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4 新たな婚約者

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『幸せになりませんか?
・・・・・・俺と、一緒に』

そう言われて、私だって嬉しくなかった訳では無い。

だけど・・・・・・。



子供の頃から騎士に憧れていたチャールズは、結婚するまでの期間限定で騎士団に所属していた。
『結婚したら、騎士を辞めて領地経営の勉強を本格的にする』と、ベニントン伯爵に約束をして。
そして、『もう少し騎士の仕事を続けたいから』と言われ、結婚の時期を先送りにしていた結果、私はいつの間にか二十三歳になってしまったのだ。

今思えば、チャールズは騎士を辞めたく無かったのではなく、私と結婚したく無かったから婚姻の時期を伸ばしていたのかもしれない。

まあ、それはともかく、二十三と言えば、貴族令嬢としては立派な行き遅れである。

一方のブライアンは、まだ十九歳という若さだ。
その年齢の男性であれば、まだまだこれから脂が乗ってきて、縁談にも不自由しない時期である。
何も四歳も年上の生き遅れを娶る必要など無いのだ。


「兄の行いに責任を感じているの?
貴方がチャールズの尻拭いをする必要は無いのよ?」

「尻拭いだなんて思っていませんよ。
俺が、アイリスと結婚したいだけです」

四つも年下の男の子に、気を使わせてしまった・・・・・・。
申し訳なさでいっぱいだ。

「・・・ありがとう。
でも、私の今後に関しては、お父様達に決めて貰うわ」


───だから、多分、ブライアンとの婚約は無いだろう。

と、思っていたのだが。

何故か、三日後には、私達の婚約が成立していた。




ブライアンとの結婚は、両家の話し合いの中でもベニントン家から提案されたらしい。
ブライアンはまだ若いが、もしも今回の兄と婚約者の愚行が明らかになれば、大きな醜聞だ。
しかも、『同じ教育を受けた弟もろくでなしかもしれない』と言われて避けられてしまう可能性もあるのだ。
それならば、同じ傷を持つ者同士、結婚させてはどうかという事だ。

だが、こちらが被害者である上に、家格もこちらの方が上である。
あちらの提案を飲まなければならない道理は無い。
お父様達は、挙式の一月前に置き手紙だけ残して駆け落ちするという、チャールズの不誠実な行動に怒り狂っていたので、『大事なアイリスをベニントン家にはやらん!』と、最初は突っぱねた。


「アイリスは結婚などしなくて良い。
ずっと私達とこの邸で暮らそう」

お父様の言葉に、私は首を横に振った。
お父様とお兄様に任せるとは言ったが、それだけは受け入れられない。

「侯爵家の財産は、領民の血税ですよ?
私の様な穀潰しの生活の為に使ってはなりません」

「気にする必要は無い。
ベニントン家とアルバーン家からは、多額の慰謝料が入る予定だ。
その金はお前に対する慰謝料なのだから、お前の生活に使うのが当然だろう」

私に対する慰謝料だと言うが、婚約は家同士の契約だから、慰謝料だってコールリッジ家に対する物だと思う。
だから、それだって、領地に何か起きた時の為の蓄えにするべきではないか。
今迄の様に、ベニントン家と助け合う事は難しいのだから、その分蓄えを多くしておいた方が良いに決まっている。
それに、お父様達は良くても、お兄様の妻になる女性は、私の存在を煙たがるだろう。

「挙式の直前に婚約破棄となった行き遅れの娘など、貰って頂くのは難しいでしょうけれど、歳の離れた方の後妻だとか、貴族との縁を望む商家とかならば、貰い手があるかもしれません。
どうしても無理ならば、修道院に入るとか・・・・・・」

腐っても侯爵令嬢である。
その肩書を利用すれば、贅沢を言わなければ、嫁の貰い手もきっと見つかるはずだ。
私は家族を説得しようとしたのだが、彼等の顔色はどんどん悪くなっていき・・・・・・。

「そんな目に合わせる位ならば、ベニントンに嫁に出した方がまだマシだっっ!!」

と、あっという間に婚約を成立させてしまったのである。

お兄様は納得いかなかったらしく、最後まで苦虫を噛み潰したような顔をしていたが。


まあ、両家の対立が続けば互いの領地にとってはマイナスでしか無いから、それが少しはマシになりそうなこの婚姻は領民の為にもなるだろう。

貧乏クジを引かされたブライアンは本当に可哀想だと思うけれど、最初から兄のやらかしの責任を取ってくれるつもりだったみたいだから、その優しさに甘える事にした。
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