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4 一度目の結婚生活
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結婚生活は、想像していた物よりもずっと快適であった。
但し、一般的なソレとは全く違っていたのだが。
七歳年上の夫は、別邸に閉じ込めた私に会おうとはせず、もうずっと顔も見ていない、声も聞いていないままで数年が経った。
義両親も、なんとなく現状には気付いているのだろうが、領地に引き篭もって見て見ぬ振りを決め込んでいる。
幸いな事に侯爵家の使用人達は私の味方だった。
侯爵家の人達は、平均よりも低い賃金で使用人をこき使っている。
それなのに、なぜ離職しないのかと不思議だったが、どうやらこの家では使用人が自己都合で辞める際には紹介状を出してくれないらしい。
貴族家に勤めるには紹介状は必須である。
それが無ければ、新しい勤め先を探すのは困難を極める。
だから、彼等は我慢して、ここで働き続けているのだ。
なので、私は別邸の使用人達だけでも待遇を改善しようと、私費からボーナスを出したり、自分の装飾品などを侍女やメイドに下賜したりしている。
まあ、別邸の使用人は人数が少ないから出来る事なのだが。
私の生活費は、侯爵家からは微々たる額しか出ていないが、実家の子爵家から現金や差し入れが頻繁に届くので、不自由はしていない。
これが夫にバレて取り上げられてしまうと、なかなかに厳しいが、今の所監視されてはいない様だ。
もしかしたら、使用人達に監視を依頼してあるのかもしれないが、彼等は私の味方である。
自分達を蔑ろにし続けている主と、大切にしてくれる主の妻だったら、誰でも後者を選ぶだろう。
別邸の使用人達には、離職したいのならば内緒で紹介状を書いてあげると言ってあるのだが、「こんな所に若奥様を置いて、自分だけ辞めるなんて出来ません!」と、殆どの人に断られた。
なんて義理難いのか。
私がこの家を出て行く時には、希望者は全員連れて行こうと思っている。
そんな生活を続けて、いつの間にか三年以上。
勿論、私と夫の関係は清いままである。
それ以前に結婚式以来一度も会っていない。
結婚当初は、三年経ったら直ぐに婚姻無効の手続きをしよう!
・・・と息巻いていたのだが、一人きりでの別邸の生活は、思ったよりも居心地が良く、気が付けば四年近くの歳月が過ぎていた。
「リリー、この書類を神殿に提出して来て。
それから、旦那様にこのお手紙を渡して欲しいの」
私が書類が入ったファイルと白い封筒を差し出すと、侍女のリリーが恭しくそれを受け取った。
「とうとう出て行かれるのですね。
とても寂しいですが、私は若奥様の幸せを願っています」
「そうか・・・。
リリーは、母親も本邸の方で働いているから、直ぐに辞職するのは難しいんだっけ?」
「ええ。
でも、いつか母も一緒に侯爵家から逃げようと思います。
その時は、また若奥様にお仕え出来ると嬉しいのですが・・・」
「勿論!いつでも大歓迎よ」
エイヴォリー子爵家の事業はここ数年、益々業績を伸ばしている。
商魂逞しいお父様は、アンティークブームが去る前にと事業内容を拡げて、今では様々な商いを営む巨大な商会へ成長させた。
邸の使用人も商会従業員も常に募集しているので、人材の受け入れは容易い。
だから、侯爵家の使用人も出来るだけ連れて行こうと思っていたのだが・・・。
考えてみれば、一気に沢山の使用人が離職しようとすれば、引き止められるに決まっている。
数年計画で、少しづつ連れ出すのが良いかも。
婚姻無効が確定するまでに、計画を練らなければ。
リリーに渡したファイルの中には、婚姻無効の申立てに必要な書類が全て入っている。
この申立ては、夫婦のどちらか片方が申請するだけでオッケーだ。
どうやって白い結婚を証明するのか疑問だったが、書類を提出すると、後日神官がやって来て、魔法を使って検査をされるらしい。
この世界には魔法が存在しているが、魔力を持って産まれるのはほんの一部の人間だけで、その殆どが王族や神官なのだ。
夫には、申し立てをした事を、一応手紙で報告する事にした。
まあ、ここまで蔑ろにしたのだから、引き止められる事はないと思うのだけど・・・・・・。
そんな予想に反して、書類上だけの夫が先触れもなく別邸に押しかけて来たのは、手紙を渡した翌日の事だった。
但し、一般的なソレとは全く違っていたのだが。
七歳年上の夫は、別邸に閉じ込めた私に会おうとはせず、もうずっと顔も見ていない、声も聞いていないままで数年が経った。
義両親も、なんとなく現状には気付いているのだろうが、領地に引き篭もって見て見ぬ振りを決め込んでいる。
幸いな事に侯爵家の使用人達は私の味方だった。
侯爵家の人達は、平均よりも低い賃金で使用人をこき使っている。
それなのに、なぜ離職しないのかと不思議だったが、どうやらこの家では使用人が自己都合で辞める際には紹介状を出してくれないらしい。
貴族家に勤めるには紹介状は必須である。
それが無ければ、新しい勤め先を探すのは困難を極める。
だから、彼等は我慢して、ここで働き続けているのだ。
なので、私は別邸の使用人達だけでも待遇を改善しようと、私費からボーナスを出したり、自分の装飾品などを侍女やメイドに下賜したりしている。
まあ、別邸の使用人は人数が少ないから出来る事なのだが。
私の生活費は、侯爵家からは微々たる額しか出ていないが、実家の子爵家から現金や差し入れが頻繁に届くので、不自由はしていない。
これが夫にバレて取り上げられてしまうと、なかなかに厳しいが、今の所監視されてはいない様だ。
もしかしたら、使用人達に監視を依頼してあるのかもしれないが、彼等は私の味方である。
自分達を蔑ろにし続けている主と、大切にしてくれる主の妻だったら、誰でも後者を選ぶだろう。
別邸の使用人達には、離職したいのならば内緒で紹介状を書いてあげると言ってあるのだが、「こんな所に若奥様を置いて、自分だけ辞めるなんて出来ません!」と、殆どの人に断られた。
なんて義理難いのか。
私がこの家を出て行く時には、希望者は全員連れて行こうと思っている。
そんな生活を続けて、いつの間にか三年以上。
勿論、私と夫の関係は清いままである。
それ以前に結婚式以来一度も会っていない。
結婚当初は、三年経ったら直ぐに婚姻無効の手続きをしよう!
・・・と息巻いていたのだが、一人きりでの別邸の生活は、思ったよりも居心地が良く、気が付けば四年近くの歳月が過ぎていた。
「リリー、この書類を神殿に提出して来て。
それから、旦那様にこのお手紙を渡して欲しいの」
私が書類が入ったファイルと白い封筒を差し出すと、侍女のリリーが恭しくそれを受け取った。
「とうとう出て行かれるのですね。
とても寂しいですが、私は若奥様の幸せを願っています」
「そうか・・・。
リリーは、母親も本邸の方で働いているから、直ぐに辞職するのは難しいんだっけ?」
「ええ。
でも、いつか母も一緒に侯爵家から逃げようと思います。
その時は、また若奥様にお仕え出来ると嬉しいのですが・・・」
「勿論!いつでも大歓迎よ」
エイヴォリー子爵家の事業はここ数年、益々業績を伸ばしている。
商魂逞しいお父様は、アンティークブームが去る前にと事業内容を拡げて、今では様々な商いを営む巨大な商会へ成長させた。
邸の使用人も商会従業員も常に募集しているので、人材の受け入れは容易い。
だから、侯爵家の使用人も出来るだけ連れて行こうと思っていたのだが・・・。
考えてみれば、一気に沢山の使用人が離職しようとすれば、引き止められるに決まっている。
数年計画で、少しづつ連れ出すのが良いかも。
婚姻無効が確定するまでに、計画を練らなければ。
リリーに渡したファイルの中には、婚姻無効の申立てに必要な書類が全て入っている。
この申立ては、夫婦のどちらか片方が申請するだけでオッケーだ。
どうやって白い結婚を証明するのか疑問だったが、書類を提出すると、後日神官がやって来て、魔法を使って検査をされるらしい。
この世界には魔法が存在しているが、魔力を持って産まれるのはほんの一部の人間だけで、その殆どが王族や神官なのだ。
夫には、申し立てをした事を、一応手紙で報告する事にした。
まあ、ここまで蔑ろにしたのだから、引き止められる事はないと思うのだけど・・・・・・。
そんな予想に反して、書類上だけの夫が先触れもなく別邸に押しかけて来たのは、手紙を渡した翌日の事だった。
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