【完結】二度目の人生に貴方は要らない

miniko

文字の大きさ
上 下
4 / 32

4 一度目の結婚生活

しおりを挟む
結婚生活は、想像していた物よりもずっと快適であった。
但し、一般的なソレとは全く違っていたのだが。

七歳年上の夫は、別邸に閉じ込めた私に会おうとはせず、もうずっと顔も見ていない、声も聞いていないままで数年が経った。

義両親も、なんとなく現状には気付いているのだろうが、領地に引き篭もって見て見ぬ振りを決め込んでいる。

幸いな事に侯爵家の使用人達は私の味方だった。
侯爵家の人達は、平均よりも低い賃金で使用人をこき使っている。
それなのに、なぜ離職しないのかと不思議だったが、どうやらこの家では使用人が自己都合で辞める際には紹介状を出してくれないらしい。
貴族家に勤めるには紹介状は必須である。
それが無ければ、新しい勤め先を探すのは困難を極める。
だから、彼等は我慢して、ここで働き続けているのだ。

なので、私は別邸の使用人達だけでも待遇を改善しようと、私費からボーナスを出したり、自分の装飾品などを侍女やメイドに下賜したりしている。

まあ、別邸の使用人は人数が少ないから出来る事なのだが。

私の生活費は、侯爵家からは微々たる額しか出ていないが、実家の子爵家から現金や差し入れが頻繁に届くので、不自由はしていない。
これが夫にバレて取り上げられてしまうと、なかなかに厳しいが、今の所監視されてはいない様だ。
もしかしたら、使用人達に監視を依頼してあるのかもしれないが、彼等は私の味方である。

自分達を蔑ろにし続けている主と、大切にしてくれる主の妻だったら、誰でも後者を選ぶだろう。

別邸の使用人達には、離職したいのならば内緒で紹介状を書いてあげると言ってあるのだが、「こんな所に若奥様を置いて、自分だけ辞めるなんて出来ません!」と、殆どの人に断られた。
なんて義理難いのか。

私がこの家を出て行く時には、希望者は全員連れて行こうと思っている。



そんな生活を続けて、いつの間にか三年以上。
勿論、私と夫の関係は清いままである。
それ以前に結婚式以来一度も会っていない。
結婚当初は、三年経ったら直ぐに婚姻無効の手続きをしよう!
・・・と息巻いていたのだが、一人きりでの別邸の生活は、思ったよりも居心地が良く、気が付けば四年近くの歳月が過ぎていた。


「リリー、この書類を神殿に提出して来て。
それから、旦那様にこのお手紙を渡して欲しいの」

私が書類が入ったファイルと白い封筒を差し出すと、侍女のリリーが恭しくそれを受け取った。

「とうとう出て行かれるのですね。
とても寂しいですが、私は若奥様の幸せを願っています」

「そうか・・・。
リリーは、母親も本邸の方で働いているから、直ぐに辞職するのは難しいんだっけ?」

「ええ。
でも、いつか母も一緒に侯爵家から逃げようと思います。
その時は、また若奥様にお仕え出来ると嬉しいのですが・・・」

「勿論!いつでも大歓迎よ」

エイヴォリー子爵家の事業はここ数年、益々業績を伸ばしている。
商魂逞しいお父様は、アンティークブームが去る前にと事業内容を拡げて、今では様々な商いを営む巨大な商会へ成長させた。
邸の使用人も商会従業員も常に募集しているので、人材の受け入れは容易い。

だから、侯爵家の使用人も出来るだけ連れて行こうと思っていたのだが・・・。
考えてみれば、一気に沢山の使用人が離職しようとすれば、引き止められるに決まっている。
数年計画で、少しづつ連れ出すのが良いかも。
婚姻無効が確定するまでに、計画を練らなければ。


リリーに渡したファイルの中には、婚姻無効の申立てに必要な書類が全て入っている。
この申立ては、夫婦のどちらか片方が申請するだけでオッケーだ。

どうやって白い結婚を証明するのか疑問だったが、書類を提出すると、後日神官がやって来て、魔法を使って検査をされるらしい。
この世界には魔法が存在しているが、魔力を持って産まれるのはほんの一部の人間だけで、その殆どが王族や神官なのだ。

夫には、申し立てをした事を、一応手紙で報告する事にした。

まあ、ここまで蔑ろにしたのだから、引き止められる事はないと思うのだけど・・・・・・。



そんな予想に反して、書類上だけの夫が先触れもなく別邸に押しかけて来たのは、手紙を渡した翌日の事だった。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。 私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。 彼の姉でなく、私の姉なのにだ。 両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。 そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。 寄り添うデイリ様とお姉様。 幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。 その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。 そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。 ※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。 ※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!

【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました

当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。 リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。 結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。 指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。 そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。 けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。 仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。 「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」 ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

処理中です...