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7 久し振りの交流
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学院には休まず行っているのだから、流石に体調不良という言い訳は通用しなくなって来た。
王子妃教育は再開されたが、その後のお茶会の回数は減らして貰っている。
気は進まないが、今日はそのお茶会がある日だ。
当初のショックは少し和らいできた気がするが、まだ、ふとした瞬間に胸が痛む。
出来れば、殿下とはもう少し距離を置きたいのだが、婚約者という立場上、それはなかなか難しい。
第二王子宮の庭園には、季節を問わず、青紫色の花が多く咲いている。
藤、菫、サルビア、ラベンダー、あやめ、アネモネ、他にも様々な花が時期をずらして順番に咲き乱れる。
「アルベルト殿下がご自分で選んで、植えさせたのですよ。
リリアナ様の瞳のお色を、いつも見ていたいからって」
王子付きの侍女が、いつか嬉しそうに話してくれた。
その時は、幸せだなって思ったのだけど・・・。
今となっては、その庭園でお茶をするのも、少々苦痛だ。
「リリ。久し振りに二人きりで会えて嬉しいよ」
アルベルト殿下は相変わらず、多分に熱を帯びた視線を私に向ける。
「光栄です」
俯きがちに答えたのは、笑顔が引き攣っていないか自信が無いから。
最近の私の態度に、殿下はいつも寂しそうな、悲しそうな表情をする。
もう愛している振りは必要ないのだと、言ってあげられたら、お互いに楽なのかもしれない。
しかし、それを伝えることによって、私達の関係がどう変わってしまうのかが怖くもある。
この婚約は王家からの打診だ。
ロイエンタール公爵家から解消を申し出る事も、不可能ではないかもしれないが、きっと家族の立場は悪くなるだろう。
婚約の解消を諦めるならば、これ以上関係を拗らせるのは避けたい。
そもそも、殿下のやり方が間違っている訳でもないという事は、私だって分かってる。
例え政略結婚であっても、ギスギスした夫婦になるよりは、偽りであっても仲睦まじい方がいい。
そのうち、本物の愛情が育つ事もあるかもしれないし、今回の立ち聞きさえ無ければ、私は騙されたまま幸せに暮らせたのだ。
そう、騙し続けてくれていれば。
ため息を殺して、香り立つティーカップに口を付ける。
「来週は新入生歓迎パーティーがあるだろう?
リリにドレスを用意したから、是非着て欲しい。
勿論エスコートもさせて貰うよ」
ーーー出来る事なら、全力でお断りしたい。
「でも、アルベルト殿下はミランダ王女殿下のエスコートをなさるお役目があるのでは?
ご無理なさらないで下さい」
「何故?僕の婚約者はリリだ。
王女のエスコートは校長に頼んである。
ただ、ファーストダンスだけは、王女と踊れと陛下に命令されているんだ。
ごめんね」
普通の夜会では、王と王妃が一番に、その次に他の王族やその婚約者がダンスを踊る。
学院でのパーティーは、社交の練習の場でもあるので、普通の夜会と同じようなルールが用いられる事が多い。
勿論陛下は出席しないので、一番に踊るのはライナルト殿下とアルベルト殿下、賓客であるミランダ王女、そしてそのパートナーだ。
王女様をエスコートする校長先生は、確か少し足が悪い。
歩くのは不自由無いが、ダンスは踊れないだろう。
誰かがダンスだけパートナー代理を務めねばならないが、身分が釣り合う者は少ない。
で、あれば、婚約者よりも、他国の王族である王女様への接待を優先させるのは当然か・・・。
「美男美女ですから、お二人のダンスはきっと、絵になるでしょうね。
楽しみです」
荒れる内心を隠して微笑めば、殿下が少し不快そうな表情になった。
「そうかな?
王女よりリリの方が、遥かに美しいし、僕はリリと踊りたい。
我儘王女に振り回されてばかりで、いい加減ウンザリだよ」
後半の、吐き捨てるような言い方に『愛してない』と言われた時の記憶が蘇り、自分に向けられた言葉でも無いのに、胸がザワザワする。
宣言通り、殿下からドレスと宝飾品が届いた。
殿下の瞳の色と同じ、深いグリーンのドレス。
柔らかい顔立ちの私は、濃い色のドレスがあまり似合わない。
しかし、このドレスは、上半身に金糸と銀糸を混ぜた刺繍がふんだんに施されていて、顔周りの色味を抑えてある。
殿下の髪はプラチナブロンドだから、刺繍は髪色をイメージしているのかもしれない。
宝飾品には、翡翠が使われていた。
「流石はアルベルト殿下ですね。
お嬢様の事を良くご存知だわ。
とってもお綺麗ですよ」
試着を手伝ってくれた侍女が、目をキラキラ輝かせて、嬉しそうに褒めてくれる。
「・・・・・・そうね。ありがとう」
鏡の中を見れば、確かにそのドレスは私によく似合っていた。
愛されてもいないのに、婚約者の色を纏う事には抵抗を感じるのだが、プレゼントされてしまった物を、着ない訳にもいかないだろう。
気が重いなぁ。
パーティー、休んじゃダメかしら?
王子妃教育は再開されたが、その後のお茶会の回数は減らして貰っている。
気は進まないが、今日はそのお茶会がある日だ。
当初のショックは少し和らいできた気がするが、まだ、ふとした瞬間に胸が痛む。
出来れば、殿下とはもう少し距離を置きたいのだが、婚約者という立場上、それはなかなか難しい。
第二王子宮の庭園には、季節を問わず、青紫色の花が多く咲いている。
藤、菫、サルビア、ラベンダー、あやめ、アネモネ、他にも様々な花が時期をずらして順番に咲き乱れる。
「アルベルト殿下がご自分で選んで、植えさせたのですよ。
リリアナ様の瞳のお色を、いつも見ていたいからって」
王子付きの侍女が、いつか嬉しそうに話してくれた。
その時は、幸せだなって思ったのだけど・・・。
今となっては、その庭園でお茶をするのも、少々苦痛だ。
「リリ。久し振りに二人きりで会えて嬉しいよ」
アルベルト殿下は相変わらず、多分に熱を帯びた視線を私に向ける。
「光栄です」
俯きがちに答えたのは、笑顔が引き攣っていないか自信が無いから。
最近の私の態度に、殿下はいつも寂しそうな、悲しそうな表情をする。
もう愛している振りは必要ないのだと、言ってあげられたら、お互いに楽なのかもしれない。
しかし、それを伝えることによって、私達の関係がどう変わってしまうのかが怖くもある。
この婚約は王家からの打診だ。
ロイエンタール公爵家から解消を申し出る事も、不可能ではないかもしれないが、きっと家族の立場は悪くなるだろう。
婚約の解消を諦めるならば、これ以上関係を拗らせるのは避けたい。
そもそも、殿下のやり方が間違っている訳でもないという事は、私だって分かってる。
例え政略結婚であっても、ギスギスした夫婦になるよりは、偽りであっても仲睦まじい方がいい。
そのうち、本物の愛情が育つ事もあるかもしれないし、今回の立ち聞きさえ無ければ、私は騙されたまま幸せに暮らせたのだ。
そう、騙し続けてくれていれば。
ため息を殺して、香り立つティーカップに口を付ける。
「来週は新入生歓迎パーティーがあるだろう?
リリにドレスを用意したから、是非着て欲しい。
勿論エスコートもさせて貰うよ」
ーーー出来る事なら、全力でお断りしたい。
「でも、アルベルト殿下はミランダ王女殿下のエスコートをなさるお役目があるのでは?
ご無理なさらないで下さい」
「何故?僕の婚約者はリリだ。
王女のエスコートは校長に頼んである。
ただ、ファーストダンスだけは、王女と踊れと陛下に命令されているんだ。
ごめんね」
普通の夜会では、王と王妃が一番に、その次に他の王族やその婚約者がダンスを踊る。
学院でのパーティーは、社交の練習の場でもあるので、普通の夜会と同じようなルールが用いられる事が多い。
勿論陛下は出席しないので、一番に踊るのはライナルト殿下とアルベルト殿下、賓客であるミランダ王女、そしてそのパートナーだ。
王女様をエスコートする校長先生は、確か少し足が悪い。
歩くのは不自由無いが、ダンスは踊れないだろう。
誰かがダンスだけパートナー代理を務めねばならないが、身分が釣り合う者は少ない。
で、あれば、婚約者よりも、他国の王族である王女様への接待を優先させるのは当然か・・・。
「美男美女ですから、お二人のダンスはきっと、絵になるでしょうね。
楽しみです」
荒れる内心を隠して微笑めば、殿下が少し不快そうな表情になった。
「そうかな?
王女よりリリの方が、遥かに美しいし、僕はリリと踊りたい。
我儘王女に振り回されてばかりで、いい加減ウンザリだよ」
後半の、吐き捨てるような言い方に『愛してない』と言われた時の記憶が蘇り、自分に向けられた言葉でも無いのに、胸がザワザワする。
宣言通り、殿下からドレスと宝飾品が届いた。
殿下の瞳の色と同じ、深いグリーンのドレス。
柔らかい顔立ちの私は、濃い色のドレスがあまり似合わない。
しかし、このドレスは、上半身に金糸と銀糸を混ぜた刺繍がふんだんに施されていて、顔周りの色味を抑えてある。
殿下の髪はプラチナブロンドだから、刺繍は髪色をイメージしているのかもしれない。
宝飾品には、翡翠が使われていた。
「流石はアルベルト殿下ですね。
お嬢様の事を良くご存知だわ。
とってもお綺麗ですよ」
試着を手伝ってくれた侍女が、目をキラキラ輝かせて、嬉しそうに褒めてくれる。
「・・・・・・そうね。ありがとう」
鏡の中を見れば、確かにそのドレスは私によく似合っていた。
愛されてもいないのに、婚約者の色を纏う事には抵抗を感じるのだが、プレゼントされてしまった物を、着ない訳にもいかないだろう。
気が重いなぁ。
パーティー、休んじゃダメかしら?
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