えなければ」

(そうか、今日はお茶会の前日なのか!)

その日の王家のお茶会の事は、ボンヤリとだが覚えている。
第三王子のジョシュア殿下に友人や婚約者を作る為のお茶会である。
階級が絶対のこの国では、こういった催しの際には、勿論、高位貴族のみが招待されるのが慣例なのだが、第三王子の母である側妃様は実力主義者なのである。
低位の貴族でも人柄や能力が高い者を息子の側に置き、良い影響を与えて貰いたいとの事で、年齢が近い全ての貴族子女が招待されたのだ。

側妃様も第三王子殿下も、スペアのスペアである事を理解しており、納得している。
玉座を狙う意思は無い。
だからこそ、変に担ぎ上げられない様に、後ろ盾が大き過ぎない者を周囲に置きたいという考えなのかもしれない。
まあ、そうは言っても、一度目の時に殿下の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢だったけど。


もしかして、私は、良いタイミングに巻き戻ったのかもしれない。

明日のお茶会は、メインは第三王子殿下の人脈作りだが、その他の同年代の子供同士の交流の場も兼ねている。
実際、一度目の人生の時は、この茶会で婚約者や友人を作る者が多かった。

私もそこで婚約者を見つけてしまえば良いのではないだろうか?

だが、低位の貴族と婚約したとしても、バークレイ侯爵家からの横槍が入りかねない。
万全を期すのならば、バークレイ侯爵家が口出し出来ない様な高位貴族と婚約を結びたい。
でも、ウチは所詮は成金子爵家である。
高位貴族に相手にしてもらえるのだろうか・・・・・・。

不安を抱えながら、私は眠りについた。




───翌日。

初夏の爽やかな陽射しの中、ダリアの花が咲き乱れる王宮の庭園に、私と同じ十代前半の子供達が大勢集まった。

淡いピンクや水色の、フリルやレースやリボンをふんだんに使ったフワフワの可愛らしいドレスを身に纏ったご令嬢が多い中で、私は自分の瞳の色に合わせたラズベリー色のシンプルなデザインのドレスを選んだ。
目立つ為に、敢えてフリルやレースは控えめに、濃い色の大人っぽいドレスにしたのだ。
その代わり、最高級の生地が使われている。
見る人が見れば、良さが分かる装いである。

高位貴族のご令息にアピールする為の作戦だった。
しかし、あちこちから好意的な視線は感じるものの、その殆どは子爵家以下のご令息である。

(やはり、無理があるのかもしれない・・・)

そう思いつつも、侯爵家以上のご令息を狙ってさりげなく近寄ってみる。
視線が合えば、ニコリと微笑む。
にこやかに話し掛けてくれる人も居たが、私が自己紹介をすると、困った顔をしながら直ぐに離れて行ってしまう。
やはり成金子爵家と縁を繋ぐのは、プライドが許さないのだろうか。
侯爵家以上のご令息は人数も少ない。
仕方なく、伯爵家の中で上位に位置する家柄のご令息にも近付いてみるのだが、やはり結果は芳しくない。

そうこうしている内に、私の振る舞いに腹を立てたご令嬢達に絡まれてしまったりして、どんどん時間を浪費していく。

私だって好きでこんなに手当たり次第に近寄っている訳ではないのだけど。
コッチはクズ男との結婚回避が掛かっているんだから必死なのだ。
ご令嬢の皆様のお怒りはご尤もであるが、どうか今だけは、広い心で見逃して頂きたい。


なかなか思う様に上手く行かずに焦燥感が募る。
高位貴族との婚約は諦めて、他の方法を考えた方が良いのだろうか?
だが、何も名案は思い浮かばないし。
それに、バークレイ侯爵家から婚約の打診が来るまで、それ程時間も残されていない。

(どうしたら・・・・・・)



そして、お茶会は終了間近。

焦った私は、視界に入った中で、一番上等な生地の服を身に纏った男の子の背中に声を掛けた。

「お願いします!
私と婚約して下さい!!」

マズい。
勢い余って、挨拶も自己紹介もせずに、本題から入ってしまった。
本来ならば、低位の私の方から声を掛けるだけでもマナー違反なのに。

ゆっくりと振り返ったその顔を見て、更に『しまった』と思った。

いや、彼は無理でしょ。
確かに高位貴族で、私の条件にはピッタリなのだが、ご令嬢には冷たい態度ばかり取ると聞いた事がある。


その人は、我が国の筆頭公爵家の次男、フィリップ・クラックソン様だった。
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