【完結】女嫌いの公爵様は、お飾りの妻を最初から溺愛している

miniko

文字の大きさ
上 下
16 / 26

16 向けられた悪意

しおりを挟む
お姉様と目が合った瞬間、ちょっと嫌だなって思ってしまった。
勿論、お姉様の事は大好きだし、元気そうな姿が見られて嬉しい。
けど・・・・・・
イングレース公爵邸に移住してから、お姉様達と顔を合わせる機会が減って、漸くエルミニオ様を思い出す事も少なくなった。
塞がりかけた傷の瘡蓋を剥がすのは、誰だって避けたいだろう。

だから、

「申し訳ありません。
折角ですが、私はとても狭量なのです。
美しい妻が他の男と踊るのは、いくら義兄と言えども、我慢出来そうにありません」

ダンが麗しい笑みを浮かべながら、エルミニオ様の私への誘いを断ってくれた時は、正直ホッとしたのだ。

それなのに───。

「ははっ。そうかそうか、パティはとても愛されているんだね」

そう言われた瞬間、急に胸が苦しくなった。

(違う。彼は私を愛していない)

その事実が、どうしてこんなに悲しいのか。
今はまだ、答えを知りたくは無い。



「たまには実家の侯爵家にも、顔を出しなさい。
結婚した途端、遊びにも来ないって、お父様がメソメソして大変なのよ」 

お姉様が肩をすくめる。
お父様が寂しがる様子が目に浮かぶ様だ。

「まあ。それでは会いに行かくちゃいけませんね」

「ええ、待ってるわ。
それじゃあ、またね」

暫くお姉様夫婦と歓談してから別れた。



「・・・済まなかった」

二人の背中が人波に消えた時、ダンがポツリと呟いた。

「なんの謝罪ですか?」

「その、ダンスの申し込みを、勝手に断って・・・」

「ダンは私の気持ちを慮って、断ってくれたのでしょう?」

「そう、なのだろうか?
自分でも分からない」

・・・・・・?
そうでなければ、なんだと言うのか?
他に理由など無いだろうに。


そこへ、レジェス様が再びやって来た。

「ダンスはどうした?」

「疲れちゃったから、ちょっと休憩~」

「休憩するなら、別の場所に行け」

「ダニーは冷たいな。
酷くない?パティちゃんどう思う?」

「馴れ馴れしく〝パティちゃん〟とか呼ぶな。
イングレース公爵夫人と呼べ。
あと、勝手にトリシアに話しかけるな。減る」

「だから、減らねぇってば!」

お二人が楽しそうに話しているので、私はこの隙に化粧室へ行くことにした。
ダンにコソッと耳打ちして、その場を離れる。




化粧室の中で、鏡を覗くと、情け無い顔の自分が映る。
先程のお姉様達との再会で波立った心を鎮めようとしたのだが、少し時間がかかってしまった。
深呼吸をして、両手で頬を軽く叩く。

(よし!もう戻らないと、ダンが心配するわ)



廊下に出ると、私を待ち構えていたらしい女性がツカツカと近寄って来た。

「どうやってダニエル様に取り入ったのよ!?」

彼女は憎しみを隠しもしない瞳で、私の事を睨み付ける。
こんなにもあからさまな悪意を向けられたのは、久し振りである。
最近は、いつもダンが隣に居てくれるから、私に直接嫌味を言ってくる人は、殆ど居なかったのだ。

「どちら様かしら?」

「セレスティナ様くらい美しい方なら分かるけれど、アルバラード侯爵家のの方が彼の妻になったなんて納得出来ない!」

「挨拶も出来ない方と、お話しする義理は無いのだけれど」

「何故この私が、貴女の様な地味な女に負けなければならないの!?
何かダニエル様の弱みでも握っているのでしょう?」

「・・・・・・」

ダメだ。全く話が通じない。

私は彼女の横を通り抜けようとしたが、腕を強く掴まれてしまう。

「人の話を聞いているの!?」

いや、人の話を聞かないのは、そちらだろう。

「ダニエル様が、何故私をお選びになられたのかは、私にも分かりません。
彼に直接聞いてみてはいかが?」

溜息混じりにそう言うと、思いっきり突き飛ばされた。

「ハズレの癖に、生意気な!」

「貴様、何をしている」

彼女が私に向かって手を振り上げようとした時、背後から地を這う様な声がした。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?

チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。 そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。 約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。 しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。 もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。 リディアは知らなかった。 自分の立場が自国でどうなっているのかを。

処理中です...