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15 零れる
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《side:ルルーシア》
昼休み学食のテラス席で、いつもの様にローレンス様とランチを取る。
私にとっての定番メニューの、ハムとキュウリのサンドイッチをトレーに乗せて席に着くと、ローレンス様が私のトレーにプリンを置いた。
「約束だからな」
「有難うございます。
デザート付き、嬉しい!」
約束だから、あの日のローレンス様の赤くなった可愛らしいお顔は、心の奥底に大切に仕舞って、忘れた振りをしてあげようと思う。
何を隠そうプリンは私の好物だ。
学食のプリンは、なめらかな食感で美味しいと密かに人気の商品だが、私にとってデザートは贅沢品なので、普段はなかなか口にする事が出来ない。
喜ぶ私を見て、ローレンス様が優しく微笑む。
彼と一緒に居るのが嬉しいのに、楽しいのに、なんだか泣きたくなって少し俯いた。
───あぁ、胸が、痛い。
出来ればこの幸せを手放したく無い。
彼との時間が楽しければ楽しいほど、終わりを意識してしまう。
「今度の週末、また一緒に出掛けないか?」
不意にそう言われて、少し驚いた。
まさか短い契約期間中に、二度目のデートのお誘いがあるとは思わなかったから。
とても心惹かれるのだが・・・・・・。
「済みません。
今週末は、ちょっと大事な用事がありまして」
週末は、ある女性に会いに行く約束をしている。
何度もお願いして、やっと会って貰える事になった。
私の今後の為に、絶対に聞かなければいけない話があるのだ。
それの内容によっては、全てを捨てて逃げなければいけないかもしれない。
「そうか、残念だな。
じゃあ、また次の機会に」
「ええ、そうですね」
笑顔で頷いたけれど、その『次の機会』が訪れる事はおそらく無いだろう。
「次はどこに行こうか?
観劇とか、ピクニックとか?」
「美術館とかも良いですね。
王立美術館の近くには、美味しい紅茶が飲める喫茶店があるらしいですよ」
「紅茶と言えば、母が『またルルーシアちゃんに会いたいから、お茶に誘え』ってうるさくて。
昔から娘を欲しがっていたんだが、生まれた俺達は二人とも男だったからね。
どうやらルルーシアを気に入ってしまったみたいなんだ。
悪いけど、また今度ウチにも来てやってくれないか?」
「侯爵夫人に気に入って頂けるなんて、光栄です。
是非またお邪魔しますね」
幸せな未来の話をするのが辛い。
絶対に叶う事の無い約束が、胸に突き刺さる。
私は、今、ちゃんと笑えているかな?
『お前とエイムズ侯爵令息の噂が、あのお方の耳にも入ったらしい。
婚姻を早めたいと言って来ている』
昨夜、父に呼び出されて言われた言葉を思い出す。
放課後、その件でクラス担任の教師から呼び出された私は、職員室を訪れた。
ローレンス様は教室で私が戻るのを待ってくれている。
「本当に、退学しか道は無いのか?
君の様な優秀な生徒が卒業出来ないのは、本当に勿体無い。
学園長も残念がっているんだよ」
「そんな風に評価して頂けた事は本当に嬉しいです。
でも、父と先方が話し合って決めた事ですので、私にはどうにも・・・・・・」
目を伏せた私に、担任は力無く頷いた。
彼だって、この国の貴族家当主の権限の強さを知っているのだ。
「君だって好きで学園を去る訳じゃ無いもんな・・・・・・。
無理を言って悪かった。
何か、私で力になれる事があれば、いつでも連絡をして欲しい」
「ありがとうございます。
お気持ちだけで充分です」
話し合いと手続きの説明で思ったよりも時間が掛かってしまった。
教室に戻ると、ローレンス様以外の生徒達は帰宅した後だった。
自席で勉強をして待ってくれていたらしいローレンス様は、待ちくたびれたのか机に突っ伏して居眠りをしている。
とても平和で幸せな景色。
途端に寂しさが込み上げてくる。
ダメだ。
今、彼の瞳を見てしまったら、言ってはいけない言葉が零れてしまいそう。
私は鞄の中からメモ用紙とペンを取り出した。
『遅くなってごめんなさい。
急用が出来てしまったので、先に帰ります』
そう書いたメモを彼の机に置いて、彼の髪にそっと指で触れた。
「・・・・・・好き」
───ほら、零れてしまった。
彼が目を覚さない内に、行かなくちゃ。
私は足早に教室を出た。
昼休み学食のテラス席で、いつもの様にローレンス様とランチを取る。
私にとっての定番メニューの、ハムとキュウリのサンドイッチをトレーに乗せて席に着くと、ローレンス様が私のトレーにプリンを置いた。
「約束だからな」
「有難うございます。
デザート付き、嬉しい!」
約束だから、あの日のローレンス様の赤くなった可愛らしいお顔は、心の奥底に大切に仕舞って、忘れた振りをしてあげようと思う。
何を隠そうプリンは私の好物だ。
学食のプリンは、なめらかな食感で美味しいと密かに人気の商品だが、私にとってデザートは贅沢品なので、普段はなかなか口にする事が出来ない。
喜ぶ私を見て、ローレンス様が優しく微笑む。
彼と一緒に居るのが嬉しいのに、楽しいのに、なんだか泣きたくなって少し俯いた。
───あぁ、胸が、痛い。
出来ればこの幸せを手放したく無い。
彼との時間が楽しければ楽しいほど、終わりを意識してしまう。
「今度の週末、また一緒に出掛けないか?」
不意にそう言われて、少し驚いた。
まさか短い契約期間中に、二度目のデートのお誘いがあるとは思わなかったから。
とても心惹かれるのだが・・・・・・。
「済みません。
今週末は、ちょっと大事な用事がありまして」
週末は、ある女性に会いに行く約束をしている。
何度もお願いして、やっと会って貰える事になった。
私の今後の為に、絶対に聞かなければいけない話があるのだ。
それの内容によっては、全てを捨てて逃げなければいけないかもしれない。
「そうか、残念だな。
じゃあ、また次の機会に」
「ええ、そうですね」
笑顔で頷いたけれど、その『次の機会』が訪れる事はおそらく無いだろう。
「次はどこに行こうか?
観劇とか、ピクニックとか?」
「美術館とかも良いですね。
王立美術館の近くには、美味しい紅茶が飲める喫茶店があるらしいですよ」
「紅茶と言えば、母が『またルルーシアちゃんに会いたいから、お茶に誘え』ってうるさくて。
昔から娘を欲しがっていたんだが、生まれた俺達は二人とも男だったからね。
どうやらルルーシアを気に入ってしまったみたいなんだ。
悪いけど、また今度ウチにも来てやってくれないか?」
「侯爵夫人に気に入って頂けるなんて、光栄です。
是非またお邪魔しますね」
幸せな未来の話をするのが辛い。
絶対に叶う事の無い約束が、胸に突き刺さる。
私は、今、ちゃんと笑えているかな?
『お前とエイムズ侯爵令息の噂が、あのお方の耳にも入ったらしい。
婚姻を早めたいと言って来ている』
昨夜、父に呼び出されて言われた言葉を思い出す。
放課後、その件でクラス担任の教師から呼び出された私は、職員室を訪れた。
ローレンス様は教室で私が戻るのを待ってくれている。
「本当に、退学しか道は無いのか?
君の様な優秀な生徒が卒業出来ないのは、本当に勿体無い。
学園長も残念がっているんだよ」
「そんな風に評価して頂けた事は本当に嬉しいです。
でも、父と先方が話し合って決めた事ですので、私にはどうにも・・・・・・」
目を伏せた私に、担任は力無く頷いた。
彼だって、この国の貴族家当主の権限の強さを知っているのだ。
「君だって好きで学園を去る訳じゃ無いもんな・・・・・・。
無理を言って悪かった。
何か、私で力になれる事があれば、いつでも連絡をして欲しい」
「ありがとうございます。
お気持ちだけで充分です」
話し合いと手続きの説明で思ったよりも時間が掛かってしまった。
教室に戻ると、ローレンス様以外の生徒達は帰宅した後だった。
自席で勉強をして待ってくれていたらしいローレンス様は、待ちくたびれたのか机に突っ伏して居眠りをしている。
とても平和で幸せな景色。
途端に寂しさが込み上げてくる。
ダメだ。
今、彼の瞳を見てしまったら、言ってはいけない言葉が零れてしまいそう。
私は鞄の中からメモ用紙とペンを取り出した。
『遅くなってごめんなさい。
急用が出来てしまったので、先に帰ります』
そう書いたメモを彼の机に置いて、彼の髪にそっと指で触れた。
「・・・・・・好き」
───ほら、零れてしまった。
彼が目を覚さない内に、行かなくちゃ。
私は足早に教室を出た。
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