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3 一度目の結婚式

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この国の法律では、十五歳から正式な婚姻を結ぶことが出来る。

私は学園に通わせてもらう事も出来ずに、十五歳になってすぐに嫁ぐ事になった。

やっと捕まえた〝ネギを背負った鴨〟に逃げられない様にするために、侯爵家も必死なのだろう。
婚姻の手続きは驚くほど早く行われた。


(あ~あ・・・。
学園・・・・・・、通ってみたかったのになぁ)

この国の貴族子女は多くの場合、十六歳から三年間、学園に通う。
義務では無いので、家庭教師を雇って学ぶ者や、入学金が準備できずに入学を諦める者、私の様に婚姻によって入学しない者なども居るのだが、私は学園で学ぶことを楽しみにしていたので、非常に残念だ。

そんなことを考えて、溜息を吐きながら、ウエディングドレスに袖を通す。

最近少し膨らみが大きくなった胸には、サラシを巻いて、ぺったんこに押さえ付けてある。
ドレスのラインが綺麗に見えなくて残念だけど、仕方が無い。
これもマーティン様に好かれない為なのだ。

噂によると、どうやら彼は、ボンキュッボンな妖艶系美女がお好みらしい。
煩悩のままに生きる男だな。
非常に分かりやすくて助かる。

だから、私はその逆を行く事にした。
女性らしい体のラインはなるべく見せない様にして、元々の幼い顔立ちを強調する様な化粧を施してもらう。

「お嬢様の晴れ姿を見ることが出来たのに、こんなにも嬉しく無いなんて・・・。
でも、今日もとってもお綺麗です」

スーザンが呟きながら、暗い表情で私の髪を結う。
こんな状況でも、私を褒める事は忘れないらしい。
彼女のお陰で、ちょっと笑みが零れた。

「心配かけて、ごめんね」

子爵家からは使用人を連れて行かない予定だ。
冷遇されたら可哀想だから。
だから、スーザンに身支度を整えてもらうのは、きっとこれが最後になるだろう。
彼女の瞳には、涙が滲んでいる。
本当ならば、結婚式には私の幸せを見届けて、喜びの涙を見せて欲しかった。
決して、こんな形では無く・・・・・・。


でも、先日紹介された侯爵家の使用人達は私に同情的で、快く色々協力してくれそうなので、その点だけは少しホッとしている。



「チッ!
馬子にも衣装だな」

控室に迎えに来たマーティン様は、不機嫌そうにそう言った。

一応褒めているつもりらしい。
どうでも良いけど。

それより、この人、定期的に舌打ちしないと死ぬ病気か何かなのかな?

そんな心の内を隠して、今日も私は微笑みを浮かべる。

「有難うございます」




互いの家族しか出席者がいない挙式は滞りなく済み、侯爵邸に移動しようとしたのだが・・・・・・

「お前が今日から住むのは別邸の方だ。
最低限の使用人は用意したから、贅沢は言うなよ」

「因みに旦那様はどちらに住まわれるのですか?」

「勿論、本邸に住む。
愛する女と住むのだから、邪魔をするな」

「はい。
では本邸の方には近寄らない様に致しますね」

笑顔で頷けば、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をされた。
予想外の反応だったらしい。
私が貴方に愛を求めるとでも思ったのだろうか?
本当に残念な思考回路だ。

本邸には、元踊り子でボンキュッボンな夫の愛人が一緒に住むらしい。
今迄沢山の女性に手を付けて来たが、この愛人が本命で、なかり長い付き合いらしい。
どうやら、運命の相手(笑)らしい。
乙女かよ。恋愛小説の読みすぎだろ。
っつーか、その女以外にも手当たり次第に唾付けといて、運命もクソも無い。

聞いてもいないのに、愛人自慢をペラペラと語り始めた形だけの夫に、死んだ目になりながらハイハイと適当な相槌を打つ。
知らんがな。
勝手にやってくれ。

義両親は、まだ息子に爵位は渡さないけど、実務は任せて、領地の中でも自然豊かな場所にある、小さな別荘に住むらしいよ。
領地の奥にずっと引き篭もってないで、ちゃんとダメ息子の監視をして欲しい。

まあ、私にとっても、夫とも義両親とも別居出来るのは都合が良いのだけれど。
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