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17 自業自得の末路
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「だから、貴方達には話し合う機会が必要なんじゃないかと思って・・・、今日はリネットさんもお呼びしましたのよ」
得意気に微笑む侯爵夫人に、クラクラと軽い目眩を覚える。
お節介が過ぎる。
迷惑でしか無い。
悪意が無いのが余計にタチが悪い。
「お久し振りね、ブライアン」
鈴を転がすような愛らしい声が背後から聞こえてくる。
振り返ると、美しく着飾ったリネット様がニコニコしながら立っていた。
「お話し合いの場に個室をご用意しましたので、良かったらどうぞお使いになって。
一度、三人でゆっくりお話ししてごらんなさい」
「お気遣い有難うございます。
では、お言葉に甘えましょう」
ブライアンは笑顔でお礼を言うが、彼の発する空気はとても冷たい。
「行きましょうか、アイリス」
毛虫を見る様な目でチラリとリネット様を見たブライアンは、私へ視線を移すと一瞬でいつもの優しい笑みを浮かべる。
彼に丁寧にエスコートされた私は、少し表情を強張らせたリネット様と共に、用意された個室へと向かった。
「お前は外出禁止じゃなかったのか?」
ブライアンが深い溜息をつく。
「貴方の為に監視の目を盗んで、抜け出して来たのよ」
アルバーン子爵夫妻はリネット様に甘いと聞いているから、監視もそれ程厳重では無かったのだろう。
「俺の為?意味がわからん。
・・・・・・で?
何のつもりだ?」
「ブライアンがアイリス様と結婚させられたって聞いて・・・
それなら私の方が貴方に似合うと思ったから・・・」
「結婚させられたんじゃ無くて、俺が彼女と結婚したくてしたんだ」
「嘘よ・・・そんなはず・・・」
「嘘では無いが、お前に信じてもらう必要は無い。
俺が信じて貰いたいのはアイリスだけだ。
以前は俺と婚約するのを嫌がっていた癖に、何故今更執着する?」
「家に養子がいるから、私は後を継げなくなって、縁談を探したんだけど、上手くいかなくて・・・。
以前はあんなにモテていたのに・・・」
「馬鹿なのか?
当たり前だろう。
お前は容姿は華やかだから、独身時代の遊びとして連れて歩くには良いと思う男も多かったが、基本的なマナーも身に付いてない女を貴族の正妻として迎えられるわけがない。
アイリスとは月とスッポンだ。
言うまでも無いが、アイリスの方が月だ」
冷たく言い放つブライアンにリネット様は肩を震わせる。
なんか最後の方、余計なこと言ってた気がするけど、気のせいかしら?
「でも、このままじゃ、お爺ちゃんくらい年が離れた商家の後妻にさせられちゃうの!
こんなに美人なのに、勿体無いと思わない?」
「知るかっ!
誰も勿体無いと思わないから、貰い手が無いんだろーが!
大体、美人って言うのはアイリスの様な女性のことを表す言葉だ」
説教の合間にちょいちょい惚気を挟むの、やめた方がいいと思う。
リネット様は何故か悔しそうに私を睨み付けるが、私を守る様に、その視線の間にブライアンが立ち塞がる
「お前みたいなクズがアイリスを視界に入れるな。
俺の天使が穢れたらどうしてくれるんだ」
いや、だから惚気るのやめてってば!
「そんな・・・酷い」
「は?何言ってんの?
駆け落ち騒動から終始一貫して、酷いのはお前の方だろうが。
俺等、被害者でしか無いから」
ポロポロと涙を零し始めるリネット様に、それでもブライアンは冷ややかな態度を崩さない。
「泣いて誤魔化せると思うな。
だいたい、お前は俺に嫌われてるって分かってただろう?
何故こんな無謀な計画を立てたんだ。
しかも、駆け落ちの件で俺の両親にまで恨まれているというのに。
アイリスを追い出した所で嫁に迎える訳がない。
他家を巻き込めば、俺が流されるとでも思ったか?
それとも何も考えてなかったのか?」
「・・・・・・」
図星を突かれたのか、リネット様は唇を噛んで俯いた。
流石に無謀だと自分でも分かっていたのだろう。
商家の後妻がどうしても嫌で、焦って悪足掻きをしたのかも知れない。
「まあ、今回騒動を起こしてくれたお陰で、お前の修道院行きは決定だ。
自滅してくれて、有難う。
もう煩わされなくて済むと思うと清々する」
「そんなっっ!?
修道院だなんて、絶対に嫌よっ!!」
「親から聞いてなかったのか?
前回、ウチに押しかけて来た時に、次に問題を起こしたら修道院に入れるってアルバーン子爵と約束をしてある。
大人しくジジイの後妻になれば良かった物を」
「自由が無い生活は嫌っ!!
もう迷惑かけないから、許して、ブライアン!」
泣きながら懇願するリネット様にブライアンは凍りつく様な冷たい眼差しを送る。
「無理だな。
もう充分過ぎるくらいチャンスは与えた。
これ以上騒ぎを大きくすれば、立場はどんどん悪くなるぞ。
北の収容所へ行きたくなければ、もう諦めて、修道院で心を入れ替えて真面目に生活しろ」
北の収容所と言うのは、比較的軽微な犯罪を犯した者達が送られる場所である。
厳寒の地にあり、環境も厳しい中で、収容期間中は外部との接触が一切許されず、針仕事などの軽い強制労働を延々とさせられる施設だ。
「私、何も犯罪は犯してない!」
「そうか?
侯爵夫人に虚偽の内容を書いた手紙を送りつけ、アイリスを貶めようとしたのに?
軽犯罪くらいの罪状ならば、いくらでも用意出来るぞ。
ご丁寧に手紙なんて書いてくれたから、証拠もバッチリだ。
それを、修道院で我慢してやろうって言ってるんだから、感謝して欲しいな。
今から夜会の会場へ戻って、大袈裟に侯爵夫人を責める事も出来るんだぞ。
そうすれば夫人は赤っ恥をかいて、元凶のお前を恨むだろう。
そうなったら侯爵家二つと伯爵家一つを敵に回す事になる。
その状態で、まともな生活が出来ると思うか?」
「あ・・・、い、や・・・・・・」
漸く自分の立場を理解したリネット様が青褪めて震える。
「・・・さ、もう話す事も無いので行きましょうか」
子供の様に泣きじゃくっている彼女を無視して、ブライアンは私に手を差し伸べた。
扉の前で立ち止まり、思い出した様に振り返ったブライアンは、リネット様に最後の言葉を贈る。
「そうそう、お前達がアイリスを傷つけた事は今でも許せないが、彼女に求婚する権利を与えてくれた事だけは感謝している。
じゃあ、修道院へ行っても頑張れよ」
呆然とした様子で座り込む彼女をその場に置いて、私達は部屋を出た。
得意気に微笑む侯爵夫人に、クラクラと軽い目眩を覚える。
お節介が過ぎる。
迷惑でしか無い。
悪意が無いのが余計にタチが悪い。
「お久し振りね、ブライアン」
鈴を転がすような愛らしい声が背後から聞こえてくる。
振り返ると、美しく着飾ったリネット様がニコニコしながら立っていた。
「お話し合いの場に個室をご用意しましたので、良かったらどうぞお使いになって。
一度、三人でゆっくりお話ししてごらんなさい」
「お気遣い有難うございます。
では、お言葉に甘えましょう」
ブライアンは笑顔でお礼を言うが、彼の発する空気はとても冷たい。
「行きましょうか、アイリス」
毛虫を見る様な目でチラリとリネット様を見たブライアンは、私へ視線を移すと一瞬でいつもの優しい笑みを浮かべる。
彼に丁寧にエスコートされた私は、少し表情を強張らせたリネット様と共に、用意された個室へと向かった。
「お前は外出禁止じゃなかったのか?」
ブライアンが深い溜息をつく。
「貴方の為に監視の目を盗んで、抜け出して来たのよ」
アルバーン子爵夫妻はリネット様に甘いと聞いているから、監視もそれ程厳重では無かったのだろう。
「俺の為?意味がわからん。
・・・・・・で?
何のつもりだ?」
「ブライアンがアイリス様と結婚させられたって聞いて・・・
それなら私の方が貴方に似合うと思ったから・・・」
「結婚させられたんじゃ無くて、俺が彼女と結婚したくてしたんだ」
「嘘よ・・・そんなはず・・・」
「嘘では無いが、お前に信じてもらう必要は無い。
俺が信じて貰いたいのはアイリスだけだ。
以前は俺と婚約するのを嫌がっていた癖に、何故今更執着する?」
「家に養子がいるから、私は後を継げなくなって、縁談を探したんだけど、上手くいかなくて・・・。
以前はあんなにモテていたのに・・・」
「馬鹿なのか?
当たり前だろう。
お前は容姿は華やかだから、独身時代の遊びとして連れて歩くには良いと思う男も多かったが、基本的なマナーも身に付いてない女を貴族の正妻として迎えられるわけがない。
アイリスとは月とスッポンだ。
言うまでも無いが、アイリスの方が月だ」
冷たく言い放つブライアンにリネット様は肩を震わせる。
なんか最後の方、余計なこと言ってた気がするけど、気のせいかしら?
「でも、このままじゃ、お爺ちゃんくらい年が離れた商家の後妻にさせられちゃうの!
こんなに美人なのに、勿体無いと思わない?」
「知るかっ!
誰も勿体無いと思わないから、貰い手が無いんだろーが!
大体、美人って言うのはアイリスの様な女性のことを表す言葉だ」
説教の合間にちょいちょい惚気を挟むの、やめた方がいいと思う。
リネット様は何故か悔しそうに私を睨み付けるが、私を守る様に、その視線の間にブライアンが立ち塞がる
「お前みたいなクズがアイリスを視界に入れるな。
俺の天使が穢れたらどうしてくれるんだ」
いや、だから惚気るのやめてってば!
「そんな・・・酷い」
「は?何言ってんの?
駆け落ち騒動から終始一貫して、酷いのはお前の方だろうが。
俺等、被害者でしか無いから」
ポロポロと涙を零し始めるリネット様に、それでもブライアンは冷ややかな態度を崩さない。
「泣いて誤魔化せると思うな。
だいたい、お前は俺に嫌われてるって分かってただろう?
何故こんな無謀な計画を立てたんだ。
しかも、駆け落ちの件で俺の両親にまで恨まれているというのに。
アイリスを追い出した所で嫁に迎える訳がない。
他家を巻き込めば、俺が流されるとでも思ったか?
それとも何も考えてなかったのか?」
「・・・・・・」
図星を突かれたのか、リネット様は唇を噛んで俯いた。
流石に無謀だと自分でも分かっていたのだろう。
商家の後妻がどうしても嫌で、焦って悪足掻きをしたのかも知れない。
「まあ、今回騒動を起こしてくれたお陰で、お前の修道院行きは決定だ。
自滅してくれて、有難う。
もう煩わされなくて済むと思うと清々する」
「そんなっっ!?
修道院だなんて、絶対に嫌よっ!!」
「親から聞いてなかったのか?
前回、ウチに押しかけて来た時に、次に問題を起こしたら修道院に入れるってアルバーン子爵と約束をしてある。
大人しくジジイの後妻になれば良かった物を」
「自由が無い生活は嫌っ!!
もう迷惑かけないから、許して、ブライアン!」
泣きながら懇願するリネット様にブライアンは凍りつく様な冷たい眼差しを送る。
「無理だな。
もう充分過ぎるくらいチャンスは与えた。
これ以上騒ぎを大きくすれば、立場はどんどん悪くなるぞ。
北の収容所へ行きたくなければ、もう諦めて、修道院で心を入れ替えて真面目に生活しろ」
北の収容所と言うのは、比較的軽微な犯罪を犯した者達が送られる場所である。
厳寒の地にあり、環境も厳しい中で、収容期間中は外部との接触が一切許されず、針仕事などの軽い強制労働を延々とさせられる施設だ。
「私、何も犯罪は犯してない!」
「そうか?
侯爵夫人に虚偽の内容を書いた手紙を送りつけ、アイリスを貶めようとしたのに?
軽犯罪くらいの罪状ならば、いくらでも用意出来るぞ。
ご丁寧に手紙なんて書いてくれたから、証拠もバッチリだ。
それを、修道院で我慢してやろうって言ってるんだから、感謝して欲しいな。
今から夜会の会場へ戻って、大袈裟に侯爵夫人を責める事も出来るんだぞ。
そうすれば夫人は赤っ恥をかいて、元凶のお前を恨むだろう。
そうなったら侯爵家二つと伯爵家一つを敵に回す事になる。
その状態で、まともな生活が出来ると思うか?」
「あ・・・、い、や・・・・・・」
漸く自分の立場を理解したリネット様が青褪めて震える。
「・・・さ、もう話す事も無いので行きましょうか」
子供の様に泣きじゃくっている彼女を無視して、ブライアンは私に手を差し伸べた。
扉の前で立ち止まり、思い出した様に振り返ったブライアンは、リネット様に最後の言葉を贈る。
「そうそう、お前達がアイリスを傷つけた事は今でも許せないが、彼女に求婚する権利を与えてくれた事だけは感謝している。
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