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23 手紙
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国を出てからの私は、ランチェスター家の家名を名乗っていない。
だが、除籍された訳ではないので、まだペプロメノ王国の公爵家に籍が残ったままである。
そこで、結婚を機にグレッグと私の籍を帝国に移す手続きをする事にした。
結婚を決めた当初は、面倒な手続きをするのが嫌で、事実婚でも良いんじゃないかなぁとか思っていたのだが、そうも言っていられない気がして来た。
公爵令嬢の身分のままでは、王命を出されたりしたら従わざるを得ない。
無理矢理帰国させられたり、最悪は、望まぬ結婚をさせられたりする可能性もあるのだ。
本当に貴族って面倒臭い。
何より、先日のフレデリック殿下との再会で、グレッグが少し不安がっていて、「事実婚では安心出来ないので、きちんと手続きをしたい」と言い出した。
話し合いの時の殿下の様子が、私にまだ未練を残している様に見えたらしい。
気のせいなんじゃないかと思うけど、絶対に無いとも言い切れない。
あんなに親密だった筈のメアリーへの気持ちは、あっという間に冷めてしまったみたいだし。
今迄は私達の居場所が知られていなかったので、少し楽観視していたのだが、フレデリック殿下にここに居る事がバレてしまった今となっては、早急に手続きをした方が賢明だろう。
手続きの際はペプロメノ王国と少々揉める事もあるかもしれないと覚悟していたのだが、案外あっさりと許可されたらしく、あっという間に手続きが完了した。
もしかするとカルヴァート公爵家が手を回してくれたのかも知れない。
持つべき物は権力者の雇い主(兼、友人)である。
これで、名実共に、私達は帝国の国民となった。
ただ、この手続きの流れで、ランチェスター公爵家に連絡が行き、私が帝国に住んでいる事と、グレッグと結婚しようとしている事が家族に知られてしまったらしい。
ある日、突然、私の元にお父様から一通の手紙が届いた。
お父様が使うには可愛らし過ぎる、ファンシーな淡いサーモンピンクの封筒に、物凄い違和感を覚える。
(私には全く関心が無いのかと思っていたけど・・・。
一番好きな色を知っていたのかしら?
それとも、偶然?)
何が書いてあるのだろうかと、警戒しながら封を切ったのだが・・・・・・
『おめでとう。
幸せをいつも祈っている』
それだけが書かれた短い手紙だった。
これまでの事を詫びるでもなく、今の生活を詮索するでもなく、今後の交流を求めるでもない。
一方的に気持ちを押し付けて来る事の無い、ただ、私の幸せを願うだけの、とてもシンプルな手紙───。
その便箋は、手の汗を含んだかのように微かに波打っていた。
この短い文章を綴るのに、緊張しながら熟考したのかもしれない。
そう考えると、たった二行の手紙に、不器用なお父様の様々な気持ちが詰まっている様な気がする。
強制力が消えた今、お父様はきっと深く後悔しているのだろう。
そして、その苦しさや謝罪の気持ちを私に伝えて良いものか、伝えるのは自己満足なんじゃ無いか、私に取っては迷惑なんじゃ無いかと悩んだ末に、一番伝えたい言葉だけを書いたのだ。
私のポンコツは親譲りなのかも知れない。
そう思って、微かな笑みが浮かんだ。
これを機に、家族との関係を見直した方が良いと考える人もいるのかも知れない。
だけど・・・・・・、
やっぱり、長い年月をかけて失われてしまった信頼関係を、再構築したいとまでは思えないのだ。
ただ、グレッグと出会わせてくれた事だけは、本当に感謝している。
私が国を出る時に、「グレッグを連れて行け」と言ってくれた事も。
お陰で私は愛する人と、安全で平和な日常を手に入れる事が出来たのだから。
私は机の引き出しから、お父様が好きだった白百合の花の模様が描かれた便箋を選んで、ペンを走らせる。
『体に気をつけて』
それだけを書いた、短い手紙を返した。
壊れてしまった私達は、きっと平凡で幸せな家族に戻ることは出来ないのだろう。
だから、この位の距離感が丁度良い様な気がしている。
私には、もうグレッグがいるのだから。
だが、除籍された訳ではないので、まだペプロメノ王国の公爵家に籍が残ったままである。
そこで、結婚を機にグレッグと私の籍を帝国に移す手続きをする事にした。
結婚を決めた当初は、面倒な手続きをするのが嫌で、事実婚でも良いんじゃないかなぁとか思っていたのだが、そうも言っていられない気がして来た。
公爵令嬢の身分のままでは、王命を出されたりしたら従わざるを得ない。
無理矢理帰国させられたり、最悪は、望まぬ結婚をさせられたりする可能性もあるのだ。
本当に貴族って面倒臭い。
何より、先日のフレデリック殿下との再会で、グレッグが少し不安がっていて、「事実婚では安心出来ないので、きちんと手続きをしたい」と言い出した。
話し合いの時の殿下の様子が、私にまだ未練を残している様に見えたらしい。
気のせいなんじゃないかと思うけど、絶対に無いとも言い切れない。
あんなに親密だった筈のメアリーへの気持ちは、あっという間に冷めてしまったみたいだし。
今迄は私達の居場所が知られていなかったので、少し楽観視していたのだが、フレデリック殿下にここに居る事がバレてしまった今となっては、早急に手続きをした方が賢明だろう。
手続きの際はペプロメノ王国と少々揉める事もあるかもしれないと覚悟していたのだが、案外あっさりと許可されたらしく、あっという間に手続きが完了した。
もしかするとカルヴァート公爵家が手を回してくれたのかも知れない。
持つべき物は権力者の雇い主(兼、友人)である。
これで、名実共に、私達は帝国の国民となった。
ただ、この手続きの流れで、ランチェスター公爵家に連絡が行き、私が帝国に住んでいる事と、グレッグと結婚しようとしている事が家族に知られてしまったらしい。
ある日、突然、私の元にお父様から一通の手紙が届いた。
お父様が使うには可愛らし過ぎる、ファンシーな淡いサーモンピンクの封筒に、物凄い違和感を覚える。
(私には全く関心が無いのかと思っていたけど・・・。
一番好きな色を知っていたのかしら?
それとも、偶然?)
何が書いてあるのだろうかと、警戒しながら封を切ったのだが・・・・・・
『おめでとう。
幸せをいつも祈っている』
それだけが書かれた短い手紙だった。
これまでの事を詫びるでもなく、今の生活を詮索するでもなく、今後の交流を求めるでもない。
一方的に気持ちを押し付けて来る事の無い、ただ、私の幸せを願うだけの、とてもシンプルな手紙───。
その便箋は、手の汗を含んだかのように微かに波打っていた。
この短い文章を綴るのに、緊張しながら熟考したのかもしれない。
そう考えると、たった二行の手紙に、不器用なお父様の様々な気持ちが詰まっている様な気がする。
強制力が消えた今、お父様はきっと深く後悔しているのだろう。
そして、その苦しさや謝罪の気持ちを私に伝えて良いものか、伝えるのは自己満足なんじゃ無いか、私に取っては迷惑なんじゃ無いかと悩んだ末に、一番伝えたい言葉だけを書いたのだ。
私のポンコツは親譲りなのかも知れない。
そう思って、微かな笑みが浮かんだ。
これを機に、家族との関係を見直した方が良いと考える人もいるのかも知れない。
だけど・・・・・・、
やっぱり、長い年月をかけて失われてしまった信頼関係を、再構築したいとまでは思えないのだ。
ただ、グレッグと出会わせてくれた事だけは、本当に感謝している。
私が国を出る時に、「グレッグを連れて行け」と言ってくれた事も。
お陰で私は愛する人と、安全で平和な日常を手に入れる事が出来たのだから。
私は机の引き出しから、お父様が好きだった白百合の花の模様が描かれた便箋を選んで、ペンを走らせる。
『体に気をつけて』
それだけを書いた、短い手紙を返した。
壊れてしまった私達は、きっと平凡で幸せな家族に戻ることは出来ないのだろう。
だから、この位の距離感が丁度良い様な気がしている。
私には、もうグレッグがいるのだから。
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