5 / 18
5 デートという名の下調べ
しおりを挟む
ジュリアン殿下との婚約が正式に決まって、しばらく経った頃の事。
「お嬢様は、こういう服装もお似合いになりますねぇ。
すっかり大人っぽくなられて、近頃は性格も柔和になられましたし。
もう立派なレディですね」
メロディがにこやかに話しかけながら、私の髪を梳る。
前世の記憶が蘇った私は、少々性格が変わったようだ。
それと同じタイミングで寝込んでいた為、「生死の境を彷徨った事で、思う所があったのだろう」と、世間では言われている。
不審に思われる程の変化で無かった事は幸いだ。
今日の私は紺色のワンピース姿。
裾と袖口には、水色のレースが取り付けられた、シンプルで可愛らしいデザイン。
焦茶色の編み上げブーツを履いて、ちょっと裕福な商家の娘風の出立ちだ。
ジュリアン殿下とのお忍びデートの為の服装である。
切っ掛けは先週の殿下とのお茶会での出来事だった。
「リュシエンヌ嬢、これ君にお土産だよ」
そう言って手渡されたのは、木彫りのオルゴール。
ゼンマイ式で、蓋を開けると愛らしい小鳥が出てきて、クルクル回りながら音楽を奏でる。
とても可愛いが、いつも殿下がくださるプレゼントとは少し違って、庶民的な物だ。
「まあ、可愛らしい!
お土産と仰いましたが、どちらで?」
「先日、お忍びで平民街の視察に行ったんだよ。
その時、露店で見付けて、君が好きそうだと思ったんだ」
「ええ、とても気に入りました。
嬉しいです」
平民街の視察!羨ましい。
私がもしも将来、平民に落とされるならば、平民の暮らしを把握するのは不可欠だ。
しかし、公爵令嬢の私は買い物をするにも、邸に商会がやって来るし、カフェやレストランに行くにも、馬車で店の前に横付けだ。
街を歩く機会など無い。
何より、過保護なお父様が許さない。
でも、もしかして、殿下と一緒ならば許されるんじゃない?
「平民街の視察、私も行ってみたいですわ」
試しに言ってみたら、殿下の瞳がキラリと輝いた。
「本当かい?
じゃあ、来週の交流はお茶会じゃなくて、下町散策にする?」
「良いのですか!?」
「ああ。勿論だとも。
初めてのデートだね。僕も楽しみだよ」
彼はとても嬉しそうに笑った。
ーーーデート!!
言われてみればその通りなのだが、なんとも甘酸っぱい響きである。
下町散策の件は、やはりお父様が大反対した。
しかし、殿下が一緒なので、護衛が完璧である事と、お母様の説得によって、なんとか許可が降りたのだった。
当日、私を迎えに来た殿下も、裕福な平民子息風の服装だった。
帽子で輝く金髪を隠しているが、キラキラしたオーラは全く隠しきれていない。
これで、本当にお忍び出来るのか?
その彼が、私の姿を目にして、固まった。
「どうですか?商家の娘に見えます?」
クルリと回って見せて、声をかけると、彼はハッとして、みるみる顔が朱に染まった。
「・・・・・・かわいい」
「えっ?」
「いや、ごめん。
本当は、もっと上手に褒めたいんだけど、言葉にならなくて・・・」
そう言われて、私まで頬が熱くなる。
息をするように饒舌に褒められる事には、私も慣れている。
王侯貴族の男性にとって、女性を褒めるのは只のマナーであるが、こんなにもシンプルに言われると、なんだか逆に本心みたいに聞こえてしまって・・・。
暫く二人ともモジモジしていた。
周囲の使用人達が、何とも言えない表情で見守っている。
「・・・じゃあ、行こうか」
差し出された手を取る。
まだ頬の熱が引かない私達は、馬車へと乗り込んだ。
「お嬢様は、こういう服装もお似合いになりますねぇ。
すっかり大人っぽくなられて、近頃は性格も柔和になられましたし。
もう立派なレディですね」
メロディがにこやかに話しかけながら、私の髪を梳る。
前世の記憶が蘇った私は、少々性格が変わったようだ。
それと同じタイミングで寝込んでいた為、「生死の境を彷徨った事で、思う所があったのだろう」と、世間では言われている。
不審に思われる程の変化で無かった事は幸いだ。
今日の私は紺色のワンピース姿。
裾と袖口には、水色のレースが取り付けられた、シンプルで可愛らしいデザイン。
焦茶色の編み上げブーツを履いて、ちょっと裕福な商家の娘風の出立ちだ。
ジュリアン殿下とのお忍びデートの為の服装である。
切っ掛けは先週の殿下とのお茶会での出来事だった。
「リュシエンヌ嬢、これ君にお土産だよ」
そう言って手渡されたのは、木彫りのオルゴール。
ゼンマイ式で、蓋を開けると愛らしい小鳥が出てきて、クルクル回りながら音楽を奏でる。
とても可愛いが、いつも殿下がくださるプレゼントとは少し違って、庶民的な物だ。
「まあ、可愛らしい!
お土産と仰いましたが、どちらで?」
「先日、お忍びで平民街の視察に行ったんだよ。
その時、露店で見付けて、君が好きそうだと思ったんだ」
「ええ、とても気に入りました。
嬉しいです」
平民街の視察!羨ましい。
私がもしも将来、平民に落とされるならば、平民の暮らしを把握するのは不可欠だ。
しかし、公爵令嬢の私は買い物をするにも、邸に商会がやって来るし、カフェやレストランに行くにも、馬車で店の前に横付けだ。
街を歩く機会など無い。
何より、過保護なお父様が許さない。
でも、もしかして、殿下と一緒ならば許されるんじゃない?
「平民街の視察、私も行ってみたいですわ」
試しに言ってみたら、殿下の瞳がキラリと輝いた。
「本当かい?
じゃあ、来週の交流はお茶会じゃなくて、下町散策にする?」
「良いのですか!?」
「ああ。勿論だとも。
初めてのデートだね。僕も楽しみだよ」
彼はとても嬉しそうに笑った。
ーーーデート!!
言われてみればその通りなのだが、なんとも甘酸っぱい響きである。
下町散策の件は、やはりお父様が大反対した。
しかし、殿下が一緒なので、護衛が完璧である事と、お母様の説得によって、なんとか許可が降りたのだった。
当日、私を迎えに来た殿下も、裕福な平民子息風の服装だった。
帽子で輝く金髪を隠しているが、キラキラしたオーラは全く隠しきれていない。
これで、本当にお忍び出来るのか?
その彼が、私の姿を目にして、固まった。
「どうですか?商家の娘に見えます?」
クルリと回って見せて、声をかけると、彼はハッとして、みるみる顔が朱に染まった。
「・・・・・・かわいい」
「えっ?」
「いや、ごめん。
本当は、もっと上手に褒めたいんだけど、言葉にならなくて・・・」
そう言われて、私まで頬が熱くなる。
息をするように饒舌に褒められる事には、私も慣れている。
王侯貴族の男性にとって、女性を褒めるのは只のマナーであるが、こんなにもシンプルに言われると、なんだか逆に本心みたいに聞こえてしまって・・・。
暫く二人ともモジモジしていた。
周囲の使用人達が、何とも言えない表情で見守っている。
「・・・じゃあ、行こうか」
差し出された手を取る。
まだ頬の熱が引かない私達は、馬車へと乗り込んだ。
149
お気に入りに追加
3,759
あなたにおすすめの小説
孤独な王女は隣国の王子と幸せになります
Karamimi
恋愛
魔力大国でもあるマレッティア王国の第7王女、カトリーナは母親の身分が低いという理由から、ずっと冷遇されてきた。孤独の中必死に生きるカトリーナだったが、ある日婚約者と異母姉に嵌められ、犯罪者にさせられてしまう。
絶望の中地下牢で過ごすカトリーナに、父親でもある国王はある判決を下す。それは魔力欠乏症で苦しんでいる大国、クレッサ王国の第二王子、ハリー殿下の魔力提供者になる事だった。
ハリー殿下は非常に魔力量が多く、魔力の提供は命に関わるとの事。実際何人もの人間が、既に命を落としているとの事だった。
唯一信じていた婚約者にも裏切られ、誰からも必要とされない自分が、誰かの役に立てるかもしれない。それが自分の命を落とす事になったとしても…
そう思ったカトリーナは、話しを聞かされた翌日。早速クレッサ王国に向かう事になったのだった。
誰からも必要とされていないと思い込んでいた孤独な王女、カトリーナと、自分が生きている事で他の人の命を奪ってしまう事に苦しみ、生きる事を諦めかけていた王子との恋の話しです。
全35話、8万文字程度のお話です。
既に書き上げております。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です
悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!
神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう.......
だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!?
全8話完結 完結保証!!
【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~
Rohdea
恋愛
───私は名前も居場所も全てを奪われ失い、そして、死んだはず……なのに!?
公爵令嬢のドロレスは、両親から愛され幸せな生活を送っていた。
そんなドロレスのたった一つの不満は婚約者の王子様。
王家と家の約束で生まれた時から婚約が決定していたその王子、アレクサンドルは、
人前にも現れない、ドロレスと会わない、何もしてくれない名ばかり婚約者となっていた。
そんなある日、両親が事故で帰らぬ人となり、
父の弟、叔父一家が公爵家にやって来た事でドロレスの生活は一変し、最期は殺されてしまう。
───しかし、死んだはずのドロレスが目を覚ますと、何故か殺される前の過去に戻っていた。
(残された時間は少ないけれど、今度は殺されたりなんかしない!)
過去に戻ったドロレスは、
両親が親しみを込めて呼んでくれていた愛称“ローラ”を名乗り、
未来を変えて今度は殺されたりしないよう生きていく事を決意する。
そして、そんなドロレス改め“ローラ”を助けてくれたのは、名ばかり婚約者だった王子アレクサンドル……!?
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる