【完結】女嫌いの公爵様は、お飾りの妻を最初から溺愛している

miniko

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26 《番外編》犬も食わない・後

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シンと静まり返った夜の空気の中、馬車が敷地に入ってくる音が、微かに聞こえてきた。

「旦那様がお帰りになった様ですね」

「そのようね」

イバンに促され、玄関ホールへ向かう私の足取りは重い。

「トリシア、ただいま。
遅くなって済まないね」

ダンは私の姿を目にすると、いつもと同じ蕩ける様な笑みを浮かべる。
ハグをしようと伸ばされた手に、私の肩が、ピクリと震えた。

(女性の香水の香りとかしたら、どうしよう?)

「・・・トリシア?」

それに気付いたのか、ダンは一瞬悲しそうな表情を浮かべると、訝し気に私の顔色を窺った。

「・・・お帰りなさい。
お仕事お疲れ様でした」

笑顔が引き攣りそうになるのを、なんとか抑えて、彼の腕の中に収まり、私も彼の背中に手を回す。
いつもと同じダンの香りに包まれて、密かにホッと胸を撫で下ろした。



リビングの長椅子に隣り合って座り、ソニアが淹れてくれた紅茶を飲むダンを観察する。
普段と全く変わらない様子だけど・・・。

「どうしたの?
今日はなんだかいつもと違う」

様子がおかしいのは私の方だったみたい。

(確かめるのが、怖い。でも・・・)

怖がってばかりいないで、話し合わなければ、何も問題は解決しない。
ダンと気持ちが通じた時、私はそう学んだじゃないか。

ゴクリと唾を飲み込むと、思い切って口を開いた。

「ダン、今日の昼間、街に居ましたか?
・・・貴方に似た人を見かけたのですが」

「ああ、王宮へ書類を提出した帰りに、少し買い物をしたよ」

「どなたか、ご一緒でした?」

「叔父上と偶然会ったけど・・・」

その答えに、思わず表情が険しくなってしまう。

「・・・嘘つき」

じわりと涙が滲む。

「えぇぇっっ!?
トリシア!?どうした?」

ダンがオロオロと慌てて、私の肩を掴んだ。

「貴方が綺麗な女性と二人で居たのを見ました」

「は?どこで?」

「カフェの前で」

彼は、ほんの数秒の間考え込んだ顔をして、「ああ」と小さく呟き、少し笑った。

「トリシア、彼女はもうすぐ私達の叔母になる女性だよ。
近日中に、君にも紹介されるだろう」

「・・・おば、様?」

「そう。叔父上の事は、覚えているよね?先代公爵の」

「はい」

前の公爵は、結婚式にも出席してくれたし、ダンの話にも良く出てくる。
ダンに少しだけ面差しの似た、インテリ系の渋い美丈夫を思い出す。

「彼は学園を卒業した頃に一度結婚したが、研究にかまけ過ぎて、直ぐに妻に逃げられてね。
それから、ずっと独身を通して来たけれど、最近になって、年甲斐も無く研究助手の若い女性と恋に落ちたのだそうだ」

「それが、昼間の?」

「そう。
あの時、叔父上も一緒に居たんだ。
叔父上がカフェの会計をしている間に、私達が先に店を出て、彼を待っていただけ」

そう言われれば、ダンと彼女は適切な距離を保っていた気がする。
普段女性に冷たい彼が、親し気に微笑むのを見て冷静さを失い、正常な判断が出来なくなっていたのかも・・・・・・。

「私が街を歩いていたら、偶然、デート中の叔父上達に出くわしてね、彼女を紹介されたんだよ。
カフェでお茶を飲みながら、馴れ初めとか惚気を散々聞かされた。
それで予定外に時間を取られたから、仕事が押して、今日は帰りが少し遅くなってしまったんだ」

「元々は、何故、街に行ったのですか?」

そう聞くと、ダンは少し目を泳がせた。
何か隠してる?

「まぁ、仕方無いか・・・・・・。
今日私が買い物に行ったのは、トリシアへの結婚記念日のプレゼントを探す為だよ。
・・・本当は内緒にしたかったけど、君を不安にさせてまで隠す事じゃ無いしね」

あぁ、私と同じ目的だったのね・・・・・・。

「本当にごめんなさい、あの、私・・・」

誤解だったのだと分かって、カッと頬が熱くなった。
もう、恥ずかしいやら、申し訳ないやらで、顔を上げられない。

「ねぇ、パトリシア」

呼び掛ける声には、ほん少しの咎める気配が含まれている。
恐る恐る視線を上げると、色気をたっぷりと放つ青紫の瞳が私に向けられていた。

「君が嫉妬をしてくれたのは、とても嬉しいよ。
だけど、疑われたのは残念だ。
私の愛が、全く伝わっていなかったんだね」

そう言った彼は、言葉とは裏腹に、とても楽しそうに微笑む。

背筋が粟立った。
逃げた方が良いと、本能が告げている。

「いえ、そんな事は・・・」

「君にはもっと、愛されている事を実感して貰わないとね?」

甘過ぎる声で耳元で囁かれると、全身の力が抜けそうだ。

「あ、の、そろそろ、オリビアの様子を見に行かないと・・・」

「マリベルに任せればいい」

「でも、絵本を読む約束なので・・・」

「この時間なら、オリビアはもう、ぐっすり眠っているだろう?」

ダンはどんどん笑みを深める。

無意識に距離を取ろうとして、長椅子の端にジリジリと移動した私は、次の瞬間ダンに抱き上げられていた。
横抱きにした私の額にキスを落とした彼は、口元に意地悪な笑みを浮かべながら、熱を帯びた瞳で私を絡め取る。

「トリシア、もう二度と疑う事がない様に、じっくり教えてあげよう」



そのまま寝室に運ばれて、一晩中濃密に愛を囁き続けられ、翌日はなかなか起き上がる事が出来なかった。


昼近くに漸く起きた私は、『おかぁさまが ぜんぜん あそんでくれない!』と、柔らかなほっぺを膨らませプリプリと怒るオリビアを、必死で宥める羽目になるのだが・・・・・・

それはまた別のお話。




【今度こそ、終?】

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感想 72

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みんなの感想(72件)

カーラ
2023.11.29 カーラ

女嫌いな男が女の子を溺愛する系ってめっちゃ良いですよね👍️

2023.11.29 miniko

こちらのお話も読んで頂けて嬉しいです😆

ヒロインだけが特別って感じが萌えますよね💕

解除
aみゆa
2023.11.16 aみゆa

大好きな作品だ!溺愛サイコー٩( *˙0˙*)۶

2023.11.16 miniko

「大好きな作品」と言って頂けるなんて、本当に幸せです(*´꒳`*)ノ♡
拙作を読んで下さってありがとうございました!

解除
鴨南蛮そば
2023.02.06 鴨南蛮そば

すごく面白かったです!公爵さんが
良い味だしてる😆
グッジョブなセリフを伝授したマリベルには
いかほどの特別報酬が出たのであろうか?
あれは破壊力あるセリフでした、ムフフ😋

2023.02.06 miniko

ご感想ありがとうございます💕

楽しんで貰えたみたいで光栄です。
ヘタレな公爵のキャラを気に入って頂けて良かったε-(´∀`; )ホッ
ナイスなサポートをしたマリベルには、かなりのボーナスが出た事でしょう(^^)b
娘のソニアと一緒に豪遊したんじゃないでしょうか😆

お読み頂きありがとうございました!

解除

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