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11 港町での邂逅
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露店が多く出ている通りに辿り着いたら、その活気に溢れた雰囲気に、自然と先程迄の落ち込んだ気持ちが消えていった。
輸入品の小物を扱う店や、海沿いの街らしく貝殻を使った置物を売る店、真珠のアクセサリーを売る店など、多種多様で目移りしてしまう。
どこから見ようかとキョロキョロしていると、魚介が焼ける香ばしい匂いが漂って来た。
クゥと、小さく私のお腹が鳴る。
「・・・・・・聞こえた?」
聞き逃していて欲しいと願いながら恐る恐る振り向くが、彼の表情はどう見ても笑いを堪えている。
「・・・済みません、聞こえちゃいました。
朝ご飯、食べてなかったですもんね。
先ずは何か食べましょうか?
俺もお腹ペコペコです」
「ブライアンがお腹が空いたって言うのなら、仕方ないわよね」
「フフッ・・・。じゃあ、匂いの元を探しますか」
美味しそうな匂いを辿って、行き着いたお店は、海鮮の串焼きを売る屋台だった。
数あるラインナップから、ブライアンは迷い無く海老の串焼きとホタテの串焼きを選んで注文した。
どちらも私の好物だ。
「なぜ私の食の好みが分かったの?」
「アイリスは、好きな物はゆっくりと味わって食べるタイプなので分かり易いですよ」
食事時にも観察されていたとは知らなかった。
だから、お茶菓子の好みも知られていたのだろう。
そう言えば、私はブライアンの好きな食べ物を知らないという事に気が付いた。
今度私もブライアンを観察してみようと、こっそり決意しながら、熱々の串焼きに齧り付く。
貴族の女性にあるまじき行為だが、今日はお忍びなので気にしない。
せっかく観光をしに来たのだから、その街の流儀に合わせて楽しむべきだ。
「ん~っ!!すごく美味しい!」
プリッとした食感の海老は、塩気の中にほんのりとした甘みが広がる。
鮮度が良いせいか、この街の雰囲気のせいか、いつも食べる海老よりも格段に美味しく感じられた。
視線を感じて見上げると、ブライアンが微笑ましい物を見る様な目で、私を見ていた。
食べている所をじっと見られるのは、なんだか恥ずかしい。
「見てないで、冷めない内にブライアンも食べなよ」
「いやぁ、可愛いなと思って」
やめてよ、益々恥ずかしい!
小腹を満たした私達は、散策を再開させた。
海をイメージしたアクセサリーを売る露店の前で、ブライアンが足を止めた。
「あ、これなんかアイリスに似合いそうですよ」
ブライアンが手にしたのは、銀の台座にアクアマリンと貝殻で装飾を施した髪飾りだった。
「この髪飾りは素敵だけど、私には可愛らし過ぎない?」
「そんな事ありません!
アイリスがいつも落ち着いたデザインの物を選ぶのは知っていますが・・・
でも、こういう明るい雰囲気の物も貴女には似合うのに、試してみないなんて勿体ないですよ」
私の耳の上に髪飾りを当てて、力説するブライアン。
そこまで言うなら、買ってみようかしら?
本当は私だって、可愛らしい物が好きなのだ。
似合わないと思っていたから、今迄手には取らなかったけど。
「今日の記念に買いましょう」
ブライアンはそう言うけれど、さっき他の店でも同じ事を言ってネックレスを購入してくれたばかりだ。
(今日の記念、多過ぎない?)
そう思うのだが、彼の幸せそうな笑顔を見てしまえば、断る事も出来ずに・・・・・・。
結局、この後も『今日の記念品』が増え続ける事になるのだった。
そんな風に初めてのデートを楽しんでいたのだが、何故かブライアンが一瞬だけ愕然とした表情を浮かべた。
「アイリス、あっちの店が気になります」
次の瞬間、私の腰を抱いて急に方向転換をすると、大股で歩き始める。
その態度が気になって、彼が先程見ていた方向を振り向くと・・・・・・。
遠くの方に、ブライアンと同じ銀色の髪とグリーンの瞳を見付けてしまった。
私の心臓が、ドクンと大きく脈打つ。
(チャールズ・・・!)
お互い直ぐに顔を逸らしたけれど、長年婚約していた幼馴染を間違うはずは無い。
どうしてこんな所に?
彼がここに居ると言う事は、リネット様も近くにいるのかしら?
ブライアンは、どう思っているの?
リネット様を探し出したいのか、それとも気まずいから会いたく無いのか。
何故、チャールズを避ける様に慌てて進行方向を変えたのか。
ブライアンの気持ちが気になって仕方ないのに、私は何も聞く事が出来なかった。
輸入品の小物を扱う店や、海沿いの街らしく貝殻を使った置物を売る店、真珠のアクセサリーを売る店など、多種多様で目移りしてしまう。
どこから見ようかとキョロキョロしていると、魚介が焼ける香ばしい匂いが漂って来た。
クゥと、小さく私のお腹が鳴る。
「・・・・・・聞こえた?」
聞き逃していて欲しいと願いながら恐る恐る振り向くが、彼の表情はどう見ても笑いを堪えている。
「・・・済みません、聞こえちゃいました。
朝ご飯、食べてなかったですもんね。
先ずは何か食べましょうか?
俺もお腹ペコペコです」
「ブライアンがお腹が空いたって言うのなら、仕方ないわよね」
「フフッ・・・。じゃあ、匂いの元を探しますか」
美味しそうな匂いを辿って、行き着いたお店は、海鮮の串焼きを売る屋台だった。
数あるラインナップから、ブライアンは迷い無く海老の串焼きとホタテの串焼きを選んで注文した。
どちらも私の好物だ。
「なぜ私の食の好みが分かったの?」
「アイリスは、好きな物はゆっくりと味わって食べるタイプなので分かり易いですよ」
食事時にも観察されていたとは知らなかった。
だから、お茶菓子の好みも知られていたのだろう。
そう言えば、私はブライアンの好きな食べ物を知らないという事に気が付いた。
今度私もブライアンを観察してみようと、こっそり決意しながら、熱々の串焼きに齧り付く。
貴族の女性にあるまじき行為だが、今日はお忍びなので気にしない。
せっかく観光をしに来たのだから、その街の流儀に合わせて楽しむべきだ。
「ん~っ!!すごく美味しい!」
プリッとした食感の海老は、塩気の中にほんのりとした甘みが広がる。
鮮度が良いせいか、この街の雰囲気のせいか、いつも食べる海老よりも格段に美味しく感じられた。
視線を感じて見上げると、ブライアンが微笑ましい物を見る様な目で、私を見ていた。
食べている所をじっと見られるのは、なんだか恥ずかしい。
「見てないで、冷めない内にブライアンも食べなよ」
「いやぁ、可愛いなと思って」
やめてよ、益々恥ずかしい!
小腹を満たした私達は、散策を再開させた。
海をイメージしたアクセサリーを売る露店の前で、ブライアンが足を止めた。
「あ、これなんかアイリスに似合いそうですよ」
ブライアンが手にしたのは、銀の台座にアクアマリンと貝殻で装飾を施した髪飾りだった。
「この髪飾りは素敵だけど、私には可愛らし過ぎない?」
「そんな事ありません!
アイリスがいつも落ち着いたデザインの物を選ぶのは知っていますが・・・
でも、こういう明るい雰囲気の物も貴女には似合うのに、試してみないなんて勿体ないですよ」
私の耳の上に髪飾りを当てて、力説するブライアン。
そこまで言うなら、買ってみようかしら?
本当は私だって、可愛らしい物が好きなのだ。
似合わないと思っていたから、今迄手には取らなかったけど。
「今日の記念に買いましょう」
ブライアンはそう言うけれど、さっき他の店でも同じ事を言ってネックレスを購入してくれたばかりだ。
(今日の記念、多過ぎない?)
そう思うのだが、彼の幸せそうな笑顔を見てしまえば、断る事も出来ずに・・・・・・。
結局、この後も『今日の記念品』が増え続ける事になるのだった。
そんな風に初めてのデートを楽しんでいたのだが、何故かブライアンが一瞬だけ愕然とした表情を浮かべた。
「アイリス、あっちの店が気になります」
次の瞬間、私の腰を抱いて急に方向転換をすると、大股で歩き始める。
その態度が気になって、彼が先程見ていた方向を振り向くと・・・・・・。
遠くの方に、ブライアンと同じ銀色の髪とグリーンの瞳を見付けてしまった。
私の心臓が、ドクンと大きく脈打つ。
(チャールズ・・・!)
お互い直ぐに顔を逸らしたけれど、長年婚約していた幼馴染を間違うはずは無い。
どうしてこんな所に?
彼がここに居ると言う事は、リネット様も近くにいるのかしら?
ブライアンは、どう思っているの?
リネット様を探し出したいのか、それとも気まずいから会いたく無いのか。
何故、チャールズを避ける様に慌てて進行方向を変えたのか。
ブライアンの気持ちが気になって仕方ないのに、私は何も聞く事が出来なかった。
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