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5 デートという名の下調べ

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ジュリアン殿下との婚約が正式に決まって、しばらく経った頃の事。

「お嬢様は、こういう服装もお似合いになりますねぇ。
すっかり大人っぽくなられて、近頃は性格も柔和になられましたし。
もう立派なレディですね」

メロディがにこやかに話しかけながら、私の髪を梳る。

前世の記憶が蘇った私は、少々性格が変わったようだ。
それと同じタイミングで寝込んでいた為、「生死の境を彷徨った事で、思う所があったのだろう」と、世間では言われている。
不審に思われる程の変化で無かった事は幸いだ。

今日の私は紺色のワンピース姿。
裾と袖口には、水色のレースが取り付けられた、シンプルで可愛らしいデザイン。
焦茶色の編み上げブーツを履いて、ちょっと裕福な商家の娘風の出立ちだ。

ジュリアン殿下とのお忍びデートの為の服装である。

切っ掛けは先週の殿下とのお茶会での出来事だった。



「リュシエンヌ嬢、これ君にお土産だよ」

そう言って手渡されたのは、木彫りのオルゴール。
ゼンマイ式で、蓋を開けると愛らしい小鳥が出てきて、クルクル回りながら音楽を奏でる。
とても可愛いが、いつも殿下がくださるプレゼントとは少し違って、庶民的な物だ。

「まあ、可愛らしい!
お土産と仰いましたが、どちらで?」

「先日、お忍びで平民街の視察に行ったんだよ。
その時、露店で見付けて、君が好きそうだと思ったんだ」

「ええ、とても気に入りました。
嬉しいです」

平民街の視察!羨ましい。
私がもしも将来、平民に落とされるならば、平民の暮らしを把握するのは不可欠だ。

しかし、公爵令嬢の私は買い物をするにも、邸に商会がやって来るし、カフェやレストランに行くにも、馬車で店の前に横付けだ。
街を歩く機会など無い。
何より、過保護なお父様が許さない。

でも、もしかして、殿下と一緒ならば許されるんじゃない?

「平民街の視察、私も行ってみたいですわ」

試しに言ってみたら、殿下の瞳がキラリと輝いた。

「本当かい?
じゃあ、来週の交流はお茶会じゃなくて、下町散策にする?」

「良いのですか!?」

「ああ。勿論だとも。
初めてのデートだね。僕も楽しみだよ」

彼はとても嬉しそうに笑った。

ーーーデート!!

言われてみればその通りなのだが、なんとも甘酸っぱい響きである。

下町散策の件は、やはりお父様が大反対した。
しかし、殿下が一緒なので、護衛が完璧である事と、お母様の説得によって、なんとか許可が降りたのだった。



当日、私を迎えに来た殿下も、裕福な平民子息風の服装だった。
帽子で輝く金髪を隠しているが、キラキラしたオーラは全く隠しきれていない。
これで、本当にお忍び出来るのか?

その彼が、私の姿を目にして、固まった。

「どうですか?商家の娘に見えます?」

クルリと回って見せて、声をかけると、彼はハッとして、みるみる顔が朱に染まった。

「・・・・・・かわいい」

「えっ?」

「いや、ごめん。
本当は、もっと上手に褒めたいんだけど、言葉にならなくて・・・」

そう言われて、私まで頬が熱くなる。
息をするように饒舌に褒められる事には、私も慣れている。
王侯貴族の男性にとって、女性を褒めるのは只のマナーであるが、こんなにもシンプルに言われると、なんだか逆に本心みたいに聞こえてしまって・・・。

暫く二人ともモジモジしていた。
周囲の使用人達が、何とも言えない表情で見守っている。


「・・・じゃあ、行こうか」

差し出された手を取る。
まだ頬の熱が引かない私達は、馬車へと乗り込んだ。
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