上 下
21 / 28

21 新しい母

しおりを挟む
《side:ルルーシア》


メイジャー家からエイムズ家へ向かう馬車の中。
緊張で握り締めていた私の手に、ローレンス様の大きな手が重なる。

「まだ混乱してる?」

「少し」

「ごめん。
急展開だったもんな。
かなり強引だった自覚はあるけど、どうしてもルルーシアを失いたくなかった」

「ご両親は、この件についてなんと仰ってるんですか?」

「二人共、歓迎してるよ」

・・・・・・本当に?
没落寸前の子爵家の娘だけど、大丈夫?

私の不安を察したのか、ローレンス様はクスクス笑った。

「ルルーシアも知ってるだろうけど、母はああいう人だから、可愛い娘が出来るって楽しみにしてるし、父も・・・。
実は、ルルーシアの事は事前に調べていたみたいなんだ」

ローレンス様の話によると、夫人から『息子が親しくしている令嬢がいる』と聞いた侯爵様は、私の事を秘密裏に調査していたらしい。
ローレンス様は高位貴族の子息なのだから、当然と言えば当然の事だ。
その結果、有難い事に『家族には問題があるものの、本人には問題無し』と判断されたみたいで、侯爵様もローレンス様の計画に反対なさらなかったそうだ。

それを聞いて、私はホッと胸を撫で下ろした。

「婚約の手続きと同時に、ルルーシアはエイムズ侯爵家の傘下であるビリンガム伯爵家の養女になって貰おうと思ってるんだけど、いいかな?」

「先方が宜しければ」

「あちらもウチと縁戚になれると乗り気だ。
特に伯爵夫人は母上と同じで娘を欲しがってた人だから嬉しそうだった。
彼女は早くルルーシアに会いたいって言って、今日ウチに来てる筈だよ」

「・・・心の準備が・・・・・・」

突然決まった義母になる人との顔合わせに、私は再び緊張し始めた。



気持ちを落ち着かせる間もなく、馬車は侯爵家に到着した。
震えそうになる足を叱咤して、ローレンス様のエスコートで馬車を降りると、にこやかな二人の女性が駆け寄って来た。

「ルルーシアちゃん、いらっしゃい。
貴女がウチのお嫁さんになってくれるなんて、嬉しいわ!!」

満面の笑みの侯爵夫人に続いて、初めてお会いするご夫人も、私に挨拶をしてくれた。

「初めまして!
私はジェマ・ビリンガムよ。
貴女の義母になる予定です」

「初めまして、ビリンガム夫人。
ルルーシア・ブルーノと申します」

「やだわ、ビリンガム夫人だなんて。
お義母様って呼んでちょうだい。
やっぱり女の子っていいわねぇ。
小さくって、可愛くって、良い匂いがするわ。
汗くっさいウチの馬鹿息子達とは大違い!
それにしても細いわね~。
ちゃんとご飯食べてる?」

(汗くっさい・・・・・・?)

ビリンガム伯爵家は武人の家系だ。
子息が三人いるが、皆んな王宮で騎士をしているムキムキの筋肉マンだと言う。
確かに可愛いとは対極のタイプかもしれないけど・・・・・・

「二人共、テンション高過ぎ。
ルルーシアがビックリしてるから」

グイグイ来る伯爵夫人に若干戸惑っていると、ローレンス様が苦笑しながら間に入ってくれた。
押しの強さには驚いたけど、嫌ではない。
歓迎してくれて嬉しい。



立ち話もなんだからと、応接室に移動する。

二人の夫人とローレンス様の話し合いの結果、私はこのまま数日間はエイムズ侯爵家に滞在し、ビリンガム伯爵家の受け入れ態勢が整い次第そちらに移動させて貰う事になった。
私はと言えば、自分の状況が目まぐるしく変化するのに付いて行くので精一杯。
オロオロしている間に全てが決まっていた。


「ところで、あの、侯爵様はどちらに・・・?」

当主様にご挨拶をしなくても良いのだろうか?
すると、侯爵夫人が申し訳なさそうに私の問いに答えた。

「今日はあの人もルルーシアちゃんをお迎えする予定だったんだけどね、急遽領地に行く事になっちゃって。
帰って来るのは明日になるわね」

「そうですか・・・」

侯爵様も反対はしていないと聞いたけれど、お会いして確かめる迄は、やっぱり不安だ。

私の表情が少し曇ったのを感じたのか、安心させる様に侯爵夫人は笑った。

「大丈夫よ。そんなに心配しなくても。
あの人だって、女性不信気味で後継ぎを作れないんじゃないかって心配していたローレンスが『妻に迎えたい女性が居る』と言い出した事を凄く喜んでいるのだから」

───はっ!?!?

「女性、不信・・・・・・、ですか?
ローレンス様がっ!?」

思いもよらない言葉に驚いて、ローレンス様の顔を凝視すると、彼は気まずそうにフイッと目を逸らした。

「まあ、その話は追々・・・」

どうやら私達には、まだまだお互いに知らない事が沢山あるらしい。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください

みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。 自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。 主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが……… 切ない話を書きたくて書きました。 ハッピーエンドです。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。 彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。 そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。 ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。 彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。 しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。 それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。 私はお姉さまの代わりでしょうか。 貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。 そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。 8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。 https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE MAGI様、ありがとうございます! イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

本日はお日柄も良く、白い結婚おめでとうございます。

待鳥園子
恋愛
とある誤解から、白い結婚を二年続け別れてしまうはずだった夫婦。 しかし、別れる直前だったある日、夫の態度が豹変してしまう出来事が起こった。 ※両片思い夫婦の誤解が解けるさまを、にやにやしながら読むだけの短編です。

いっそあなたに憎まれたい

石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。 貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。 愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。 三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。 そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。 誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。 これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。 この作品は小説家になろうにも投稿しております。 扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

処理中です...