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3 恋人ごっこ
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《side:ルルーシア》
翌朝登校した私は、教室の前で深呼吸した。
「・・・・・・よし!」
意を決して扉を開けると、ローレンス様の席へ真っ直ぐに向かった。
「おはようございます」
「おはよう。ブルーノ嬢。
その髪型、似合ってるね」
「ありがとうございます。
降ろした方がエイムズ様のお好みの様でしたので、侍女にその様に指示したら、なんだか張り切られてしまって・・・」
いつもの引っ詰め髪を、毛先を緩く巻いたハーフアップに変えただけなのに、何故かクラスメイト達からの好奇の視線を感じる。
もしかして、どこか変なのだろうか?
それとも私が彼に声を掛けたせい?
「今迄の髪型よりずっと良い。
でも俺は、ブルーノ嬢のサラサラのストレートヘアも好きだけど。
あぁ、そうだ。これプレゼント」
渡されたのは長細い形の小さな箱。
「何ですか?」
「視力強制用の魔道具ネックレス。
昨日の帰りに思い立って買った」
「えっ?そんな高価な物、頂けません!」
一般的に魔道具は高額で、アクセサリー型に加工された物は更に高級品である。
青くなって受け取りを拒否したのだが・・・・・・。
「俺の我儘で、眼鏡を外して欲しいって思ったから買っただけだよ。
それに、恋人にプレゼントを贈るのは当然だろう?
遠慮なく受け取ってくれ」
「・・・・・・はい。
では、契約期間中はお借りするって事でどうでしょう?」
私から持ち掛けた恋人契約の件を引き合いに出されては、拒絶しきれなかった。
「仕方ないな、それで妥協しよう。
着けてあげるから後ろを向いて」
戸惑いながらも彼に背を向け、髪を片側に寄せる。
首筋に彼の手が微かに触れる感触がして、男性との触れ合いに慣れていない私の頬に熱が上がりそうになった。
一見すると魔道具には見えない、水色の小さな魔石が光るネックレスはとても美しい。
「可愛いよ」
「有難うございます」
眼鏡を外してみると、信じられない程に視界がクッキリしている。
これが視力矯正魔道具の力か。
経済的な余裕の無い我が家では、必要最低限の魔道具しか使った事がなかった。
「ところで、放課後はお時間大丈夫そうですか?」
「ああ、一緒に勉強する約束だったからな」
「では、放課後、図書室で」
約束を確認して、自席に戻ろうと踵を返すと、背後からローレンス様とご友人が話す声が微かに聞こえた。
「なあ、ブルーノ嬢とお前ってあんなに親しかった?」
「昨日、付き合い始めた」
「マジかよ!?
正反対の二人が?
それにしても、彼女、昨日まであんなにダサかったのに・・・。
お前に恋をすれば、どんな女でも綺麗になるのかな?」
(聞こえてますけど!?)
なかなか失礼な発言に苦笑が漏れそうになったが、次の瞬間、ローレンス様の言葉に固まってしまった。
「お前本当に見る目が無いな。
ブルーノ嬢は、地味な格好をしていただけで、元から美人だっただろう」
・・・・・・彼がモテる理由が分かった気がした。
放課後になって、図書室の席に着くなり、私は彼に一冊のノートを手渡した。
「お約束の予想問題です。
くれぐれも、他の方に譲ったり見せたりはなさらないで下さいね」
「約束する。
前の騒動の時は大変そうだったもんな」
私はその時の事を思い出し、苦々しい表情になった。
「本当ですよ。
私がテスト問題を盗み出したんじゃないかって言う人まで出て来て、いい迷惑です。
まあ、直ぐに疑いは晴れましたけど」
「どうやったらそんなに予想が当たるの?」
「普通に授業を受けていれば分かりますよ」
「いや、分からないから、皆んな苦労してるんだろう?」
あんまり普通に授業を受けていない彼がそんなことを言うので、思わず小さく笑った。
「う~ん、勉強の内容だけじゃなくて、教師の皆さんの表情とか癖とかも見ています。
それで、どの問題を重視しているのかが、大体分かります。
この学園の生徒は殆どが貴族子女ですから、顔色を読むのは得意なのでは?」
「確かにそうかもしれないが、授業中に教師をそう言う風に観察している者はいないと思うぞ。
先ず、授業内容を完璧に理解する余裕が無ければ、そんな部分にまで目が行かない。
貴女が優秀だからこそ出来るのだろう」
「と、取り敢えず、勉強、始めましょう。
分からない所があったら、聞いて下さいね」
ローレンス様からの過分な褒め言葉に少し居心地の悪い気分になった私は、慌ててその会話を打ち切った。
シンと静まり返った図書室に、鉛筆を走らせるサラサラとした音だけが響く。
(意外と綺麗な字を書くのね)
真剣に問題集に向かい始めた彼の様子を確認して、私も自分のノートに目を落とす。
あっという間に下校時間になり、ローレンス様は馬車まで私をエスコートしてくれた。
「なあ、ルルーシアって呼んで良い?」
「え・・・、何ですか?急に」
「いや、ブルーノ嬢って呼び方、他人行儀だろ。
恋人っぽく無い」
「別に、良いですけど・・・」
自分で恋を教えて欲しいなんて言った癖に、名前呼びを提案されたくらいでドキドキしてしまうのが恥ずかしい。
彼にとっては、何も特別な事じゃ無いのに。
「じゃあ、俺の事もローレンスって呼んで」
急激に縮まる距離感に、戸惑いは増すばかり。
翌朝登校した私は、教室の前で深呼吸した。
「・・・・・・よし!」
意を決して扉を開けると、ローレンス様の席へ真っ直ぐに向かった。
「おはようございます」
「おはよう。ブルーノ嬢。
その髪型、似合ってるね」
「ありがとうございます。
降ろした方がエイムズ様のお好みの様でしたので、侍女にその様に指示したら、なんだか張り切られてしまって・・・」
いつもの引っ詰め髪を、毛先を緩く巻いたハーフアップに変えただけなのに、何故かクラスメイト達からの好奇の視線を感じる。
もしかして、どこか変なのだろうか?
それとも私が彼に声を掛けたせい?
「今迄の髪型よりずっと良い。
でも俺は、ブルーノ嬢のサラサラのストレートヘアも好きだけど。
あぁ、そうだ。これプレゼント」
渡されたのは長細い形の小さな箱。
「何ですか?」
「視力強制用の魔道具ネックレス。
昨日の帰りに思い立って買った」
「えっ?そんな高価な物、頂けません!」
一般的に魔道具は高額で、アクセサリー型に加工された物は更に高級品である。
青くなって受け取りを拒否したのだが・・・・・・。
「俺の我儘で、眼鏡を外して欲しいって思ったから買っただけだよ。
それに、恋人にプレゼントを贈るのは当然だろう?
遠慮なく受け取ってくれ」
「・・・・・・はい。
では、契約期間中はお借りするって事でどうでしょう?」
私から持ち掛けた恋人契約の件を引き合いに出されては、拒絶しきれなかった。
「仕方ないな、それで妥協しよう。
着けてあげるから後ろを向いて」
戸惑いながらも彼に背を向け、髪を片側に寄せる。
首筋に彼の手が微かに触れる感触がして、男性との触れ合いに慣れていない私の頬に熱が上がりそうになった。
一見すると魔道具には見えない、水色の小さな魔石が光るネックレスはとても美しい。
「可愛いよ」
「有難うございます」
眼鏡を外してみると、信じられない程に視界がクッキリしている。
これが視力矯正魔道具の力か。
経済的な余裕の無い我が家では、必要最低限の魔道具しか使った事がなかった。
「ところで、放課後はお時間大丈夫そうですか?」
「ああ、一緒に勉強する約束だったからな」
「では、放課後、図書室で」
約束を確認して、自席に戻ろうと踵を返すと、背後からローレンス様とご友人が話す声が微かに聞こえた。
「なあ、ブルーノ嬢とお前ってあんなに親しかった?」
「昨日、付き合い始めた」
「マジかよ!?
正反対の二人が?
それにしても、彼女、昨日まであんなにダサかったのに・・・。
お前に恋をすれば、どんな女でも綺麗になるのかな?」
(聞こえてますけど!?)
なかなか失礼な発言に苦笑が漏れそうになったが、次の瞬間、ローレンス様の言葉に固まってしまった。
「お前本当に見る目が無いな。
ブルーノ嬢は、地味な格好をしていただけで、元から美人だっただろう」
・・・・・・彼がモテる理由が分かった気がした。
放課後になって、図書室の席に着くなり、私は彼に一冊のノートを手渡した。
「お約束の予想問題です。
くれぐれも、他の方に譲ったり見せたりはなさらないで下さいね」
「約束する。
前の騒動の時は大変そうだったもんな」
私はその時の事を思い出し、苦々しい表情になった。
「本当ですよ。
私がテスト問題を盗み出したんじゃないかって言う人まで出て来て、いい迷惑です。
まあ、直ぐに疑いは晴れましたけど」
「どうやったらそんなに予想が当たるの?」
「普通に授業を受けていれば分かりますよ」
「いや、分からないから、皆んな苦労してるんだろう?」
あんまり普通に授業を受けていない彼がそんなことを言うので、思わず小さく笑った。
「う~ん、勉強の内容だけじゃなくて、教師の皆さんの表情とか癖とかも見ています。
それで、どの問題を重視しているのかが、大体分かります。
この学園の生徒は殆どが貴族子女ですから、顔色を読むのは得意なのでは?」
「確かにそうかもしれないが、授業中に教師をそう言う風に観察している者はいないと思うぞ。
先ず、授業内容を完璧に理解する余裕が無ければ、そんな部分にまで目が行かない。
貴女が優秀だからこそ出来るのだろう」
「と、取り敢えず、勉強、始めましょう。
分からない所があったら、聞いて下さいね」
ローレンス様からの過分な褒め言葉に少し居心地の悪い気分になった私は、慌ててその会話を打ち切った。
シンと静まり返った図書室に、鉛筆を走らせるサラサラとした音だけが響く。
(意外と綺麗な字を書くのね)
真剣に問題集に向かい始めた彼の様子を確認して、私も自分のノートに目を落とす。
あっという間に下校時間になり、ローレンス様は馬車まで私をエスコートしてくれた。
「なあ、ルルーシアって呼んで良い?」
「え・・・、何ですか?急に」
「いや、ブルーノ嬢って呼び方、他人行儀だろ。
恋人っぽく無い」
「別に、良いですけど・・・」
自分で恋を教えて欲しいなんて言った癖に、名前呼びを提案されたくらいでドキドキしてしまうのが恥ずかしい。
彼にとっては、何も特別な事じゃ無いのに。
「じゃあ、俺の事もローレンスって呼んで」
急激に縮まる距離感に、戸惑いは増すばかり。
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