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8 甘い新婚生活
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「お帰りなさい、ブライアン。
今日もお疲れ様」
どんよりした顔で帰宅したブライアンを玄関ホールで出迎える。
「本っ当に疲れました。
癒して下さい」
そう言って両腕を広げた彼に近付くと、ギュウギュウと強く抱き締められる。
これが最近の私の日課になってしまった。
結婚から半年近く経った。
式の当日と翌日は二人でのんびりと過ごせたものの、それ以外ブライアンは休みらしい休みも取れず、次期伯爵となる為の勉強をしながら、領内のあちこちを視察したりとかなり忙しく過ごしている。
子爵家に婿養子に入る為の勉強は、以前からしていたが、ベニントン伯爵領とアルバーン子爵領では規模も特色も全く違うので、一から勉強のし直しである。
私も領内の視察にはたまに同行している。
『時期当主が変更となり結婚相手も入れ替えられたが、私たち夫婦は円満で何も問題無い』と領民達にアピールする狙いがある。
同じ事を社交界にアピールする為、社交シーズンには、連れ立って茶会や夜会に積極的に参加していた。
二人きりの時もそうなのだが、人前でも、ブライアンは周囲が引くほどに私に甘過ぎる態度で接している。
そのお陰なのか、わざわざ私に、ブライアンとリネット様がどんなに仲睦まじかったかなどと、余計な事を教えてくれる、親切な人達も居なくなった。
まあ、陰で何と言われているかは不明だが。
目に余る者達は、お父様とお兄様が私に知られる前に排除してくれているのだろうと思う。
「はあぁぁ~・・・・・・。生き返る」
未だに私を離してくれないブライアンは、私の頭にグリグリと頬擦りをしながら深く息を吐いた。
「大袈裟!!」
「そんな事無いですよ。
アイリスが居るから頑張れます」
私の頭頂部にキスをして、ようやく抱き締める腕の力を緩めてくれた。
見上げると、蕩ける様な熱視線がこちらに向けられていた。
「食事は?もう食べたの?」
「仕事の合間に、軽く。
この時間なら、アイリスももう食べましたよね」
「ええ」
「じゃあ、お茶に付き合って下さい。
貴女が好きそうなクッキーを買ってきました」
これも最近の恒例。
ブライアンは、仕事で帰宅が遅くなり夕食を私と一緒に食べられない時は、私好みのお茶菓子を買って来る。
そして、私をお茶に誘うのだ。
嬉しいけれど、体型を保つのが大変だ。
でもまあ、妻との関係を円満に保つ為に、忙しい中でも一緒に過ごす努力をしてくれているのだから、有難い事だ。
・・・・・・ソファーに並んで座って、腰を抱くのは少しやり過ぎだけどね。
他にも座る所は沢山あるのに、何故いつもピッタリと寄り添って座りたがるのか。
お茶が飲み難くて仕方ない。
こんな風に、常に甘い空気を醸し出して来るのだから、もしかして本当に愛されてるのかもしれないと信じたくなってしまう。
ブライアンは四つも年下の癖に、いつも余裕の表情で、私ばかりが翻弄されているみたいな気がして悔しい。
今日のお土産のクッキーは、ココナッツの風味がしてサクホロな食感。
とても好きな味だった。
何故、私の好みにピッタリの物がわかるのだろう?
不思議だ。
「今日のクッキーも、とっても好みだわ」
「それは良かった」
この深夜のティータイムの時、ブライアンはお菓子を殆ど食べない。
私が幸せそうにお菓子を食べる様をニコニコ見ているだけなのだ。
何だか狡く無い?
深夜に甘い物を食べて、太るのを気にするのも私だけ。
まるで愛されているみたいな雰囲気に、ドギマギするのも私だけ。
そう思った私は、クッキーを一枚手に取った。
「凄く美味しいんだから、ブライアンも食べてよ」
ブライアンの口元に差し出すと、さっきまで余裕たっぷりに微笑んでいた彼は、ピシリと固まった。
その頬がほんのりと色付いたのを見て、不思議な満足感が湧いてくる。
薄く開いたブライアンの口にクッキーを押し込み、その唇についた粉を指で拭ってペロリと舐めると、彼の頬は益々赤くなった。
「ね?美味しいでしょ?」
「・・・・・・美味しい、です、けど・・・」
次の瞬間、私はブライアンの腕の中に閉じ込められていた。
胸に顔を埋めると、彼の心臓が信じられないくらいに速く脈打っているのが分かった。
首筋に、熱い吐息がかかる。
「アイリス、あんまり煽らないで」
低く掠れた声で耳元で囁かれると、私の鼓動も速くなる。
やっぱり今日も、翻弄されるのは私の方だった。
今日もお疲れ様」
どんよりした顔で帰宅したブライアンを玄関ホールで出迎える。
「本っ当に疲れました。
癒して下さい」
そう言って両腕を広げた彼に近付くと、ギュウギュウと強く抱き締められる。
これが最近の私の日課になってしまった。
結婚から半年近く経った。
式の当日と翌日は二人でのんびりと過ごせたものの、それ以外ブライアンは休みらしい休みも取れず、次期伯爵となる為の勉強をしながら、領内のあちこちを視察したりとかなり忙しく過ごしている。
子爵家に婿養子に入る為の勉強は、以前からしていたが、ベニントン伯爵領とアルバーン子爵領では規模も特色も全く違うので、一から勉強のし直しである。
私も領内の視察にはたまに同行している。
『時期当主が変更となり結婚相手も入れ替えられたが、私たち夫婦は円満で何も問題無い』と領民達にアピールする狙いがある。
同じ事を社交界にアピールする為、社交シーズンには、連れ立って茶会や夜会に積極的に参加していた。
二人きりの時もそうなのだが、人前でも、ブライアンは周囲が引くほどに私に甘過ぎる態度で接している。
そのお陰なのか、わざわざ私に、ブライアンとリネット様がどんなに仲睦まじかったかなどと、余計な事を教えてくれる、親切な人達も居なくなった。
まあ、陰で何と言われているかは不明だが。
目に余る者達は、お父様とお兄様が私に知られる前に排除してくれているのだろうと思う。
「はあぁぁ~・・・・・・。生き返る」
未だに私を離してくれないブライアンは、私の頭にグリグリと頬擦りをしながら深く息を吐いた。
「大袈裟!!」
「そんな事無いですよ。
アイリスが居るから頑張れます」
私の頭頂部にキスをして、ようやく抱き締める腕の力を緩めてくれた。
見上げると、蕩ける様な熱視線がこちらに向けられていた。
「食事は?もう食べたの?」
「仕事の合間に、軽く。
この時間なら、アイリスももう食べましたよね」
「ええ」
「じゃあ、お茶に付き合って下さい。
貴女が好きそうなクッキーを買ってきました」
これも最近の恒例。
ブライアンは、仕事で帰宅が遅くなり夕食を私と一緒に食べられない時は、私好みのお茶菓子を買って来る。
そして、私をお茶に誘うのだ。
嬉しいけれど、体型を保つのが大変だ。
でもまあ、妻との関係を円満に保つ為に、忙しい中でも一緒に過ごす努力をしてくれているのだから、有難い事だ。
・・・・・・ソファーに並んで座って、腰を抱くのは少しやり過ぎだけどね。
他にも座る所は沢山あるのに、何故いつもピッタリと寄り添って座りたがるのか。
お茶が飲み難くて仕方ない。
こんな風に、常に甘い空気を醸し出して来るのだから、もしかして本当に愛されてるのかもしれないと信じたくなってしまう。
ブライアンは四つも年下の癖に、いつも余裕の表情で、私ばかりが翻弄されているみたいな気がして悔しい。
今日のお土産のクッキーは、ココナッツの風味がしてサクホロな食感。
とても好きな味だった。
何故、私の好みにピッタリの物がわかるのだろう?
不思議だ。
「今日のクッキーも、とっても好みだわ」
「それは良かった」
この深夜のティータイムの時、ブライアンはお菓子を殆ど食べない。
私が幸せそうにお菓子を食べる様をニコニコ見ているだけなのだ。
何だか狡く無い?
深夜に甘い物を食べて、太るのを気にするのも私だけ。
まるで愛されているみたいな雰囲気に、ドギマギするのも私だけ。
そう思った私は、クッキーを一枚手に取った。
「凄く美味しいんだから、ブライアンも食べてよ」
ブライアンの口元に差し出すと、さっきまで余裕たっぷりに微笑んでいた彼は、ピシリと固まった。
その頬がほんのりと色付いたのを見て、不思議な満足感が湧いてくる。
薄く開いたブライアンの口にクッキーを押し込み、その唇についた粉を指で拭ってペロリと舐めると、彼の頬は益々赤くなった。
「ね?美味しいでしょ?」
「・・・・・・美味しい、です、けど・・・」
次の瞬間、私はブライアンの腕の中に閉じ込められていた。
胸に顔を埋めると、彼の心臓が信じられないくらいに速く脈打っているのが分かった。
首筋に、熱い吐息がかかる。
「アイリス、あんまり煽らないで」
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