【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko

文字の大きさ
上 下
13 / 18

13 やっと気付いた自分の心

しおりを挟む
騒動の翌日は、週末だった。
学園は休みなので、私は王子妃教育を受けに登城している。


午後の休憩時間は、例によってジュリアン殿下の執務室に呼ばれて、お茶をご馳走になる。
今日も、部屋いっぱいに甘い香りが広がっている。

フカフカのソファーに腰を降ろすと、アールグレイの紅茶と、アップルパイが饗された。
どちらも私の好物だ。
落ち込んでいる私を、気遣って下さったのだろうか?


「昨日の二人は、とりあえず停学処分になったよ。
これから色々調べて、証拠を固めてから、最終的な処分を下す予定だ」

「・・・・・・」

「どうしたの?リュシー。
まだ、何か気になる事がある?」

不安が顔に出ていたのか、殿下が心配そうに私の顔を覗き込む。

「・・・昨日は、殿下が庇って下さったお陰で、皆さん一応は納得して下さったみたいでしたが、確実な証拠を提示出来た訳ではありません。
まだ、私に疑惑を持っている生徒は多いのではないでしょうか?
そんな私が王子妃になるなんて・・・」

あんな簡単な罠に嵌ってしまった自分が情けなかった。
階段でのトラブルは、乙ゲー転生小説の定番だ。
このゲームをプレイした事が無いと言っても、予測は出来たはずなのに、警戒を怠った。
悔しさと悲しさで顔が上げられない。

「ねぇ、リュシー。
どんな事情があるのかは分からないけど、婚約解消なんて言うのは、もうやめないか」

ジュリアン殿下は、優しい声で、静かに私に語りかける。

「自惚れかもしれないけど、君が婚約解消の話をする時は、いつも少し悲しそうに見えるんだ。
それに、君が王子妃になる為に頑張ってくれていた事を、僕は知ってる」


ーーーそうか。私、頑張ってたのか。


確かに、大変な王子妃教育を、懸命に頑張っていた。
賢くも無い頭で、苦手な教科も必死に学んだ理由なんて、一つしかないではないか。

ああ、好きにならない様に気を付けていた筈だったのに。
自分でも気付かない内に、こんなにも、この人の事が好きになってしまっていたんだ・・・・・・


「・・・・・・ジュリアン殿下。
私・・・、貴方の事が、好きみたいです」


ずっと心の奥に閉じ込めてきた想いが溢れた瞬間、彼の水色の瞳が大きく見開かれ、幸せそうな笑顔に変わる。


「ああ・・・、やっとその言葉が聞けた」


テーブルを挟んで、向かいのソファに座っていた殿下が、私の隣に移動する。

「リュシー、大好きだよ」

目の前のアップルパイよりも、殿下の醸し出す空気の方がずっと甘い。

私の頬に触れる彼の手は、少しだけ震えている。
熱の籠った瞳で見つめられると、彼の事以外何も考えられなくなった。
その水色の瞳が少しづつ近付いて、自然に目を閉じると・・・

2人の唇が、一瞬だけ重なった。






・・・見つめ合ったまま、どのくらいの時間が過ぎたのか。
いつまでも治まらない動悸を抑えたくて、無意識の内に胸元に手を当てた。

ーーーあ。

指先に触れたペンダントの存在を思い出し、首元からそれを引き出す。
ポケットから、同じ物を取り出して、殿下に手渡した。

「これ、よかったら受け取って下さい」

「これは?」

「新作の魔道具の試作品です。
離れた場所にいる人物と、会話が出来ます」

「へえ、こんなに小さいのに?」

携帯電話の開発は難航している。
この試作品は、対になる一台としか通信出来ないのだ。
電話の様に一台づつに番号などを割り振って、誰とでも繋げられる様にしようとすると、どうしてもサイズが大きくなり、携帯には向かなくなってしまう。
私の頭脳ではなかなか難しかった。

しかし、これはこれで多少は需要がありそうな気がしている。
この世界にも、遠隔で会話が出来る道具はあるのだが、大きくて持ち歩きは出来ないし、高額だ。
主に王城と辺境の緊急連絡などに用いられている。
それが安価で小型化されたのだから、使い道は色々ありそうだ。

「まだ開発途中で、今の所、私が持っているコレとしか通信出来ませんが」

私が首元に下げた自分のペンダントを指すと、殿下が目を輝かせた。

「それって、リュシーといつでも話が出来るって事だよね?
凄く嬉しい。
でも、貴重な試作品を、僕が貰っても良いの?」

「ええ。殿下に持っていて欲しいです」

その言葉に嬉しそうに笑った彼は、私を腕の中に閉じ込めた。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたは知らなくていいのです

楽歩
恋愛
無知は不幸なのか、全てを知っていたら幸せなのか  セレナ・ホフマン伯爵令嬢は3人いた王太子の婚約者候補の一人だった。しかし王太子が選んだのは、ミレーナ・アヴリル伯爵令嬢。婚約者候補ではなくなったセレナは、王太子の従弟である公爵令息の婚約者になる。誰にも関心を持たないこの令息はある日階段から落ち… え?転生者?私を非難している者たちに『ざまぁ』をする?この目がキラキラの人はいったい… でも、婚約者様。ふふ、少し『ざまぁ』とやらが、甘いのではなくて?きっと私の方が上手ですわ。 知らないからー幸せか、不幸かーそれは、セレナ・ホフマン伯爵令嬢のみぞ知る ※誤字脱字、勉強不足、名前間違いなどなど、どうか温かい目でm(_ _"m)

【完結】己の行動を振り返った悪役令嬢、猛省したのでやり直します!

みなと
恋愛
「思い出した…」 稀代の悪女と呼ばれた公爵家令嬢。 だが、彼女は思い出してしまった。前世の己の行いの数々を。 そして、殺されてしまったことも。 「そうはなりたくないわね。まずは王太子殿下との婚約解消からいたしましょうか」 冷静に前世を思い返して、己の悪行に頭を抱えてしまうナディスであったが、とりあえず出来ることから一つずつ前世と行動を変えようと決意。 その結果はいかに?! ※小説家になろうでも公開中

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

【完結】ヒロインであれば何をしても許される……わけがないでしょう

凛 伊緒
恋愛
シルディンス王国・王太子の婚約者である侯爵令嬢のセスアは、伯爵令嬢であるルーシアにとある名で呼ばれていた。 『悪役令嬢』……と。 セスアの婚約者である王太子に擦り寄り、次々と無礼を働くルーシア。 セスアはついに我慢出来なくなり、反撃に出る。 しかし予想外の事態が…? ざまぁ&ハッピーエンドです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

悪役令息の婚約者になりまして

どくりんご
恋愛
 婚約者に出逢って一秒。  前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。  その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。  彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。  この思い、どうすれば良いの?

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

処理中です...