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20 残念な主人(イバン視点)
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「妻に・・・避けられている」
執務机の前に座り、頭を抱えたダニエル様が、虚ろな瞳で遠くを見ながら、そう呟いた。
ジメジメ鬱々している。
キノコが生えてきそうだ。
「そのようですねぇ」
「どうしよう。
辛い。辛過ぎる。死んだ方がマシかも知れない」
「死なないでください。
奥様が責任を感じますから」
奥様に心労を与えない為に生きろと言えば、弱々しく頷いた。
いつもは仕事が出来て完璧な我が主人だが、奥様の事になると、途端に面倒な人になる。
二ヶ月前の夜会の後から奥様との仲がギクシャクしている彼は、色々と計画して奥様を外へ連れ出そうと誘ったり、口説き文句紛いの言葉を掛けたり、プレゼントを渡したりと努力はしていたのだが効果は見られず、状況は悪化するばかり。
最初は楽観的に見ていた、私達使用人一同も、流石にこのままではマズいと心配している。
最近は、ようやく夫婦らしい雰囲気になって来たと思っていたのに・・・・・・
「原因にお心当たりは?」
「あったら、こんな風にいじけてないで、対策を考えてる。
原因が分からないのだから、先ずはトリシアに話を聞くしか無いのだろうな・・・はぁ・・・」
いじけてる自覚はあったらしい。
そして、解決の為に行動するつもりも、一応あるらしい。
全く女性に興味を示さなかったこの主人が、「ずっと片思いをしていた女性と契約結婚する」と言い出した時には、心底驚いた。
・・・と言うか、何の冗談かと思った。
後継を残すという貴族の義務を、全く考慮してない計画である。
当然、私は反対したが、彼の意思は固かった。
戸惑う私達使用人に、彼は全ての事情と自分の想いを語ってくれた。
この家に仕える者は、皆、彼を子供の頃から見守っており、深い愛情を注いでいる。
彼もまた、私達を家族の様に信頼してくれている。
その主人の強い想いを聞いて、反対し続ける事は出来なかった。
実際に公爵邸にやって来た奥様は、とても誠実で好感が持てる女性だった。
恋愛音痴の主人なので不安だったが、女性の趣味は悪くなかったらしく、心底ホッとした。
公爵家の使用人は、全員彼女の事が好きになり、いつか彼女が主人に愛情を向けてくれるのではないかという、一縷の望みに賭けていたのだ。
「トリシアは、この生活が嫌になったのかな?
私と離縁する気なのだろうか?」
「そう言えば、お二人のどちらかに好きな相手が見つかったら、離縁すると言うお約束でしたよね」
うっかり口に出してから、しまったと思った。
ガバッと顔を上げた主人の瞳が、絶望の色に染まっていく。
「・・・・・・好きな、相手?
トリシアが、エルミニオ以外に愛する男を見つけたって事か・・・?」
「まだ、そうと決まった訳では・・・」
慌てて取り繕おうとしたが、こうなってしまった主人には、私の言葉など届いていない。
「一体誰を・・・。
あの夜会で、トリシアと話した男は、エルミニオとレジェス位しか・・・。
レジェス、なのか?
いや、アイツに向けるトリシアの視線からは、恋心は感じられなかった。
それとも、あの夜会の日ではなく、もっと前に出会った誰かなのか?
どうしよう・・・。
相手がどんな男でも、祝福してあげる自信が無い」
死んだ魚の様な目で、ぶつぶつと呟く主人を見ながら、深い溜息を吐いた。
(だから最初に言ったじゃ無いか。
愛を勝ち取る努力をしろと!)
私は、奥様の幸せも願っている。
それは本当なのだが・・・
出来る事ならば、この可哀想で残念な主人を、見捨てないでもらいたい。
今の彼を元気付ける事が出来るのは、奥様だけなのだから。
執務机の前に座り、頭を抱えたダニエル様が、虚ろな瞳で遠くを見ながら、そう呟いた。
ジメジメ鬱々している。
キノコが生えてきそうだ。
「そのようですねぇ」
「どうしよう。
辛い。辛過ぎる。死んだ方がマシかも知れない」
「死なないでください。
奥様が責任を感じますから」
奥様に心労を与えない為に生きろと言えば、弱々しく頷いた。
いつもは仕事が出来て完璧な我が主人だが、奥様の事になると、途端に面倒な人になる。
二ヶ月前の夜会の後から奥様との仲がギクシャクしている彼は、色々と計画して奥様を外へ連れ出そうと誘ったり、口説き文句紛いの言葉を掛けたり、プレゼントを渡したりと努力はしていたのだが効果は見られず、状況は悪化するばかり。
最初は楽観的に見ていた、私達使用人一同も、流石にこのままではマズいと心配している。
最近は、ようやく夫婦らしい雰囲気になって来たと思っていたのに・・・・・・
「原因にお心当たりは?」
「あったら、こんな風にいじけてないで、対策を考えてる。
原因が分からないのだから、先ずはトリシアに話を聞くしか無いのだろうな・・・はぁ・・・」
いじけてる自覚はあったらしい。
そして、解決の為に行動するつもりも、一応あるらしい。
全く女性に興味を示さなかったこの主人が、「ずっと片思いをしていた女性と契約結婚する」と言い出した時には、心底驚いた。
・・・と言うか、何の冗談かと思った。
後継を残すという貴族の義務を、全く考慮してない計画である。
当然、私は反対したが、彼の意思は固かった。
戸惑う私達使用人に、彼は全ての事情と自分の想いを語ってくれた。
この家に仕える者は、皆、彼を子供の頃から見守っており、深い愛情を注いでいる。
彼もまた、私達を家族の様に信頼してくれている。
その主人の強い想いを聞いて、反対し続ける事は出来なかった。
実際に公爵邸にやって来た奥様は、とても誠実で好感が持てる女性だった。
恋愛音痴の主人なので不安だったが、女性の趣味は悪くなかったらしく、心底ホッとした。
公爵家の使用人は、全員彼女の事が好きになり、いつか彼女が主人に愛情を向けてくれるのではないかという、一縷の望みに賭けていたのだ。
「トリシアは、この生活が嫌になったのかな?
私と離縁する気なのだろうか?」
「そう言えば、お二人のどちらかに好きな相手が見つかったら、離縁すると言うお約束でしたよね」
うっかり口に出してから、しまったと思った。
ガバッと顔を上げた主人の瞳が、絶望の色に染まっていく。
「・・・・・・好きな、相手?
トリシアが、エルミニオ以外に愛する男を見つけたって事か・・・?」
「まだ、そうと決まった訳では・・・」
慌てて取り繕おうとしたが、こうなってしまった主人には、私の言葉など届いていない。
「一体誰を・・・。
あの夜会で、トリシアと話した男は、エルミニオとレジェス位しか・・・。
レジェス、なのか?
いや、アイツに向けるトリシアの視線からは、恋心は感じられなかった。
それとも、あの夜会の日ではなく、もっと前に出会った誰かなのか?
どうしよう・・・。
相手がどんな男でも、祝福してあげる自信が無い」
死んだ魚の様な目で、ぶつぶつと呟く主人を見ながら、深い溜息を吐いた。
(だから最初に言ったじゃ無いか。
愛を勝ち取る努力をしろと!)
私は、奥様の幸せも願っている。
それは本当なのだが・・・
出来る事ならば、この可哀想で残念な主人を、見捨てないでもらいたい。
今の彼を元気付ける事が出来るのは、奥様だけなのだから。
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