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24 お昼の女子会
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お昼が近くなり、一段落した私達に、ミアがお茶を淹れてくれた。
薬草の匂いがしていた部屋に、紅茶の華やかな香りが漂う。
「ミアも座って」
「いえ、私は……」
「みんなで食べた方が美味しいから。
それに、一緒に食べようと思ってミアの分も用意して貰ったのよ。
多目にありますから、良かったらマリリンさんもどうぞ」
「あら、ありがとう。
今日は食堂に行こうと思ってたんだけど、お言葉に甘えて。
ほら、ミアもっ!
フェリシアちゃんがこう言ってるんだから、座ればいいのよ」
マリリンさんに促されたミアが、渋々椅子に腰を下ろす。
お邸のシェフが作ってくれた、サンドイッチと焼き菓子が入ったバスケットを広げると、即席の女子会が開始された。
「フェリシアちゃんは、ウィルフレッド様の婚約者なんでしょ?
二人の仲はどうなの?
あの不機嫌そうなお顔が怖く無い?」
マリリンさんは好奇心いっぱいと言った様子で、私にキラキラした瞳を向けて来た。
若干、コールドウェル様に失礼な事を言ってる気がするのだが、大丈夫なのだろうか?
もしかしたら恋バナを期待されているのかもしれないが、残念ながらまだ私と彼はそんな関係ではないので、何を話せば良いのやら。
「初対面の時は少し圧倒されましたが、だいぶ慣れて来ました。
それに、私もご覧の通り表情が固い方なので、なんだか親近感が湧いてます」
「フェリシアちゃんは綺麗な顔をしているから、真顔だと余計に冷たく見えるのかしら?
ちょっと微笑んでみてよ」
「……」
綺麗な顔だなんて…、マリリンさんはフォローも上手いなぁと思いつつ、リクエストにお応えして微笑んでみた…つもりなのだが。
ぎこちなく吊り上げた口角が、ギシギシと音を立てている気がする。
「……ぅ…うん、無理に笑う必要は無いかも」
先程までワクワクした表情だったはずのマリリンさんは、気まずそうに目を逸らしながらそう言った。
フォローしきれなかったらしい。
「自然と零れる微笑みは可愛らしいのに、どうしてこうなっちゃうんでしょうね?」
「ミアは見た事があるのね。羨ましい。
でも、ウィルフレッド様はなかなか婚約者をお決めにならなかったから、フェリシアちゃんみたいな良い子がこんな田舎に来てくれて良かったわねぇ」
サンドイッチに手を伸ばしながら何気なく呟かれたマリリンさんの言葉に、お茶会で遭遇した無礼なご令嬢の親切な忠告を思い出してしまい、少しだけモヤッとした。
「……やっぱり、コールドウェル様には沢山婚約の打診があったのでしょうね」
「そうねぇ。
親に命じられて、先触れも出さずに無理矢理押しかけてくる子とかもいたけど、大概はあの冷たい眼差しと頬の傷に恐れをなして逃げ帰っちゃうのよ」
「私はあの傷も素敵だと思うのですが、そのせいで怖い人だと誤解されてしまうのは勿体無いですね。
治癒魔法とかでは治らないのですか?」
「治せる事は治せるんだけどね。
ウィルフレッド様は、子供の頃に大病にかかった事があるらしくて……」
「ああ、治癒魔法は掛け過ぎると効きが悪くなると言う話は聞いた事があります」
だから、治癒魔法師の治療が受けられる環境にある騎士団や王宮などでも、薬が必要になってくるのだ。
軽い怪我や病気などで治癒魔法を乱用していると、いざと言う時に治癒が効かなくなってしまうから。
「そうなのよ。
ウィルフレッド様の場合、少し効きにくい程度なんだけど、今後のことも考えての措置なの。
彼の今の状態なら、まだ大抵の怪我や病気は魔法で治せるんだけど、今以上に効果が出難くなってしまうと困るから、命に関わらない程度の怪我には治癒を使わないのよ。
あの怪我の時には止血程度にしか魔法を使わせて貰えなかったわ」
「かなり深い傷だったみたいですが、痛みとかはもう無いのでしょうか?」
「季節の変わり目などには、表情を動かす際に痛む事もあると聞いております。
常用しているせいか、痛み止めの飲み薬があまり効かないらしくて」
紅茶に口をつけていたミアが、微かに悲しそうに顔を歪めた。
「だから余計に無表情なのかしら?」
「いや、それは違うわよ。
元からだから」
傷を負う前のコールドウェル様を知るマリリンさんがサラリと否定した。
「塗り薬はどうでしょう?」
「面倒臭がって、あまりご使用になりません。
ですが、フェリシア様がお作りになった物ならば、使ってくださるかもしれませんね」
先程、在庫の確認をした薬草棚には、鎮痛効果のある物や、肌の代謝を促して傷跡を目立たなくさせる物などがあったはず。
「マリリンさん、もしも午後のお仕事が早めに終わったら、コールドウェル様に薬を作ってみても良いですか?」
「勿論よ。
ウィルフレッド様もお喜びになると思うわ」
薬草の匂いがしていた部屋に、紅茶の華やかな香りが漂う。
「ミアも座って」
「いえ、私は……」
「みんなで食べた方が美味しいから。
それに、一緒に食べようと思ってミアの分も用意して貰ったのよ。
多目にありますから、良かったらマリリンさんもどうぞ」
「あら、ありがとう。
今日は食堂に行こうと思ってたんだけど、お言葉に甘えて。
ほら、ミアもっ!
フェリシアちゃんがこう言ってるんだから、座ればいいのよ」
マリリンさんに促されたミアが、渋々椅子に腰を下ろす。
お邸のシェフが作ってくれた、サンドイッチと焼き菓子が入ったバスケットを広げると、即席の女子会が開始された。
「フェリシアちゃんは、ウィルフレッド様の婚約者なんでしょ?
二人の仲はどうなの?
あの不機嫌そうなお顔が怖く無い?」
マリリンさんは好奇心いっぱいと言った様子で、私にキラキラした瞳を向けて来た。
若干、コールドウェル様に失礼な事を言ってる気がするのだが、大丈夫なのだろうか?
もしかしたら恋バナを期待されているのかもしれないが、残念ながらまだ私と彼はそんな関係ではないので、何を話せば良いのやら。
「初対面の時は少し圧倒されましたが、だいぶ慣れて来ました。
それに、私もご覧の通り表情が固い方なので、なんだか親近感が湧いてます」
「フェリシアちゃんは綺麗な顔をしているから、真顔だと余計に冷たく見えるのかしら?
ちょっと微笑んでみてよ」
「……」
綺麗な顔だなんて…、マリリンさんはフォローも上手いなぁと思いつつ、リクエストにお応えして微笑んでみた…つもりなのだが。
ぎこちなく吊り上げた口角が、ギシギシと音を立てている気がする。
「……ぅ…うん、無理に笑う必要は無いかも」
先程までワクワクした表情だったはずのマリリンさんは、気まずそうに目を逸らしながらそう言った。
フォローしきれなかったらしい。
「自然と零れる微笑みは可愛らしいのに、どうしてこうなっちゃうんでしょうね?」
「ミアは見た事があるのね。羨ましい。
でも、ウィルフレッド様はなかなか婚約者をお決めにならなかったから、フェリシアちゃんみたいな良い子がこんな田舎に来てくれて良かったわねぇ」
サンドイッチに手を伸ばしながら何気なく呟かれたマリリンさんの言葉に、お茶会で遭遇した無礼なご令嬢の親切な忠告を思い出してしまい、少しだけモヤッとした。
「……やっぱり、コールドウェル様には沢山婚約の打診があったのでしょうね」
「そうねぇ。
親に命じられて、先触れも出さずに無理矢理押しかけてくる子とかもいたけど、大概はあの冷たい眼差しと頬の傷に恐れをなして逃げ帰っちゃうのよ」
「私はあの傷も素敵だと思うのですが、そのせいで怖い人だと誤解されてしまうのは勿体無いですね。
治癒魔法とかでは治らないのですか?」
「治せる事は治せるんだけどね。
ウィルフレッド様は、子供の頃に大病にかかった事があるらしくて……」
「ああ、治癒魔法は掛け過ぎると効きが悪くなると言う話は聞いた事があります」
だから、治癒魔法師の治療が受けられる環境にある騎士団や王宮などでも、薬が必要になってくるのだ。
軽い怪我や病気などで治癒魔法を乱用していると、いざと言う時に治癒が効かなくなってしまうから。
「そうなのよ。
ウィルフレッド様の場合、少し効きにくい程度なんだけど、今後のことも考えての措置なの。
彼の今の状態なら、まだ大抵の怪我や病気は魔法で治せるんだけど、今以上に効果が出難くなってしまうと困るから、命に関わらない程度の怪我には治癒を使わないのよ。
あの怪我の時には止血程度にしか魔法を使わせて貰えなかったわ」
「かなり深い傷だったみたいですが、痛みとかはもう無いのでしょうか?」
「季節の変わり目などには、表情を動かす際に痛む事もあると聞いております。
常用しているせいか、痛み止めの飲み薬があまり効かないらしくて」
紅茶に口をつけていたミアが、微かに悲しそうに顔を歪めた。
「だから余計に無表情なのかしら?」
「いや、それは違うわよ。
元からだから」
傷を負う前のコールドウェル様を知るマリリンさんがサラリと否定した。
「塗り薬はどうでしょう?」
「面倒臭がって、あまりご使用になりません。
ですが、フェリシア様がお作りになった物ならば、使ってくださるかもしれませんね」
先程、在庫の確認をした薬草棚には、鎮痛効果のある物や、肌の代謝を促して傷跡を目立たなくさせる物などがあったはず。
「マリリンさん、もしも午後のお仕事が早めに終わったら、コールドウェル様に薬を作ってみても良いですか?」
「勿論よ。
ウィルフレッド様もお喜びになると思うわ」
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