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26 卒業祝い(最終話)
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《side:ルルーシア》
そして、私達は卒業の日を迎えた。
色々あった学生生活も、今日で終わると思うと感慨深い。
入学した当時には考えられなかった方向へ、私の運命は激変した。
素敵な婚約者にエスコートされて、卒業式に向かう事になるなんて、あの頃の私は思いもしなかっただろう。
「おはよう、ルルーシア」
ビリンガム伯爵邸に迎えに来てくれたローレンス様は、大きな花束と封筒を携えていた。
その花束を私に差し出す彼は、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
「それは?」
「ルルーシアに。
・・・と言っても、残念ながら俺からでは無い。
エイムズ家の方に、ルルーシア宛に送られて来たんだけど、差出人の名前が無かったんだ」
「一体誰が・・・・・・?」
様々な種類の花を一輪づつ集めて束ねた、珍しい花束。
ともするとゴチャゴチャとした印象になってしまいそうだが、何故か不思議と調和が取れていて、まるで春の庭園を凝縮したみたい。
「素敵・・・」
花束を胸に抱えると、不思議と温かな気持ちになった。
(どこかで同じ様な花束を見た事がある様な気がするわ。
どこだったかしら?)
微かな既視感を覚えて、記憶の引き出しを探っても、その正体は掴めなかった。
「俺以外に貰った花束でルルーシアがそんな顔をするなんて、ちょっと妬けるな」
ローレンス様の不機嫌な呟きに、思わず笑みが零れた。
「差出人が男性とは限りませんよ?」
「女性でも嫌だ」
どうやら彼が嫉妬深いと言うのは本当らしい。
「・・・・・・で、俺からの卒業祝いはコッチ」
それは書類を入れる様な茶封筒。
「済みません、私はローレンス様に卒業祝いの贈り物を用意していなくて・・・」
「気にしないで良い。
俺がルルーシアにあげたいと思って、勝手に用意しただけだから。
開けてみてよ」
促されて、封筒の中身を取り出す。
「・・・・・・これ・・・っ!」
勢い良く顔を上げてローレンス様を見ると、彼は優しく微笑んでいた。
「気に入ってくれた?」
封筒の中身は、旧ブルーノ子爵領の権利書だった。
「・・・どうして?」
「ブルーノ元子爵が領地を没収された後、王家は信頼出来る貴族に旧ブルーノ領を任せて立て直しをさせるつもりだったんだ。
だけど、採算を取るのが難しい領地の管理に手を挙げる者がいなかったらしい。
丁度良いからウチが手を挙げた。
ルルーシアは領地の事を気に掛けていたから」
カーライル家に嫁に行けと言われた時も、ビリンガム家の養女になった時も、ブルーノ子爵家や家族には全く未練は無かった。
だけど、クレヴァリー様に教えて貰った方法で数年後に効果が出始めるはずの領地改革の結果を、自分の目で確認出来ない事は、唯一の心残りだったのだ。
(ローレンス様は、そんな私の気持ちに気付いていたのね・・・)
感極まって返事が出来ず、ただコクコクと頷く。
「喜んで貰えて良かった」
ローレンス様は私をそっと抱き締め、優しく髪を撫でた。
「・・・・・・いつまでイチャついてるの?
早く出発しないと、卒業式に遅刻しますよ」
呆れた様に声を掛けたのは、お義母様だった。
「ほら二人共、早く馬車に乗りなさい。
ルルーシア、私達家族も後から行きますからね」
式典には卒業生の家族も出席出来る。
お義父様やお義兄様達も、わざわざお仕事をお休みしてくれたらしく、みんなで出席してくれる予定だ。
自分の卒業式に家族が総出で出席してくれると言うのも、以前の私の境遇からは考えられなかった事。
「はい、行ってきます」
馬車に乗り込んだ私は、窓越しにお義母様に手を振った。
「こんなに幸せで良いのかな?」
「これからもっと幸せになるんだよ」
隣に座ったローレンス様と視線を交わして微笑み合う。
私達を乗せた馬車は、ゆっくりと走り出す。
その先に待っているのは、大切な人達と共に過ごす温かな日々。
【本編 終】
そして、私達は卒業の日を迎えた。
色々あった学生生活も、今日で終わると思うと感慨深い。
入学した当時には考えられなかった方向へ、私の運命は激変した。
素敵な婚約者にエスコートされて、卒業式に向かう事になるなんて、あの頃の私は思いもしなかっただろう。
「おはよう、ルルーシア」
ビリンガム伯爵邸に迎えに来てくれたローレンス様は、大きな花束と封筒を携えていた。
その花束を私に差し出す彼は、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
「それは?」
「ルルーシアに。
・・・と言っても、残念ながら俺からでは無い。
エイムズ家の方に、ルルーシア宛に送られて来たんだけど、差出人の名前が無かったんだ」
「一体誰が・・・・・・?」
様々な種類の花を一輪づつ集めて束ねた、珍しい花束。
ともするとゴチャゴチャとした印象になってしまいそうだが、何故か不思議と調和が取れていて、まるで春の庭園を凝縮したみたい。
「素敵・・・」
花束を胸に抱えると、不思議と温かな気持ちになった。
(どこかで同じ様な花束を見た事がある様な気がするわ。
どこだったかしら?)
微かな既視感を覚えて、記憶の引き出しを探っても、その正体は掴めなかった。
「俺以外に貰った花束でルルーシアがそんな顔をするなんて、ちょっと妬けるな」
ローレンス様の不機嫌な呟きに、思わず笑みが零れた。
「差出人が男性とは限りませんよ?」
「女性でも嫌だ」
どうやら彼が嫉妬深いと言うのは本当らしい。
「・・・・・・で、俺からの卒業祝いはコッチ」
それは書類を入れる様な茶封筒。
「済みません、私はローレンス様に卒業祝いの贈り物を用意していなくて・・・」
「気にしないで良い。
俺がルルーシアにあげたいと思って、勝手に用意しただけだから。
開けてみてよ」
促されて、封筒の中身を取り出す。
「・・・・・・これ・・・っ!」
勢い良く顔を上げてローレンス様を見ると、彼は優しく微笑んでいた。
「気に入ってくれた?」
封筒の中身は、旧ブルーノ子爵領の権利書だった。
「・・・どうして?」
「ブルーノ元子爵が領地を没収された後、王家は信頼出来る貴族に旧ブルーノ領を任せて立て直しをさせるつもりだったんだ。
だけど、採算を取るのが難しい領地の管理に手を挙げる者がいなかったらしい。
丁度良いからウチが手を挙げた。
ルルーシアは領地の事を気に掛けていたから」
カーライル家に嫁に行けと言われた時も、ビリンガム家の養女になった時も、ブルーノ子爵家や家族には全く未練は無かった。
だけど、クレヴァリー様に教えて貰った方法で数年後に効果が出始めるはずの領地改革の結果を、自分の目で確認出来ない事は、唯一の心残りだったのだ。
(ローレンス様は、そんな私の気持ちに気付いていたのね・・・)
感極まって返事が出来ず、ただコクコクと頷く。
「喜んで貰えて良かった」
ローレンス様は私をそっと抱き締め、優しく髪を撫でた。
「・・・・・・いつまでイチャついてるの?
早く出発しないと、卒業式に遅刻しますよ」
呆れた様に声を掛けたのは、お義母様だった。
「ほら二人共、早く馬車に乗りなさい。
ルルーシア、私達家族も後から行きますからね」
式典には卒業生の家族も出席出来る。
お義父様やお義兄様達も、わざわざお仕事をお休みしてくれたらしく、みんなで出席してくれる予定だ。
自分の卒業式に家族が総出で出席してくれると言うのも、以前の私の境遇からは考えられなかった事。
「はい、行ってきます」
馬車に乗り込んだ私は、窓越しにお義母様に手を振った。
「こんなに幸せで良いのかな?」
「これからもっと幸せになるんだよ」
隣に座ったローレンス様と視線を交わして微笑み合う。
私達を乗せた馬車は、ゆっくりと走り出す。
その先に待っているのは、大切な人達と共に過ごす温かな日々。
【本編 終】
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