【完結】さよなら、大好きだった

miniko

文字の大きさ
上 下
26 / 28

26 卒業祝い(最終話)

しおりを挟む
《side:ルルーシア》


そして、私達は卒業の日を迎えた。
色々あった学生生活も、今日で終わると思うと感慨深い。

入学した当時には考えられなかった方向へ、私の運命は激変した。
素敵な婚約者にエスコートされて、卒業式に向かう事になるなんて、あの頃の私は思いもしなかっただろう。


「おはよう、ルルーシア」

ビリンガム伯爵邸に迎えに来てくれたローレンス様は、大きな花束と封筒を携えていた。
その花束を私に差し出す彼は、なんとも言えない複雑な表情をしていた。

「それは?」

「ルルーシアに。
・・・と言っても、残念ながら俺からでは無い。
エイムズ家の方に、ルルーシア宛に送られて来たんだけど、差出人の名前が無かったんだ」

「一体誰が・・・・・・?」

様々な種類の花を一輪づつ集めて束ねた、珍しい花束。
ともするとゴチャゴチャとした印象になってしまいそうだが、何故か不思議と調和が取れていて、まるで春の庭園を凝縮したみたい。

「素敵・・・」

花束を胸に抱えると、不思議と温かな気持ちになった。

(どこかで同じ様な花束を見た事がある様な気がするわ。
どこだったかしら?)

微かな既視感を覚えて、記憶の引き出しを探っても、その正体は掴めなかった。

「俺以外に貰った花束でルルーシアがそんな顔をするなんて、ちょっと妬けるな」

ローレンス様の不機嫌な呟きに、思わず笑みが零れた。

「差出人が男性とは限りませんよ?」

「女性でも嫌だ」

どうやら彼が嫉妬深いと言うのは本当らしい。

「・・・・・・で、俺からの卒業祝いはコッチ」

それは書類を入れる様な茶封筒。

「済みません、私はローレンス様に卒業祝いの贈り物を用意していなくて・・・」

「気にしないで良い。
俺がルルーシアにあげたいと思って、勝手に用意しただけだから。
開けてみてよ」

促されて、封筒の中身を取り出す。

「・・・・・・これ・・・っ!」

勢い良く顔を上げてローレンス様を見ると、彼は優しく微笑んでいた。

「気に入ってくれた?」

封筒の中身は、旧ブルーノ子爵領の権利書だった。

「・・・どうして?」

「ブルーノ元子爵が領地を没収された後、王家は信頼出来る貴族に旧ブルーノ領を任せて立て直しをさせるつもりだったんだ。
だけど、採算を取るのが難しい領地の管理に手を挙げる者がいなかったらしい。
丁度良いからウチが手を挙げた。
ルルーシアは領地の事を気に掛けていたから」

カーライル家に嫁に行けと言われた時も、ビリンガム家の養女になった時も、ブルーノ子爵家や家族には全く未練は無かった。
だけど、クレヴァリー様に教えて貰った方法で数年後に効果が出始めるはずの領地改革の結果を、自分の目で確認出来ない事は、唯一の心残りだったのだ。

(ローレンス様は、そんな私の気持ちに気付いていたのね・・・)

感極まって返事が出来ず、ただコクコクと頷く。

「喜んで貰えて良かった」

ローレンス様は私をそっと抱き締め、優しく髪を撫でた。


「・・・・・・いつまでイチャついてるの?
早く出発しないと、卒業式に遅刻しますよ」

呆れた様に声を掛けたのは、お義母様だった。

「ほら二人共、早く馬車に乗りなさい。
ルルーシア、私達家族も後から行きますからね」

式典には卒業生の家族も出席出来る。
お義父様やお義兄様達も、わざわざお仕事をお休みしてくれたらしく、みんなで出席してくれる予定だ。
自分の卒業式に家族が総出で出席してくれると言うのも、以前の私の境遇からは考えられなかった事。

「はい、行ってきます」

馬車に乗り込んだ私は、窓越しにお義母様に手を振った。


「こんなに幸せで良いのかな?」

「これからもっと幸せになるんだよ」

隣に座ったローレンス様と視線を交わして微笑み合う。


私達を乗せた馬車は、ゆっくりと走り出す。

その先に待っているのは、大切な人達と共に過ごす温かな日々。



【本編 終】

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

あなたに、愛などないはずでした

空野はる
恋愛
貴族学園の卒業パーティーが数日後に迫ったその日。 婚約者であるブレイドは、ティアに婚約解消を提案してきた。 身勝手な理由に一度は断るティアだが、迎えた卒業パーティーで婚約破棄を宣言されることに。 今までずっと耐えてきた果ての婚約破棄。 ついに我慢の限界を迎えたティアは、断罪を決意する。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

近すぎて見えない

綾崎オトイ
恋愛
当たり前にあるものには気づけなくて、無くしてから気づく何か。 ずっと嫌だと思っていたはずなのに突き放されて初めてこの想いに気づくなんて。 わざと護衛にまとわりついていたお嬢様と、そんなお嬢様に毎日付き合わされてうんざりだと思っていた護衛の話。

【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。 彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。 そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。 ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。 彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。 しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。 それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。 私はお姉さまの代わりでしょうか。 貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。 そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。 8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。 https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE MAGI様、ありがとうございます! イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。

処理中です...