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16 向けられた悪意
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お姉様と目が合った瞬間、ちょっと嫌だなって思ってしまった。
勿論、お姉様の事は大好きだし、元気そうな姿が見られて嬉しい。
けど・・・・・・
イングレース公爵邸に移住してから、お姉様達と顔を合わせる機会が減って、漸くエルミニオ様を思い出す事も少なくなった。
塞がりかけた傷の瘡蓋を剥がすのは、誰だって避けたいだろう。
だから、
「申し訳ありません。
折角ですが、私はとても狭量なのです。
美しい妻が他の男と踊るのは、いくら義兄と言えども、我慢出来そうにありません」
ダンが麗しい笑みを浮かべながら、エルミニオ様の私への誘いを断ってくれた時は、正直ホッとしたのだ。
それなのに───。
「ははっ。そうかそうか、パティはとても愛されているんだね」
そう言われた瞬間、急に胸が苦しくなった。
(違う。彼は私を愛していない)
その事実が、どうしてこんなに悲しいのか。
今はまだ、答えを知りたくは無い。
「たまには実家の侯爵家にも、顔を出しなさい。
結婚した途端、遊びにも来ないって、お父様がメソメソして大変なのよ」
お姉様が肩をすくめる。
お父様が寂しがる様子が目に浮かぶ様だ。
「まあ。それでは会いに行かくちゃいけませんね」
「ええ、待ってるわ。
それじゃあ、またね」
暫くお姉様夫婦と歓談してから別れた。
「・・・済まなかった」
二人の背中が人波に消えた時、ダンがポツリと呟いた。
「なんの謝罪ですか?」
「その、ダンスの申し込みを、勝手に断って・・・」
「ダンは私の気持ちを慮って、断ってくれたのでしょう?」
「そう、なのだろうか?
自分でも分からない」
・・・・・・?
そうでなければ、なんだと言うのか?
他に理由など無いだろうに。
そこへ、レジェス様が再びやって来た。
「ダンスはどうした?」
「疲れちゃったから、ちょっと休憩~」
「休憩するなら、別の場所に行け」
「ダニーは冷たいな。
酷くない?パティちゃんどう思う?」
「馴れ馴れしく〝パティちゃん〟とか呼ぶな。
イングレース公爵夫人と呼べ。
あと、勝手にトリシアに話しかけるな。減る」
「だから、減らねぇってば!」
お二人が楽しそうに話しているので、私はこの隙に化粧室へ行くことにした。
ダンにコソッと耳打ちして、その場を離れる。
化粧室の中で、鏡を覗くと、情け無い顔の自分が映る。
先程のお姉様達との再会で波立った心を鎮めようとしたのだが、少し時間がかかってしまった。
深呼吸をして、両手で頬を軽く叩く。
(よし!もう戻らないと、ダンが心配するわ)
廊下に出ると、私を待ち構えていたらしい女性がツカツカと近寄って来た。
「どうやってダニエル様に取り入ったのよ!?」
彼女は憎しみを隠しもしない瞳で、私の事を睨み付ける。
こんなにもあからさまな悪意を向けられたのは、久し振りである。
最近は、いつもダンが隣に居てくれるから、私に直接嫌味を言ってくる人は、殆ど居なかったのだ。
「どちら様かしら?」
「セレスティナ様くらい美しい方なら分かるけれど、アルバラード侯爵家のハズレの方が彼の妻になったなんて納得出来ない!」
「挨拶も出来ない方と、お話しする義理は無いのだけれど」
「何故この私が、貴女の様な地味な女に負けなければならないの!?
何かダニエル様の弱みでも握っているのでしょう?」
「・・・・・・」
ダメだ。全く話が通じない。
私は彼女の横を通り抜けようとしたが、腕を強く掴まれてしまう。
「人の話を聞いているの!?」
いや、人の話を聞かないのは、そちらだろう。
「ダニエル様が、何故私をお選びになられたのかは、私にも分かりません。
彼に直接聞いてみてはいかが?」
溜息混じりにそう言うと、思いっきり突き飛ばされた。
「ハズレの癖に、生意気な!」
「貴様、何をしている」
彼女が私に向かって手を振り上げようとした時、背後から地を這う様な声がした。
勿論、お姉様の事は大好きだし、元気そうな姿が見られて嬉しい。
けど・・・・・・
イングレース公爵邸に移住してから、お姉様達と顔を合わせる機会が減って、漸くエルミニオ様を思い出す事も少なくなった。
塞がりかけた傷の瘡蓋を剥がすのは、誰だって避けたいだろう。
だから、
「申し訳ありません。
折角ですが、私はとても狭量なのです。
美しい妻が他の男と踊るのは、いくら義兄と言えども、我慢出来そうにありません」
ダンが麗しい笑みを浮かべながら、エルミニオ様の私への誘いを断ってくれた時は、正直ホッとしたのだ。
それなのに───。
「ははっ。そうかそうか、パティはとても愛されているんだね」
そう言われた瞬間、急に胸が苦しくなった。
(違う。彼は私を愛していない)
その事実が、どうしてこんなに悲しいのか。
今はまだ、答えを知りたくは無い。
「たまには実家の侯爵家にも、顔を出しなさい。
結婚した途端、遊びにも来ないって、お父様がメソメソして大変なのよ」
お姉様が肩をすくめる。
お父様が寂しがる様子が目に浮かぶ様だ。
「まあ。それでは会いに行かくちゃいけませんね」
「ええ、待ってるわ。
それじゃあ、またね」
暫くお姉様夫婦と歓談してから別れた。
「・・・済まなかった」
二人の背中が人波に消えた時、ダンがポツリと呟いた。
「なんの謝罪ですか?」
「その、ダンスの申し込みを、勝手に断って・・・」
「ダンは私の気持ちを慮って、断ってくれたのでしょう?」
「そう、なのだろうか?
自分でも分からない」
・・・・・・?
そうでなければ、なんだと言うのか?
他に理由など無いだろうに。
そこへ、レジェス様が再びやって来た。
「ダンスはどうした?」
「疲れちゃったから、ちょっと休憩~」
「休憩するなら、別の場所に行け」
「ダニーは冷たいな。
酷くない?パティちゃんどう思う?」
「馴れ馴れしく〝パティちゃん〟とか呼ぶな。
イングレース公爵夫人と呼べ。
あと、勝手にトリシアに話しかけるな。減る」
「だから、減らねぇってば!」
お二人が楽しそうに話しているので、私はこの隙に化粧室へ行くことにした。
ダンにコソッと耳打ちして、その場を離れる。
化粧室の中で、鏡を覗くと、情け無い顔の自分が映る。
先程のお姉様達との再会で波立った心を鎮めようとしたのだが、少し時間がかかってしまった。
深呼吸をして、両手で頬を軽く叩く。
(よし!もう戻らないと、ダンが心配するわ)
廊下に出ると、私を待ち構えていたらしい女性がツカツカと近寄って来た。
「どうやってダニエル様に取り入ったのよ!?」
彼女は憎しみを隠しもしない瞳で、私の事を睨み付ける。
こんなにもあからさまな悪意を向けられたのは、久し振りである。
最近は、いつもダンが隣に居てくれるから、私に直接嫌味を言ってくる人は、殆ど居なかったのだ。
「どちら様かしら?」
「セレスティナ様くらい美しい方なら分かるけれど、アルバラード侯爵家のハズレの方が彼の妻になったなんて納得出来ない!」
「挨拶も出来ない方と、お話しする義理は無いのだけれど」
「何故この私が、貴女の様な地味な女に負けなければならないの!?
何かダニエル様の弱みでも握っているのでしょう?」
「・・・・・・」
ダメだ。全く話が通じない。
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「人の話を聞いているの!?」
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彼に直接聞いてみてはいかが?」
溜息混じりにそう言うと、思いっきり突き飛ばされた。
「ハズレの癖に、生意気な!」
「貴様、何をしている」
彼女が私に向かって手を振り上げようとした時、背後から地を這う様な声がした。
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