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1 乙女ゲームの中の世界
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第4王子の執務室。
無機質な内装のその部屋に、場違いな甘い焼き菓子の香りが立ち込める。
婚約者の私達は、彼の執務と私の王子妃教育の休憩時間を調整して、頻繁にここで一緒にお茶を楽しむ。
蔦の模様が緻密に描かれた上品なティーカップを、ゆっくりとソーサーに戻しながら、私は口を開いた。
「ジュリアン殿下、私は家格が高いと言う理由だけで選ばれた婚約者です。
もしも、ジュリアン殿下が心を寄せるご令嬢や、私よりも王子妃に相応しいご令嬢が現れたなら、いつでも婚約解消に応じますので、遠慮なく仰って下さいませ」
微笑みながらそう言うと、先程まで上機嫌だった筈の、殿下の美しい顔が一瞬で曇る。
すっと目を細めて、冷ややかな視線で見据えられると、心臓がドクンと跳ねた。
「それは、僕とは結婚をしたく無いと言う意味かな?」
「まさか。そんな恐れ多い事は考えておりません。
ただ、私は容姿も十人並ですし、魔力量も平均程度しかありませんので、王子妃に相応しいとは思えません」
慌てて否定するも、殿下が発する冷気は増すばかり。
「理由はそれだけ?
なら、良いんだけど・・・。
もしかして他に好きな男でもいるんじゃないかと思ってしまったよ」
「滅相もないです」
「僕は君の容姿も性格も好ましく思っているのだから、何も問題は無い。
王子妃教育も順調で、苦手な科目も頑張っていると聞くよ。
僕の婚約者はリュシーだけだ。
あまり妙な事は考えないように」
殿下は漸く冷気を発するのをやめて、甘やかに微笑んだ。
「有り難いお言葉、感謝いたします」
そう答えつつも、私は心の中で深くため息を吐く。
私は、リュシエンヌ・ベルジュロン公爵令嬢。
この国の第4王子、ジュリアン殿下の婚約者だ。
・・・と言っても、私は王子妃に選ばれる程の容姿も才能も無い。
ただ第4王子と同世代に、公爵家や侯爵家のご令嬢が、私しかいなかったので選ばれただけなのである。
だから、きっとその内、この婚約は破棄されることだろう。
まあ、婚約破棄されると思う大きな理由は、他にもあるのだが・・・・・・。
実は、私には、前世の記憶がある。
〝異世界転生〟
前世では、その手の小説を読んだ事はあったのだが、まさかそれが自分の身に降り掛かるなんて・・・・・・。
そして問題は、この世界が乙女ゲームの中の世界であり、更に私が悪役令嬢だと言う事なのだ。
と言っても、私はこのゲームを一度もプレイしていないし、前世の記憶も年々薄れてきているので、詳しい内容は分からないのだが・・・・・・。
「ねぇ、たまにはアンタも乙女ゲームやってごらんよ。
ほら、これなんかオススメ」
そう言って、ゲームのパッケージを私に手渡したのは、当時の親友。
名前はもう思い出せない。
「えー?乙女ゲーム苦手なんだよね」
「知ってる。
でも、これはキザな台詞とかも少なめだし、逆ハーエンドも無いし、悪役令嬢の断罪も平民落ち一択だから、乙女ゲーム感はあんまり無いよ」
「は?逆にそれの何処が面白いのよ?」
「このゲームのメイン攻略対象は、第4王子なの。
王子ルートを選ぶと、王位継承権が低い王子を、ヒロインが支えながら、玉座を目指すサクセスストーリーになるんだ。
貸してあげるから、やってみなよ」
「うーん・・・・・・やめとく」
ーーーやめんのかーーい!!
いやマジで、プレイしとけよ、前世の自分!!
そんな訳で、私が持っている情報は、前世の親友が言っていた話と、パッケージに書かれていた内容だけなのだ。
無機質な内装のその部屋に、場違いな甘い焼き菓子の香りが立ち込める。
婚約者の私達は、彼の執務と私の王子妃教育の休憩時間を調整して、頻繁にここで一緒にお茶を楽しむ。
蔦の模様が緻密に描かれた上品なティーカップを、ゆっくりとソーサーに戻しながら、私は口を開いた。
「ジュリアン殿下、私は家格が高いと言う理由だけで選ばれた婚約者です。
もしも、ジュリアン殿下が心を寄せるご令嬢や、私よりも王子妃に相応しいご令嬢が現れたなら、いつでも婚約解消に応じますので、遠慮なく仰って下さいませ」
微笑みながらそう言うと、先程まで上機嫌だった筈の、殿下の美しい顔が一瞬で曇る。
すっと目を細めて、冷ややかな視線で見据えられると、心臓がドクンと跳ねた。
「それは、僕とは結婚をしたく無いと言う意味かな?」
「まさか。そんな恐れ多い事は考えておりません。
ただ、私は容姿も十人並ですし、魔力量も平均程度しかありませんので、王子妃に相応しいとは思えません」
慌てて否定するも、殿下が発する冷気は増すばかり。
「理由はそれだけ?
なら、良いんだけど・・・。
もしかして他に好きな男でもいるんじゃないかと思ってしまったよ」
「滅相もないです」
「僕は君の容姿も性格も好ましく思っているのだから、何も問題は無い。
王子妃教育も順調で、苦手な科目も頑張っていると聞くよ。
僕の婚約者はリュシーだけだ。
あまり妙な事は考えないように」
殿下は漸く冷気を発するのをやめて、甘やかに微笑んだ。
「有り難いお言葉、感謝いたします」
そう答えつつも、私は心の中で深くため息を吐く。
私は、リュシエンヌ・ベルジュロン公爵令嬢。
この国の第4王子、ジュリアン殿下の婚約者だ。
・・・と言っても、私は王子妃に選ばれる程の容姿も才能も無い。
ただ第4王子と同世代に、公爵家や侯爵家のご令嬢が、私しかいなかったので選ばれただけなのである。
だから、きっとその内、この婚約は破棄されることだろう。
まあ、婚約破棄されると思う大きな理由は、他にもあるのだが・・・・・・。
実は、私には、前世の記憶がある。
〝異世界転生〟
前世では、その手の小説を読んだ事はあったのだが、まさかそれが自分の身に降り掛かるなんて・・・・・・。
そして問題は、この世界が乙女ゲームの中の世界であり、更に私が悪役令嬢だと言う事なのだ。
と言っても、私はこのゲームを一度もプレイしていないし、前世の記憶も年々薄れてきているので、詳しい内容は分からないのだが・・・・・・。
「ねぇ、たまにはアンタも乙女ゲームやってごらんよ。
ほら、これなんかオススメ」
そう言って、ゲームのパッケージを私に手渡したのは、当時の親友。
名前はもう思い出せない。
「えー?乙女ゲーム苦手なんだよね」
「知ってる。
でも、これはキザな台詞とかも少なめだし、逆ハーエンドも無いし、悪役令嬢の断罪も平民落ち一択だから、乙女ゲーム感はあんまり無いよ」
「は?逆にそれの何処が面白いのよ?」
「このゲームのメイン攻略対象は、第4王子なの。
王子ルートを選ぶと、王位継承権が低い王子を、ヒロインが支えながら、玉座を目指すサクセスストーリーになるんだ。
貸してあげるから、やってみなよ」
「うーん・・・・・・やめとく」
ーーーやめんのかーーい!!
いやマジで、プレイしとけよ、前世の自分!!
そんな訳で、私が持っている情報は、前世の親友が言っていた話と、パッケージに書かれていた内容だけなのだ。
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