【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko

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16 一度は諦めた想い

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《side:ウィルフレッド》


「フェリシア・バッセル伯爵令嬢から、新しい婚約者を紹介して欲しいと頼まれたから、お前を推薦して置いたよ」

 友人であるヒューバートが魔道具の通信でそう言い出した時、俺は一瞬意味が分からなくて固まった。

「………は?」

 その言葉の意味を理解すると同時に、なんとも間抜けな声が漏れた。
 そしてジワジワと自分の体が熱を持つのを感じた。

「お前が前に言ってた夕焼け色、フェリシア嬢なんだろ?」

「なっ、何故分かった!?」

 ニヤニヤ笑いながら断定するヒューバートに、俺は目を見開いた。




 フェリシアは全く覚えていない様だが、彼女と初めて出会ったのは六年ほど前の王宮で開かれた夜会の時だ。

 ヒューバートに「お前に用があるから、偶には社交の場に出て来い」と命令されて渋々参加した夜会だった。

 親交のある貴族家当主等に一通り挨拶をして周り、目立たない会場の片隅に移動しようとした俺は、うっかり一人の令嬢にぶつかってしまった。

「きゃ……」

「ああ、申し訳ない。
 お怪我はありませんか?」

 小さな悲鳴をあげて倒れそうになった相手の腰を咄嗟に支えてそう言った俺は、思った以上に至近距離で彼女と目が合ってしまった事に、とても動揺した。
 その女性はまだ若く、髪にはデビュタントの証である白い花が飾られていたから。

 俺は自分の事を決して醜男では無いと思っているのだが、その鋭い瞳と頬の傷は女性を萎縮させ怖がらせてしまう物なのだと、今までの経験から痛いくらいに良く理解していた。
 折角のデビュタントの夜会が、自分に睨まれた事によるトラウマで台無しになってしまったのではないかと申し訳ない気持ちになる。

 だが彼女は予想に反して、俺と至近距離で見つめ合っても、怯える様子を全く見せなかった。

「こちらこそ、前をしっかり見ていなかった様で、ご迷惑をお掛けしてしまいました。
 支えて下さってありがとうございます」

 ペコリと頭を下げると艶やかな夕焼け色の髪が揺れる。
 一見無表情な彼女だが、顔を上げた瞬間、ほんの僅かに目元が緩んだ様に見えて、ドキッとした。

 丁寧に辞去の挨拶をして去って行く後ろ姿を見送りながら、彼女の名前さえ聞かなかった事に気付いて後悔していると、ヒューバートに捕まった。

「ウィル、こんな隅っこに居たのか」

「……なあ、ヒューバート。
 今日デビュタントの夕焼け色の髪の令嬢を知らないか?」

「は?夕焼け?
 見た気もするけど……、誰だったかな?
 ああ、そんな事より、お前に紹介したいヤツが居るんだよ」

 引き摺られるようにヒューバートに連れて行かれ、辺境に移住したいと言う有望な若手騎士を紹介された。
 娯楽の少ない辺境に行きたいと言う若者は少ないので、ウチの領地は常に人手不足なのだ。
 特に騎士は足りていないので、移住は大歓迎である。
 彼等と話をしながらも、俺の目は無意識の内に会場をチラチラと見回して、夕焼け色を探していた。

 だが、漸く見つけた彼女は、同じ位の年齢の美しい顔の男に、親密なエスコートを受けていたのだ。

(婚約者……、だろうか?)

 ガッカリした俺は芽生えたばかりの淡い想いを、そっと胸の奥に閉じ込めた。


 閉じ込めた、筈だったのだが───。

 どうにも気になってしまい、後になって彼女を調べた。
 彼女の正体がフェリシア・バッセル伯爵令嬢である事は、直ぐに判明した。
 その年のデビュタントの中で、オレンジの髪色を持つ令嬢は彼女だけだったから。
 そして、彼女に子供の頃からの婚約者がいる事も……。

 俺は今度こそ、自分の想いに蓋をして厳重に鍵を掛けた。



 それから六年も経って、その封印を解くことが出来るだなんて、思いもしなかった。



 見合いの席で緊張し過ぎて挙動不審になってしまった事も、今となってはいい思い出だ。

 無事に婚約が成立して、俺は大いに浮かれていた。
 フェリシアとは顔合わせ以来会えていないが、手紙のやり取りが続いており、順調に交流を深めている。


 不穏な内容の手紙がフェリシアから届いたのは、そんなある日の事。

 元婚約者がフェリシア宛にしつこく手紙や贈り物を送ってくるらしい。

 俺は焦燥感に駆られた。

 初めて会った夜会の時、隣に並ぶあの男に向けたフェリシアの柔らかい眼差しを、今でも鮮明に覚えている。

 元々、今の婚約者である自分よりも元婚約者のあの男の方が彼女の近くに居るという状況を懸念していた。
 そこへ来て、あの男が彼女に付き纏い始めたと言うのだから、心配で堪らない。


 慌ててペンを握った俺は、フェリシアにある提案をした。

『フェリシアさえ良ければ、婚姻前ではあるが、こちらの邸に越して来ないか?
 貴女がそんな状況なのに離れて暮らしているのは心配だし、婚姻前に辺境の生活に慣れてくれれば嬉しい』

 その答えが書かれたフェリシアの手紙も、早馬で届けられた。

 開封する時は、緊張で手が震えた。
 何度も深呼吸を繰り返し、手紙を読み進める。
 だらしなく頬が緩んでいくのを、自分でも感じていた。

「よっしゃあぁぁぁっっ!!」

 飛び上がって喜ぶ俺を、長年仕えてくれている執事のロバートが呆れた表情で見ていた。
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